第6話 子役デビューの話が来た
三村健午は旧知の卯月愛華の誘いでピアノの発表会に来ていた。
子供のピアノの発表会など興味はないが、次の映画で主人公の幼少期にピアノを弾ける子供を探していたのだ。原作では幼稚園の子供が良いが、そんな年齢の子供がまともにピアノを弾けるはずがない。年齢を上げて小学生にしようと原作者と話し合いが行われていたのだ。その際にピアノが上手な子供がいないか方々探し回っていたのだが、中々イメージに合う子供がいなかった。ピアノは上手だが、イメージに合わない。イメージに合いそうだがピアノが出来ないと困っていたのだ。そんな時に卯月が演奏の上手な子供がいると自慢していたのを思い出し、ピアノの発表会に赴いたのだった。
その子供は発表会でも最年少の幼稚園児だった。演奏を聞くまではきらきら星ぐらいの簡単な物だと思っていたが、彼女はショパンのノクターンを弾いてみせた。
「寂しげ」、「儚さ」、「切なさ」を上手に表現し、穏やかで憂いを感じさせるメロディで『夜想曲』を完成させたのだ。
心が震える演奏など久方ぶりだった。
子供ならではの完璧な演奏にしたいという気持ちは一切見えず、情景を切り取ったような演奏に感動し涙が出た。
「素晴らしい…」
音楽で感動して涙を流したのは初めてだ。彼女が天才だと自慢したのは本当だった。
「是非とも映画に出て貰いたいな。卯月さんに繋ぎを取って貰わないと…」
発表会も大盛況に終わり、いつもの日常に戻った私です。
今日も愛華先生のピアノ教室に出向けば、見知らぬおっさんと愛華先生がいた。
「愛華先生、こんにちは!」
見知らぬおっさんを無視して愛華先生に愛想良く挨拶をする。
おっさんは不審者なので無視だ。
「燈由ちゃん、こんにちは。あのね、燈由ちゃんに紹介したい人がいるの。」
愛華先生の言葉に
「紹介したい人?」
態と分からない振りをした。
「うん、三村健午さん。テレビのお仕事をしている人だよ。」
隣に居たおっさんの事を紹介してきた。
「三村さん、初めまして!秋月燈由です。宜しくお願いします。」
ペコっと挨拶をすると三村さんが
「俺は三村健午だよ、燈由ちゃん。宜しくな。」
手を出してきたので握手をしておく。
「燈由の母の秋月涼子です。燈由に何か御用でしょうか?」
母の問い掛けに三村が
「私は芸能プロデューサーをしています。今映画を作成している所なんです。そこでピアニストである主人公の幼少期の子役を探していまして、燈由ちゃんが役にぴったりなんです。どうか燈由ちゃんに映画に出て貰いたいと思って卯月さんにお願いしたんです。」
映画に出ないかと勧誘してきた。
芸能には興味はないが、子役のうちにお金を荒稼ぎしてニートになるのも良いかもしれない。
「燈由はまだ4歳ですよ。演技も素人ですし、そんな大役が務まるか…」
主人公がピアニストと聞いて母の興味が惹かれたようだが、私の年齢を考慮して返事を控えているようだ。
「『満月の珊瑚』はご存じでしょうか?」
「ええ、今話題の小説ですよね。」
「ここだけの話ですが今作成している映画の題名なんです。実写化が決まりまして、役者も揃ったのですが…あとは子役だけと…その子役が中々見つからず。その中で燈由さんを見つけたんです。演技の指導もしますので、どうか映画に出て貰えないでしょうか?」
三村が母を説得している中で私は愛華先生と話しをしている。
「次の曲は●ーPOPの星の砂を弾きたいなぁ。」
愛華先生はクラシックだけではなく、色々な曲を弾かせてくれるから好きだ。
「星の砂かぁ、良いわよ。でも楽譜が無いから次に用意しておくわね。燈由ちゃんは芸能界は興味ないの?」
「う~ん、興味はあるけど演技なんて出来ないし無理じゃないかなぁ。」
愛華先生と和気藹々と話していたら
「燈由ちゃんは芸能界に興味あるのかい?」
三村が割って入って来た。
「ちょっとだけだよー」
芸能界で子役として荒稼ぎ出来たら良いなぁ~って思うけどね。
そんな私の返事に
「じゃあ、映画に出ちゃう?」
母が乗り気になった。
「演技なんて出来ないよ?」
スンとした表情で応えると
「演技が出来なくても大丈夫だよ。興味があるなら映画に出てみないかい?」
三村が演技不要と言い出した。どうしても私を映画に出したいらしい。
「それなりのお給料が出るなら良いよー」
お金次第だよね!私は安くないからね!
ニコっと笑って三村を見れば引きつった表情をしたが
「その辺はお母さんと相談するね。燈由ちゃんは映画に出てくれるんだね?」
念押ししてきた。
「お金次第だよ?安くこき使われるなら出ないからね!お母さんも安いお金で映画出演OKしないでね!売れっ子子役の相場の値段を貰ってね!」
売れっ子子役の相場を貰ってねと念押ししたら
「燈由ちゃんはしっかり者ね。」
何だか感心されてしまったわ。
こうして私は映画『満月の珊瑚』に出演する事に決まったのであった。




