ミ
ばしゃん!
僕のすぐ後ろで水しぶきがあがる。
何が起きたのかと思って振り返った直後、クラスメートの女子が叫んだ。
「先生! 夏輝が落ちた!!」
僕は咄嗟にプールに潜り、制服姿の日下部さんを水面まで連れて行く。
でも僕にはそれが精一杯で、あとはほとんど先生の力で日下部さんはプールサイドまで引き上げられた。
「日下部さん、大丈夫?」
日下部さんは先生からの声に反応することも出来ないくらい、激しくせき込んでいる。
少し落ちてしまっただけとは思えないくらいの量の水が吐き出される。
しばらくして落ち着くと、日下部さんは先生と目をあわせてゆっくり顎を引いた。
「よかった。けど、かなり水を飲んじゃってるね……。みんな、プールから一旦上がって! 先生、俺は日下部さんを連れて行くので、後の指示をお願いしても?」
もう一人の先生が少しだけ緊張した顔で頷く。
そうやって引継ぎをすると、先生は日下部さんを背中に乗せて行ってしまった。
「なあ、日下部って今日見学だよな」
「先生、体調不良って言ってなかったっけ」
「さっきまでベンチ座ってたじゃん。なんでプールに落ちんの?」
異常事態を理解し始めたクラスメートたちによって、徐々にざわめきが広がっていく。
僕は先生の指示通り、プールサイドへ上がる。
すると、最初に叫んだ女子の話が耳に入って来た。
「夏輝、何か変なひとりごと言ったの。そしたら急に立ち上がって、そのまま……」
「え、じゃあ自分でプールの方に歩いていって落ちたってこと?」
「なにそれ、意味わかんなくない? 夏輝はいったい何がしたかったわけ?」
「ていうか、ひとりごとって何?」
「私も、よくわかんない、けど……」
「『ミズノくんがヨんでる』、って」