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【祝1ヶ月&1万PV!】空気を読めない男、空気を読んで最強に至る ~10年間の暗黒奴隷生活。空間を数え続けた俺は、物理的な”空気”を読み切って成り上がる~  作者: ミツキイザナ
第二章 二つの風

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0105.迷い猫のお買い物




「いらっしゃい、ようこそ!

 あぁ、セリアちゃんのとこの!」


 魔具店の店主ドワルンが、暖かい声で迎えた。

 

 店先のランタンが揺れて、

 ガラス越しに並ぶ品々がきらりと光る。

 金属と革と、磨かれた木と、

 ほんの少し薬草の匂い。


 土の国らしい“仕事の匂い”がする店だ。


「ほぅ、顔だけでわかるのか。

 やり手じゃのうお主!」


 車椅子のゴードンが、

 ホッホッホと笑いながら顎を撫でる。


「今や自由の風(フライハイト)

 この街の誰もが注目している冒険者達。

 そのメンバーのご家族となれば当然ですよ」


 ドワルンはニヤリと笑った。

 商人の笑みじゃない。

 “職人が自分の誇りを語る前の笑み”だ。


「それに、大地喰らいを知らないなんて。

 そんな人、この街にいると思いますか?」


「ホッホッホ! じゃが世の中には、

 ソレも出来ないものがいるものじゃよ」


 ゴードンは満足げに店内へと進む。

 その後ろを、ミキが車椅子を押し、

 キロロは目を輝かせてついていく。

 

 リラはすっと店内に視線を滑らせ、

 ほう、と小さく息を吐いた。


「どれもこれも良質なものばかりだ。

 店主、これはどれもキミが作ったのかい?」


「えぇ。中には妻の作品もありますが、

 九割以上は私の作品になります」


「素晴らしい。流石、土の国だな」


 リラが本気で感動している。

 ドワルンは恐縮したようにペコリと頭を下げた。


「光栄にございます。

 早速ですが、本日は何をお探しで?」


 その目の奥が、かすかに光った。やり手の目だ。

 客が“本気の買い物”をしに来た時の目。


「いやぁ、そこでものは相談なんじゃがな?」


 ゴードンが、わざとらしく咳払いした。


 はっきり言おう。

 この一行は……お金がないのだ。


 店を選んだ理由は二つある。


 一つ目は、魔具店の服は

 大抵“本人にリサイズされる魔術”が

 服に組み込まれていること。


 成長するかもわからぬキロロには、

 これがちょうどいい。


 二つ目が大本命。

 前回ヴェル達はここにきた時に、

 一撃1000万ゴルドの買い物をした。

 つまりお得意様。

 さらに、アノンとも面識がある。

 つまり――この店なら、あの奥義が通る。


 ツケ払い。


 この作戦は、まよねこ・ミキ・リラも、

 出発前にゴードンから聞かされていた。


『そ、それは流石にダメでござるよ!』

 

『よいよい。キロロはヴェルが連れてきおった。

 なら、キロロにかかるお金は当然ながら、

 ヴェルが持つのが当然じゃろ? ホッホッホ!』


 さらに、


『ミキもヴェルが連れてきたヨ!

 ミキのモノもこれを機に買うヨ!!』

 

『ホッホッホ! ワシが許す!!』

 

『ダメでござるよぉぉぉ!!』


 まよねこの胃はその時からずっと痛い。


「ご相談、ですか。勿論お聞きいたします。

 どのようなご相談になりますか?」


 ドワルンの声は丁寧だ。

 丁寧すぎて、まよねこの喉が鳴る。


「今日買い物した代金を、

 自由の風に請求してくれるかの?」


 ──ゴクリ。


 まよねこの喉が鳴った。

 リラの喉も鳴った。

 ミキは腹が鳴った。ぐー。


 沈黙。


 一秒。

 たぶん一秒。

 だが、まよねこにとっては長い一秒だった。


 そして、その沈黙が――崩れる。


「えぇ、かしこまりました。

 お好きな物をお選びください!」


 ドワルンが即答した。


 ──ヨシッ!!


 ゴードンとミキは、同時に拳を握った。

 リラも“他人の金だが”……。

 なんて概念を捨て、同じように拳を握った。

 

 まよねこだけが、心の中で百回くらい

 「ヴェル殿すまぬぅ……」と土下座していた。


「では、店主よ。この子にリサイズ出来る服を

 いくつか見せて欲しいのじゃ」


「なるほど。お子様用にうちの服を買う方は、

 多くいらっしゃいます。ご案内いたします」


 ゴードンとリラは奥へ案内される。

 キロロは「わぁ……」と声を漏らし、

 並ぶ服に手を伸ばしそうになるのを

 リラに「まだだよ」と止められている。


 一方でミキは、

 元はまよねこの世界の記憶から生まれた存在。

 ファンタジーの魔具が並ぶ店で

 ワクワクしない方がおかしい。


「まよねこ、見るヨ!

 訳のわからない鈴があるヨ!!」


「……ダメでござるよ!

 拙者も目の前に広がる夢のカケラに、

 この魂が震えてないと言えばそれは否。

 しかし、自分で払えるわけでもないのに。

 ……ヴェル殿、かたじけないでござるぅ!!」


 誘惑に勝てないまよねこだった。

 ミキと一緒にキラキラした目で物色を始める。


 すると、ニュッとロリドワーフが現れた。

 ドワルンの奥さんだ。頭が大きく、

 幼児体型のようなロリドワーフの見た目。


「それに興味あるのかい?」


「この鈴、何に使えるヨ?」


「それはね、ミラープリントベルって言うんだ」


 奥さんは手慣れた口調で説明した。


「異なる二つの物をリンクさせることで、

 見た目はA、性能はBって具合に出来る。

 見た目で誤魔化し、性能で殴るための道具さ」


「オンラインゲームにありがちな、

 着せ替えアイテムではござらぬか!?」


 まよねこの目が輝いた。


「ただし難点があるよ。

 使ったら、ベルでまた叩かないと戻らない。

 いくつも同じ見た目を持ってたら

 取り違えて事故になる。注意だよ」


「なるほどヨ!

 これってどんなものでも出来るヨ?」


「大体のものは出来る。

 例えば、見た目は短剣、性能はロングソード。

 そんな方法で間合いを誤魔化す人もいるよ。

 だけど、マナで見てる人間には通用しない。

 マナの“質”が変わるからね」


 それを聞いて、ミキは悪い笑顔を浮かべる。

 いや、表情はいつもの“貼り付け笑顔”のまま。

 だが、顔に「ゲヘヘ」と書いてあるのがわかる。


「いくらするヨ? これ」


「10万ゴルドだよ。お買い得だね」


「買うヨ!! これでゴボウソード作るヨ!!」


 即決。

 

 まよねこが止める前に、

 ミキの購入意志は確定した。


 そして、まよねこが目を奪われたのは、

 なんの変哲もない眼鏡だった。


「こ、これはどんなメガネでござるか……?

 まさか、透視でセリア殿やアノン殿の……!

 いけない、いけないでござるよぉ! デュフ!」


 ねっとり早口が出たが、

 奥さんは一切動じず華麗にスルーする。


「それはマナの流れが見えるメガネだね。

 魔法の素養がない人にもマナの流れが見える。

 ついでに誰がかけても視力5.0になるね」


「買うでござるよぉ!!!」


 値段も聞かずに即決。

 

 幼い頃から視力に悩まされ、

 なおかつ魔法の使えぬまよねこにとって、

 これは“人生が変わる”商品だ。

 買わない理由がない。


 こうして、好き放題選びまくった。


 ミキはミラプリベルと火の魔術剣。

 まよねこはマナメガネ。

 リラは魔法用の水晶を。

 そしてゴードンは――


「段差も進めて、水陸両用で、

 少しの間空も飛べる法術付き車椅子を」

 

「かしこまりました」


 オーダーメイドである。

 遠慮の“え”もない。

 ゴードンの目が輝いている。

 玩具を買う子供の目だ。


 もちろん、キロロの服も。計五着。


「では、自由の風にツケということで、

 こちらに商品を受け取ったサインを」


 ドワルンに言われるがまま、

 値段も見ずにゴードンはサインをした。

 誰もがわかるニッコリである。


「ありがとうございました!

 またお越しください〜!


 ドワルン夫婦に見送られ、

 まよねこ一行は帰って行った。


 

 ──ちなみに会計は以下である。


 キロロの服五着   80万ゴルド

 リラの水晶     180万ゴルド

 ゴードンの車椅子  570万ゴルド

 まよねこのメガネ  30万ゴルド

 ミキのミラプリベル 10万ゴルド

 ミキの火の魔術剣  130万ゴルド


 合計1000万ゴルド。


 こうしてヴェル達は知らないところで、

 1000万の借金を抱えることになったのだ。


 

 ヴェル達が帰ってくるまで。

 ──残り十五時間。



 

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