第15話 悪悪令嬢
テレビドラマで悪役令嬢の役を貰った。当初、事務所側はイメージとは違う為、反対をしていた。清楚華憐な子役としてデビューしているからイメージにそぐわない役はお断りしたいのだろう。
方々と役に合いそうな子役に打診しては断られている曰く付きの役だ。プロデューサーが次の月9ドラマの美味しいポジを用意するのとギャラ2倍にするということで話を受けたのだった。
この物語は少女漫画をベースにしている。ストーリーは編入性の主人公がヒーローとラブロマンスを繰り広げるのだ。その中でヒーローの婚約者である悪役令嬢である私が彼女を苛烈なまでに苛め抜き追い詰める役だそうだ。
でもこの少女漫画の設定って高校生なんだよな。私はまだ小学生なんだけど…それをマネージャーに言えば、中学生の設定に変更になったと言っていた。何でもヒーローに起用したい子役がいるんだとか…
顔合わせも終わり収録が始まる。
中学生の制服に着替えて化粧を施す。歩き方もモード系のモデルウォークを意識的に活用した。魅せる歩き方で悪役令嬢が女子生徒の憧れの的の様な存在である演出をするのだ。このモデルウォークに関しては事務所に無理を言って本場のモデルさんに特訓して貰ったのだった。
それぞれ位置に付く。カチンコの音がした。
「ねえ、楠木さん。私の婚約者に近付かないで下さい。」
彼女の肩を押す。
楠木と呼ばれた少女はよろめくが体制を立て直した。
「勉君は私の友達です!友達と仲良くして何が悪いんですか!?そうやって勉君を束縛するなんて最低です!」
きゃんきゃんと吠える彼女の言葉に苛つきを隠さずに
「貴女のような庶民が一ノ瀬様のことを下の名前で呼ぶなんて、身の程を知りなさい。」
パーンと小気味良い音が教室の中に鳴り響いた。
頬を打たれた少女は憮然としている。
「ストップ!ストップ!泉ちゃん、もっと感情を込めてやってよ!いきなり頬を打たれてるんだから呆然とした表情ぐらい出してよね。」
泉琳のあまりの大根役者ぶりに撮影が中断された。
「え?でもぉ、そんな急に出来ないですよぉ…」
甘ったるい彼女の声に私は内心ドン引く。
泉の言葉に監督の表情が引き攣った。デビュー作の『満月の珊瑚』でお世話になった新戒監督は演技には滅茶苦茶厳しい。
こんな顔だけアイドルをドラマに起用したくなかったのだろう。スポンサーのごり押しで主役が決まったと聞いた。
「…休憩入れよう」
新戒監督は溜息を吐きながら休憩を入れることにした。
泉琳はアイドルタレントとして最近売り出している女の子である。ルックスは良いが歌は正直上手いわけじゃない。他のメンバーで支えられている状態だ。
畑違いな演劇にやってきたのはマルチタレントにする事務所側の意向らしい。
「新戒監督、お疲れ様です。よくアイドルを起用しましたね。」
休憩している監督に聞きに行くと
「スポンサーのごり押しだよ。本当に困るんだよね。」
物凄い溜息を吐かれた。
「もう3話まで撮ってますよね?監督的にどうだったんですか?」
私の出番は4話目からだ。だからこそ今回、彼女の演技力の酷さに驚愕したものである。
「…このドラマはぽしゃるな。」
絶望感を漂わせる新戒監督。
それもそうだ。
「このままだと、ですよね。ちょっと何とかしてみます。」
私は新戒監督の傍を離れ泉のマネージャーに接触して予定を聞き出した。勿論、目的は泉がこの後に仕事を入れているかどうかの確認だ。仕事を入れていれば方法を考えなくてはならないが、入れてないという事なので思いっきり演ることにした。
休憩が終わりカチンコが鳴る。
「ねえ、楠木さん。私の婚約者に近付かないで下さい。」
彼女の肩を押す。
楠木と呼ばれた少女はよろめくが体制を立て直した。
「勉君は私の友達です!友達と仲良くして何が悪いんですか!?そうやって勉君を束縛するなんて最低です!」
きゃんきゃんと吠える彼女に殺気をぶつけ
「貴女のような庶民が一ノ瀬様のことを下の名前で呼ぶなんて、身の程を知りなさい。」
手加減無くバシっと彼女の頬を打った。
本当に頬を打たれるとは思って無かった彼女は呆然としている。良い表情だ。
彼女の顎を扇子でクイと持ち上げ
「貴女、目障りなのよ。本当、一ノ瀬様に集る蠅って嫌ね……どうしてくれようか…」
殺気をぶつければ彼女はハクハクと口を開き言葉が出ないようだ。
ここはアドリブで凌ぐしかないようだ。
彼女の髪の毛を引っ掴み
「一ノ瀬様に媚に顔をぐちゃぐちゃにしてしまえば良いのかしら?」
いやらしくニヤリと笑う。
恐怖で表情を真っ青にする彼女。良い顔だ。
「おい!何をしている!?」
一ノ瀬勉の登場に彼女が助けを求めるような視線を送った。
私と彼女を引き離し私を糾弾するシーンが繰り広げられた。
「カット!泉ちゃん良かったよ。この調子で頑張って!」
新戒監督のお褒めの言葉に泉琳がぽかんとした表情をした。
「泉さん、叩いてすみませんでした。でも泉さんの演技素敵でしたよ。」
解熱シートを手渡せば、彼女はウロウロと視線を彷徨わせ
「でも、私の実力じゃないし……」
ボソボソと呟く。
「あの時、あの表情が出来たことが凄いんです。出来ない人がいるのに貴女は出来た。それに役の気持ちが伝わってきました。気持ちを乗せて役をやるって気持ち良くないですか?」
「それもそうかも…」
泉さんに関しては一歩前進かな。
彼女も自分自身が大根だったと理解しているのだろう。少しでも演技の勉強をして良いドラマを作るのに貢献して欲しい。
「燈由ちゃん、演技の仕方を教えて欲しい。お願いします。私どうしてもアイドルから女優の仕事を振られた時に何でって思って……この仕事も嫌々だったんだ。でもこのまま足を引っ張るのは違うって思って……ごめん、意味分かんないよね。」
「泉さんに演技の仕方を教えるのは勿論だよ。畑違いの仕事を持ってこられたら戸惑うのも仕方ないよね!泉さんはMVを撮ったことあるよね?その感覚で現場に立ってみて。そうしれば少しは変わるから、ね?」
泉さんの出来そうな事を提案すると彼女は可愛らしくニコっと笑顔を見せてくれた。
これからどんどん絡みが出てくるからね!
こうしてドラマ『HURIRU』の制作が始まったのだった。
これが私のイメージをダウンさせ訴訟問題に発展する事になるとは夢にも思わなかったのである。




