第19話 将来の夢は?
新しいスキルのイリスには凄くお世話になっている。
世界の情報にアクセス出来る彼女?彼?は色々な事を知っているし、知識を回収するのが趣味のようだが、私に助言してくれるのだ。
「小学校卒業したら芸能界から引退しても良いかなぁ。」
マネージャーの容子さんが知ったら泣いて止めるような言葉を紡ぐ燈由は、如何に楽しくスローライフが出来るかを考えていた。
「(マスターは将来女優になるのではないのですか?)」
イリスの問い掛けに
「(そんな博打人生歩みたくないよ。子役が女優として成功するなんて一握りだしね。残業の少ない職場に就職して、良い旦那を見つけて、子供を産んで親孝行したいかな。)」
自分の将来の夢を語る。
「(……欲がありませんね。)」
「(割と強欲だと思うけど?)」
将来は手堅い職業に就きたいと考えている。
国家公務員で給料が良いのは裁判官、検察官、外交官だろうか――…海外暮らしにはあまり魅力を感じられないので、外交官は無しかな。
海外は旅行で十分だと思う。でも裁判官と検察官なら裁判官が良いなぁ。大岡裁きをしてみたい気もするし、辞めたら弁護士として活躍するのも良いかもしれない。
国家公務員では無いなら医者か大学教授も良いなぁ!!
完全記憶のスキルがあるんだから色々と勉強して順風満帆な生活を送るぞ!!
「燈由ちゃん、ちょっと良いかしら?」
扉からひょこっと顔を出す母に
「なぁに?」
大きな猫を被る。
「燈由ちゃんにピアノコンサートの依頼が来てるんだけど どうする?」
母の言葉に私はまたか、と思ってしまった。
ある程度ピアノを弾けるようになったので、教室を辞めようと思ってたのを両親が止めたんだよね。
将来ピアニストにと母は思っているらしい。
「それって事務所通してる?」
私の質問に母はこくりと頷き
「大丈夫よぉ。心配性ね、燈由ちゃんは。ママとしては燈由ちゃんにピアノを弾いて欲しいわ。」
コンサートしましょう!と迫って来る。
コンサートを受けたらCDアルバムの収録を容子さんから強請られる予感がするのだ。
NOと言ったら目の前の母が落ち込むし、私は溜息一つ吐いて
「分かった、良いよ。練習もしたいしスケジュールは余裕を持たせて欲しいと言っておいて。」
OKの返事を出す。
「流石は燈由ちゃん!早速、容子さんにお返事するわね。」
いそいそと嬉しそうに返事をしに行った母の後ろ姿を見てまた溜息を吐くのだった。
愛華先生の教室に通い、コンサートで弾く曲目の練習を始める日々がやってきた。
勿論、モデルや子役の仕事はそのままで、愛華先生協力の下に練習を頑張っている。
クラシック3曲と私が世に出した1曲の合計4曲にアンコールで1.2曲と言った所だろう。
曲の合間にトークショーもするので全体で3時間のリサイタルだ。
「燈由ちゃん、クラシックは何を弾くのか決めた?」
「あースポンサーからの指定のやつ!でもアンコールは私の新曲にするんだ!!」
ピアノを始めてから作曲するようになったんだよね。編曲の依頼もあって203×年の技術を流用してるんだ。
編曲した場合、曲の完成度が高過ぎて作曲家のプライドをへし折ってしまった事があるので、私に編曲の依頼をしてくる人は鋼の心臓を持った剛の者か変人ぐらいである。
「燈由ちゃん、国際ピアノコンクールに出てみない?」
ニコニコと私にコンクール出場をせっついてくる愛華先生に
「私の仕事が忙しいのは愛華先生が一番知ってるよね?」
ジト目で彼女を見る。
「勿論よ!でも燈由ちゃん、去年もコンクール出なかったじゃない。燈由ちゃんのピアノを世界に向けて発信したいの!今年の誕生日とクリスマスのプレゼントとしてお願い!!」
お願い!お願い!と全力で頼み込んで来る愛華先生に年々残念になっていくよなぁ…と思うのだった。
「う~ん――…容子さんがOK出してくれたらね。」
「それは大丈夫よぉ!!次のドラマの話題作りにもなるからね!!」
バチコーンとウィンクをする愛華先生の根回しに私は肩をガックリとしたのである。
この人って本当に行動力の鬼だなぁ。
「次のドラマって?」
私は知らないなぁ~教えて!!と言えば愛華先生はニコニコと教えてくれた。
「『満月の珊瑚』のリメイク版よ!中学生の時代を描いた作品だと聞いたわね。確か燈由ちゃんが4歳の時に出演したのよね。あれから結構経ったけど、こうしてリメイクされるなんて素敵だと思うわ。あの時から燈由ちゃんはピアノの才能に溢れてたけど、今はもっと上手になってるもの。今じゃプロのピアニストだものね。」
うふふ♡と笑う愛華先生に
「私の職業は子役兼小学生ですよぉ。」
と抗議しておいた。
まあ、コンサートしたりCD出したりしてるからプロだと言われたらそうなんだけど……いつまで続けられるかなぁ?
私の将来は のんべんだらりとスローライフするって決めてるんだ!!
「小学校卒業したらスローライフだよ!!」
ふんす、ふんすと鼻息荒く目標を掲げる私に
「うんうん、燈由ちゃんは海外でも通用するプロのピアニストになるんだものね。」
何だか頓珍漢な事を言う愛華先生に
「第一希望は国家公務員!」
キッパリと切って捨てた。




