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【祝1ヶ月&1万PV!】空気を読めない男、空気を読んで最強に至る ~10年間の暗黒奴隷生活。空間を数え続けた俺は、物理的な”空気”を読み切って成り上がる~  作者: ミツキイザナ
第二章 二つの風

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0106.凱旋



 視点:ヴェル


 土の国の風が、馬車の幌を軽く叩いていた。

 

 乾いていて、少し粉っぽくて、

 どこか鉄の匂いが混じるが嫌いじゃない。

 鍛冶の国らしい空気だ。


 見慣れたはずなのに、

 五日も旅をして戻ってくると、

 逆に“帰ってきた”って感じがするから不思議だ。


 俺たちは土の国に差し掛かり、

 あと数時間でクロムに着くところまで来ていた。


 馬車に揺られて早五日。

 寝る時は街に寄って宿屋に泊まったとはいえ、

 移動の景色にはさすがに飽きる。

 道端の草、遠くの丘、似たような岩肌。


 でも、まもなくの到着。

 

 その言葉が出ただけで、

 馬車の中の空気が一段明るくなる。


 話題は当然……報酬の話で盛り上がっていた。


「今回、私の分は必要ない」


 ゼノンさんが、当然のように言った。

 まるで「水は冷たい」と言ったみたいな口調だ。


「ボス級は君たちが片付けたんだからね」


「そうよ♡」


 ディアさんが、脚を組んだまま笑う。

 揺れる馬車の中で平然と脚を組める時点で、

 体幹がバグっていると思うが気にしない。


「それに、あえて嫌な言い方するけど、

 私たちからしたら は し た 金♡

 遠慮せずもらいなさいな」


 ……はした金。

 俺の中の“金銭感覚”という名の小動物が、

 怯えて隅っこに逃げ込んだ。


 まぁ、ディアさんはともかく、

 ゼノンさんからしたら数百万は……うん。

 

 前にアノンがポーンと魔具屋で勝手に

 1000万の買い物したし、

 お金に困ってはいないだろう。


 もし、例えばだが、俺の知らない所で。

 俺たちのツケで1000万とか言われたら……。


 その時は繚乱旋風エングレイヴしちゃうだろう。

 それを平気でするんだ。ゼノンさんはすごい。


 とはいえ、いくら持ってても困るものじゃない。

 俺たちに気を使ってくれてるんだ。

 素直に感謝しなきゃならない。


「まずはケーキじゃな。二週間も食べておらぬ。

 ディアは勿論、リズもついてくるが良い!」


 アノンが真っ先に言う。

 食欲が戦闘力を上回っているのはさすがだ。


「おじいちゃんと……あとはキロちゃん!

 ちゃんと元気にやってるでしょうか……。

 街で何か買いたいですね♪」


 セリアは相変わらず世話焼きで、目の奥が柔らかい。

 帰ったらまず“家の中の小さな平和”を確認したい顔だ。


「……まよねこの奴が楽しみだ。

 場合によってはアイツにも何か買ってやろう」


 カルドは相変わらず兄貴だ。

 言い方が不器用で淡々としてるのに、

 優しさだけは隠せてない。


 みんなが言い終えた後、アノンが俺に振る。


「お主は何に使いたいのじゃ?」


「俺か? んー……俺は貯金かな」


 言った瞬間、刺さる視線。

 夢がない、という目だ。

 やめてくれ、俺だって夢はある。


「ほ、ほら! 前回はほぼ使い切ったじゃん?

 でも今後は今回みたいに依頼の遠征とかさ、

 移動や宿泊に金使うし、行った先の店とかさ、

 なんかそこでしか買えないのあるかもだろ?」


 必死の弁明。

 カルドが小さく頷く。


「それは一理ある。

 今回の報酬は必要なものだけ使い、

 あとは取っておこう」


「そうですね! 何があるかわかりませんし!」


 セリアも納得してくれた。よかった。

 俺の貯金案が救われた。


「貧乏人は大変じゃのう。

 ケーキは父上に出してもらうから心配はいらぬ」


 いや、本来ならお前もこっち側だぞ?

 でもまあ、意見はまとまった。


 自由の風として、今回の1000万は貯金だ!


 その後も、今後の方針など話し合い、

 とりあえず三日間自由行動と決まり、

 クロムの街に着いたらギルドへ! と、

 ワクワクしながら馬車に揺られていた。


 

     ◇

 


 クロムに着いた俺たちは早速ギルドへ!


 たかだか二週間。けれど、妙に懐かしい。

 汗、酒、油、鉄、紙、インク、革。

 ギルドの匂いは“冒険者の現実”そのものだ。


 初めてカルド、シン、ラグアス。

 三人と来た時と何も変わっていない。

 それが、なんだか嬉しかった。


 扉をくぐった瞬間、歓声が上がる。


「おかえり自由の風(フライハイト)! よくやった!!」


「お前達は俺たちの誇りだぜ!!」


「カルドの兄貴ィ! 巨人ゴーレム討伐流石ッス!」


「セリアたそ〜! クンカクンカ、ハスハス!」


「あれ、あの子人形姫じゃない? またS級!?」


 飛び交う言葉。

 

 英雄扱いみたいでむず痒いが、

 なんやかんや慣れたかもしれない。

 主にS級のせいで感覚が壊れた。


「なんじゃ、なぜ妾への言葉がない?」


 ぶつぶつ言う紅蓮のちびっ子。


「そうだね。少し理解らせてあげようか」


 物騒な世界最強の魔法使い。


 やめてくれ、大人げない。

 と思った矢先、聞き慣れた声。


「よ〜ぉ! 流石だな、自由の風(フライハイト)!」


 ガレスさんだ。


「ギルド本部からも通達が来てるぜ?

 今回のMVPはお前達だってな。

 とりあえず受付に行ってこい!」


 そう言って、俺の頭を乱暴に撫でる。


「もう、俺子供じゃないんすよ!」


「何言ってんだ、十五歳だろ? へっ!」


 そのままカルドも撫でた。

 するとセリアとアノンも並び始める。

 ……え、撫でられたい側なの!?


 ガレスさんはガッハッハと

 笑いながら二人も撫で、受付へと送り出した。


     ◇


 受付へ向かう。

 

 いつも対応してくれる、

 あの受付のお姉さんだ。今日も笑顔。


「ヴェルくん、カルドくん。お疲れ様です。

 セリアちゃんもアノン様もお疲れ様っ!」


 そう言いながら数枚の書類を渡してくる。


「一枚目は依頼の報酬受領書ね。

 二枚目はパーティー変更申請書。

 ゼノン様とディアモンテ様が抜けるんだよね?」


 そうなのである。あくまであの二人は臨時。

 

 いつまでも居てもらうと心強いが、

 それに頼るダメな癖がついてしまう。

 

 “守ってもらえる”が当たり前になったら、

 俺たちの成長は終わる。


「大丈夫。君たちならちゃんとやれるはずだ。

 それに、いつでも私たちは見守ってるからね」


「そうよ♡ 貴方たちの背後には……!

 いつもアタシが立ってるわぁ〜ん♡」


「気持ち悪イ。筋肉の公害デ訴えらレロ」


 うん、心強いなぁ(棒読み)


 そう思いながら二枚の書類に、

 それぞれみんなの名前を書いていく。


 ……三枚目。


「ん?」

「えっ?」

「んぬぅ?」


 カルド、セリア、アノンの声も並ぶ。


 三枚目の書類は『請求書』。

 内容は……1000万!?


「ちょっ、これどう言うことですか??」


 俺の声が裏返る。

 貯金の話してる場合じゃない。


「えーと、ドワルンさんのお店から来ました。

 パーティー名義のツケ払いは、

 ギルドへ請求を回すことが出来るんです」


 にっこりとされるが、

 心当たりはまるっきりない。

 ……ない、はず。


「あ、一応控えがありますよ?

 購入及び受取証明書がこちらですね……。

 ゴードンさんがサインされてるようですが」


 その一言で、空気がヒヤッとした。

 俺の右後ろ。つまり、セリア。


「ちょーっと、見せていただけますか?」


 あぁ……天使の悪魔モードである。


 俺たちは恐る恐るセリアのそれを覗き込む。

 様々な魔具が買われているが……、

 中でも目を引くのはこれ。


 水陸両用、短時間飛行機能付き。

 段差も揺れなく走れる法術付き車椅子。


 セリアはニコニコしている。

 今までで一番、ニコニコしている。


「ヴェルさん、カルドさん、アノン。

 本当にごめんなさい。

 この責任は……私が取ります(低い声)」


 そうして、セリアは一人ギルドを出て行った。


 ……この件は触れないようにしておこう。

 生存戦略として。



 

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