第5話 ピアノ発表会に出る
愛華先生のピアノ教室に通ってもう1年半になる。
「燈由ちゃん、表現力もついてきたしピアノ発表会に出てみない?」
「発表会ですか?でもそれって小学生が出るのですよね?」
私まだ幼稚園なんですけど…困惑している私に
「燈由ちゃんはエリーゼのためにが弾けるから発表会に出ても問題ないわよ。コンクールでもないし、気楽に弾いて楽しむのが目的だから大丈夫よ。」
愛華先生がにこにこと笑顔で勧めてきた。
「う~ん、愛華先生が言うなら…」
「じゃあ、曲はどの曲にしようかしら?」
「ショパンのノクターンを弾いてみたいかも。」
唯一私が好きなクラシックの曲だ。他は●ーPOPや邦楽、アニソンの挿入歌などが好きだ。今はクラシックも悪くないと思っているが、やはり昔好きだった曲をアレンジして練習曲にしている。
「じゃあ、楽譜を用意しておくわね。」
「コンクールじゃないから衣装とか要らないよね?」
母が気合入れてお姫様なドレスを用意しそうなので、先に聞いておきたい。
「そうね、でも皆お洒落してくると思うわよ?」
「母にはワンピースで良いって言って欲しいなぁ。」
精神年齢ババアにはフリフリのお姫様ドレスは着たくない。
私のフリフリ嫌いを愛華先生は知っているので彼女は苦笑しながら
「でも発表会でバレちゃうわよ?先生、怒られるのは嫌よー」
お断りされちゃった。
「じゃあ、フリフリのドレスじゃない地味なのにするにはどうしたら良い?」
駄目元で愛華先生に聞けば
「私の子供の頃のドレスを貸してあげるわ。フリフリじゃないし、どうかな?」
ドレスを貸してくれるそうだ。
「愛華先生、良いの?どんなドレス?」
「良いわよ、燈由ちゃんは頑張っているからご褒美だよ。ドレスはちょっと待っててね……これこれ。どうかな?」
愛華先生はスマホを操作して写真を見せてくれた。小さい愛華先生が写っていた。
グリーンを基調としグラデーションが綺麗なドレスだ。無駄にフリフリしてなくて、裾に刺繍が施されていて上品だった。
「愛華先生とっても綺麗ね。」
「でしょ?私のお気に入りなの。燈由ちゃんのサイズに合わせないと駄目だけどね。」
こうして私は愛華先生のドレスを借りる事になった。
ピアノの発表会は私を含めて15人だ。こども文化センターで演奏する事になった。母が張り切ってドレスを用意しようとしたが、私が愛華先生からドレスを借りる事になっていると言えば、ドレスに合わせた靴や小物を用意しだした。ティアラやイヤリングにネックレスと買い与えられた。しかもイミテーションではなく本物を、だ!お金をどれだけ注ぎ込むつもりだ!賞金だってないし、逆に参加費を支払わなければならないのに!父に言いつけたが
「お金の心配なんてしなくて良いんだよ。大人になっても使える物だから安心して買って貰いなさい。」
と何の解決にもならなかった。
ティアラが使えるのは小学生までだ。シックなドレスに合わせているだけあって上品なデザインではあるが…
「燈由ちゃん、緊張しているの?」
母の心配そうな表情に
「大丈夫だよ、お母さん。そろそろ出番だしトイレに行ってくるね。」
私はトイレに向かった。ついて来そうな母を置いてトイレの個室に入り、表現上昇補正(20%・効果は1時間)を使った。ついでにスキル表現を5まであげておく。
「ただいま」
「燈由ちゃん、楽しんでくるのよ。ママ応援してるからね。」
ママに送り出されて私は順番を待つ。
順番を待っている間、他の子供達から奇異な目で見られた。私が一番最年少なんだから仕方ない。
「ねぇ、あんたみたいなガキがいたら演奏会が台無しよ。」
真っ赤なドレスを着た小学生高学年ぐらいの女の子が話しかけてきた。
確かに4歳児がピアノを弾くとなれば単純な物をイメージするだろう。だがしかし、初対面でこの言い方はない。絶対に虐めっ子だ。私は無視を決め込めば
「どうせきらきら星ぐらいの腕前なんでしょうけど。」
言いたい放題だった。
「貴女は何の曲を弾くの?」
「チャイコフスキーの白鳥の湖のテーマよ。」
「ふーん」
初心者の練習曲じゃないか。私のショパンのノクターンの方が難しいぞ。
興味を失くした私にぎゃんぎゃんと噛みつく少女を無視して私は舞台に立った。
お辞儀をして座ってピアノのペダルが踏みやすい位置を確認して、演奏を始めた。
穏やかで憂いを感じさせるメロディで『夜想曲』のイメージを描いた演奏は4歳児とは思えないぐらいの表現力を見せつけた。
「寂しげ」、「儚さ」、「切なさ」といった印象を見せるノクターンを的確に表現してみる燈由の演奏にその場に居た全員が惹き込まれる。
あまりにも夜を切望する切なさや儚さに涙を流す者もいた。
演奏が終わるとシーンとしたので私は失敗したのか?と思ったら大きな拍手が鳴り響いた。
お辞儀をして退出する時に私に歯向かって来た少女は真っ青な表情をして俯いていた。
「残念だったね。」
これぐらいの意地悪は良いよね!と彼女に追い討ちを掛けて母の所に戻った。発表会は大盛況に終わり、ドレスを貸してくれた愛華先生は大層私のことを褒めてくれた。母なんかはビデオカメラに発表会の演奏をおさめて夕食時にテレビで流してご満悦だった。
「燈由ちゃんの将来はピアニストね。」
「いや、公務員だよ。」
母の言葉を否定するも
「パパも燈由はピアニストで良いと思うなぁ。」
父が母の意見に賛成した。
「いやいや公務員になるからね。」
ピアニストなんて夢のまた夢だよ。売れないピアニストなんて御免だ!食いっぱぐれず、ホワイトな公務員を目指すのだ!
寝る前にステータスを確認すると表現が5から6へ、ミニステータスの魅力が72、芸能が74と少しだけステータスが上がっている。レベルはそのままだったので熟練度が上がるのは何かあるのかもしれない。
私は知らなかった。ピアノ発表会に芸能プロディーサーがいたことに…燈由を見初めたことを…




