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【祝1ヶ月&1万PV!】空気を読めない男、空気を読んで最強に至る ~10年間の暗黒奴隷生活。空間を数え続けた俺は、物理的な”空気”を読み切って成り上がる~  作者: ミツキイザナ
第二章 二つの風

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0107.おせっかい焼き



 視点:ヴェル


 帰り道、誰も喋らなかった。

 いや、喋れなかった。


 請求書の“1000万”という数字が、

 あまりにも現実離れしていて、

 言葉にしたらセリアが爆発しそうで。

 S級の三人ですら、無言だ。


(今のセリア、S級クラスなんじゃないか……?)


 そう錯覚するほど、

 セリアの背中から漂う圧が強かった。

 怒っているのに、怒っていると見せない怒り。

 あれは一番怖い。


 じいさんの家に着いた。

 玄関前の畑も、納屋も、夜の匂いも懐かしい。

 ……だが、見た感じまよねこ達はいない。

 キロロの姿もないが、それどころではない。


 セリアが戸を開けた。


「ただいま〜♪

 おじいちゃん、ただいま帰りました〜♪」


 絶対怒っているのにも関わらず、

 あえてそれを微塵にも感じさせない声。

 

 可愛い声なのに、底が冷たい。

 女の子の強かさを見た。

 いや、学びたくない種類の強かさだ。


 その不気味さで、アノンですら

 珍しく俺とカルドの間に逃げてきている。

 

 プルプル震えているのが伝わった。

 紅蓮の大魔導師が、ただの小動物になっている。


 じいさんはセリアの声を聞いて、

 まだ何も知らないと思ったのだろう。

 すんなり出てきた。


「おぉ、帰ってきおったか〜!

 無事なようで何よりじゃのぉ〜!」


 キコキコと自分で車輪を回し、

 現れるじいさんはニッコニコだ。

 

 ……この笑顔が、数秒後に地獄を見る。

 確定しているのがつらい。


 セリアはじいさんを見つけ次第、

 ぎゅぅ、と抱きしめるように近づいた。


「なんじゃなんじゃ、寂しかったのか?

 セリアは相変わらずじゃな。ホッホ……!?」


 じいさんの顔が変わる。

 ……セリアの圧も変わった。


「おじいちゃん? 全然怒ってないから、

 ちゃ〜んと答えてくださいね?」


 ギクゥ!!って音が聞こえた。

 絶対聞こえた。空気がひきつったもん。


 後ろからゼノンさんとディアさんの、

 ぷぷぷっと笑う声も聞こえた。


 セリアが取り出したのは、

 あの請求明細の控えである。

 紙なのに、重い。

 罪が紙になったような重さ。


「いや、あのじゃなセリア。

 これはちゃんとわけがあってじゃな??」


「はい〜。聞いてますよおじいちゃん。

 で、その訳は??」


「ワシの口から言えないところも……。

 直接見てほしいこともあってじゃな……」


「どういうことですか〜??」


 要領を得ないじいさんに、

 セリアのイライラが積もるのがわかる。

 笑顔が一ミリも崩れないのが逆に怖い。


「すまん! 必ず説明するから!

 もうちょっと待ってくれ!

 ワシは逃げも隠れもせん!!」


 バッと頭を下げるじいさん。

 ここで俺はカルドをチラッと見た。

 カルドが頷いた。

 さすが相棒。出番だという合図だ。


 助け舟を出してやる。


「まぁ、セリア。大丈夫だよ。

 ほら、やりたいことリストあったろ?

 その一部ってことで俺達は気にしないから。

 俺たちのために怒らなくてもいいよ」


 じいさんのことだ。

 ちょっとやんちゃなアレもあるだろうが、

 流石に私欲のために使う人じゃない。

 理由はあるんだろう。


 セリアもそれはわかってる。

 ただ、セリアとしても“自分のお金だけ”なら

 何も文句は言わない。

 でも、俺たちのお金も関わるから怒ってるんだ。


「ですが……それでもです」


 セリアは泣きそうな表情で振り返った。

 そこへ、震えていたアノンが飛び出した。


 いつか、セリアがアノンにやったみたいに。

 ぎゅぅっとセリアを抱きしめる。


「……妾の貸しにしておいてやる!

 大きな凡人と、意地悪な凡人の分も、

 全部、妾が建て替えておいてやろう」


 そしてセリアの顔を覗き込むように言う。


「じゃから、もう気にするでない。

 妾に返すのはいつでも構わぬ。

 妾との関係も変わらぬ。変わらず親友じゃ」


「アノン……」


 そこまで言って照れたのだろう。

 長い耳が真っ赤に染まっていくのがわかった。


「ま、まぁ妾は長命じゃからの!!

 セリアが一生かけて返したとしても、

 妾にとってはあっという間じゃ。むほほ!」


「ぷっ、どんな笑い方だよ」


 俺が吹き出すと、カルドもくくくと笑った。

 ディアさんもいい話ねぇとしんみりしている。

 ……一人だけ号泣だが。


「アノンはいづのまにごんなに立派に"……」


 千年郷のガチ泣き。見たくなかった。

 ゼノンさん、鼻すすってるし。

 やめてくれ、神々しいのに情緒がバグる。


 ……と、ここで頃合いと思ったのか。

 リーゼロッテさんが自己紹介をし始めた。


「誰だ?っテ聞きタそうナ表情かおシテんで、

 自己紹介サセてモラうがよ。

 オれぁ、オセっかイ焼キのリーゼロッテ!」


 ドヤ顔だ。木人形の方が。

 そしていつものようにゼノンさんに聞いた。


「使い方、あッてタ?」


「あっでるよ、リズぅ……」


 泣きながら言うな。

 この状況でそれ言うと、全部ギャグに落ちる。

 ……落ちてるけど。


     ◇


 というわけで、じいさんの

 「少し待ってくれ」を待つために、

 今後の話をすることになった。


「今回のAランククリアは実績になるけれど、

 依頼の昇級には何も関与しないからね」


 と、ゼノンさんが言っていた。

 つまり、Bに上がる道は今まで通りだ。


 現ランクの依頼を五つこなして

 上位依頼の受託資格を得て、

 さらに十件こなして昇級試験。

 

 Aランクをこなしたからって、

 ランクが自動で上がるわけじゃない。

 現実はドライだ。


 今回のAランクは、知名度を上げただけ。

 

 だが、Cからは依頼数が減る。

 だから指名依頼が来るように。

 という狙いだったらしい。


「というわけなら……結局俺たちは依頼待ちかぁ」


 俺がぼやくと、正論マスターが即答する。


「別にCにこだわらずなくてもいいだろう。

 EやDの依頼だってこなせばいい。

 誰かが困ってるから依頼がある」


 カルド。正しい。

 流石正論マスター。セリアも乗り気だ。


「カルドさんの言う通りですね!

 私たちは私たちで進んでいきましょう!」


「低ランクなんてパッとしないのじゃぁ」


 アノンの言葉で、

 脳内にアマドリブルの兄貴が出てきた。

 のじゃロリはテッシと同レベルだな。


 そんな作戦会議をしている間、

 ゼノンさん達は少し離れて話していた。

 最初に聞こえたのはこんな話だった。


「私達はそろそろ本来の目的を果たさねばならない。

 リズが来たのは幸いだよ。

 君にも手伝ってもらいたいんだ」


 なんの話だ?

 と思って視線を向けた瞬間、音が消えた。

 法術か何かで遮断している。

 聞かれたくない話なのだろうか。


 と言うわけで俺たちは俺たちで。

 自由の風会議をしている状況だ。


 よし、とりあえずクロムで

 低ランク依頼して人助けするか!

 と話がまとまった頃。

 賑やかな声が玄関の方から聞こえてきた。


「ミキの必殺技は天下無敵ヨ!

 もうヴェルにも勝てるヨ!!」


「そ、そんなことないでござるよ!

 ヴェル殿は実力、器、共に天上人!

 それに伸びしろがびろんびろんでござる。

 拙者達と戦ったら二秒で逝ってよしされて、

 ようこそアンダーグラウンドへされてふひぃ!」


「アンダーグラウンド?

 まよねこ君、その話にボクは興味がある。

 キミの言う2chとやらの世界なのかい?」


「ぼくおなかすいた!

 はやくセリアおねえちゃんかえってこないかな!

 きょうかえってくるんだよね?

 セリアおねえちゃんのごはんたべたい!」


 最初の二人の声は分かる。

 ……だが、残り二人は誰だ?


 と、俺たち四人の考えは一緒だったのだろう。

 玄関へ続く廊下へ視線が吸い寄せられた。


 入ってきたのはやっぱりミキとまよねこ。

 そして、知らない吟遊詩人っぽい奴と、

 ……金髪の子供?


「わ! ヴェルおにいちゃんたちだ!!

 おかえり! あいたかったよー!!」


 子供が勢いよく飛びついてきた。

 誰だ? クロムの子供か? 見覚えないぞ……?

 けど、抱きつき方がやたら馴れ馴れしい。

 嫌いじゃないが戸惑う。


 そして、その子が言った言葉で、

 俺たちに衝撃が走った。


「えへへ、ぼくがだれかわかるかな?

 ぼくね、キロロだよ! きゅーん♪」



 

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