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日下部さんがプールに落ちた一件で、水泳の授業は中止になった。
着替えて教室で待機と言われたので、みんなが微妙な空気で戻っていく。
サボれてラッキー、なんて思っている人もいるかもしれないけど、それを表に出すような人はいない。
なんてったって、日下部さんがあんなことになってしまったんだから。
日下部さんは、おおらかで、優しくて、クラスの人気者だ。
比較的しっかりしてる方だし、見学中にうっかりプールに落ちる、なんてことはないはずだけど……。
「『ミズノくんがヨんでる』、って」
その言葉を思い出して、僕は思わず頭を抱えた。
“ミズノくん”って……誰だよ、ソイツ!!!!
うちの学校には、“ミズノくん”なんて呼ばれている人はいないはずだ。
もしかして他校の生徒? 友だち? 幼馴染? 恋人?
いや、そんなまさか。……まさかね?
ダンッ。
机に頭をぶつけたせいで、周りの人がびくっと肩を揺らす。
少しだけ申し訳なさを感じて、僕は肩を縮めて席に座り直した。
でも、その“ミズノくん”とやらのせいで、僕の恋路は……。
そうこう考えているうちに、先生が戻って来た。
「次の授業は予定通りやります。みんな、準備して理科室に移動してね」
「はーい」と間延びした返事が教室に響くと、誰からともなく動き出した。