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第四話 入隊

養成所で上官を倒してしまった俺は、そのまま軍へ入隊することになった。

倒されたエルドは、ガハハと豪快に笑っていた。


どうやらエルドは軍の部隊の中でもそれなりに上の地位にいた者らしく、そんな彼に勝ってしまった俺は最前線の国境沿いにある哨戒(しょうかい)基地へと送られることになった。

所属する部隊は、『餓狼隊』。軍の中でも実力の優れる遊撃専門の部隊らしいが、その実態は高い実力故にほかの部隊に入っても独断専行で手に負えないため急遽作られた部隊らしい。


今俺はそんな荒くれ者の隊が使う詰所の前に立っている。

一体どんな人達なのだろうか。そんな不安を胸に扉を開ける。


「本日から入隊するカナタ・フェグルスです。よろしくお願いします」


敬礼と共に簡素な自己紹介を述べるが、返事は帰ってこない。

詰所の一室。室内にいる五人は今後背中を預ける仲間となるはずだが、どうやら俺はあまりよく思われていないらしい。


本来、小隊は六人で一組なのだが、前回の出陣で餓狼隊の一人が逝去したようだ。

周りを見るが、皆一回りほど年齢が上の人たちばかりだった。


――こんな子供(ガキ)が。

とでも言いたげな視線を向けられる。


「よろしくな、俺はこの隊の隊長のアイク・サクリフだ」


おもむろに立ち上がったひげ面の男が手を差し伸べてくる。

握手を交わす刹那、アイクの目には憐みのような感情がちらついていた。


「つい先日に哨戒任務から戻ったばっかでみんな気が立ってんだ。普段はこうじゃねぇからあんま気にすんな」

「はい、お気遣いありがとうございます」


何の変哲もない上司と部下の受け答え。

しかし、それを聞いたアイクは顔をしかめると無精ひげを掻き撫でる。


「お前、それが素じゃねぇだろ」


不服気に言い放たれた言葉に俺は内心で首を傾げる。

確かに素ではないが、あくまで隊長と一般兵。上司と部下の関係なのだから当然の対応だ。

俺のそんな考えが顔に出ていたのか、アイクが声を出して笑う。


「俺らは戦場で背中を合わせる仲間なんだ。取り繕う必要はねぇよ」

「はい……あぁ、わかった」


俺の受け答えを聞いたアイクは、満足気な表情で頷くとほかの隊員たちへと目を向ける。


「お前らも、せっかくの新人なんだ。歓迎くらいしてやれ」


アイクがそういうと、各々が順番に席を立ち敬礼と共に自己紹介を述べる。


「あっしはミナト・ジョーン。よろしくっす」

「リオンだ。家名はない」

「……レイ・オルトワ」


残りの一人に視線が向けられる。だが、


「悪いが今はそんな気分じゃないんでな。俺は先寝るから勝手にやっててくれ」


最後の一人、長身の男はそれだけ告げると部屋を後にした。


「あいつはザック・オーウェン。いつもはもっと優しい奴なんだがな…」


アイクはバツが悪そうに頭を掻く。

どこか気まずい雰囲気が室内に漂う。そんななか、ミナトはごそごそと何やら取り出した。


「しんみりしたってなんもいいことはないっすよ。全員の紹介も済んだことだし、乾杯しましょうや」


ミナトはそう言いながら果実酒が並々に注がれたグラスをこちらに寄こす。


「おい、これ酒じゃねぇか。どこから持ってきたんだこんなもん」


アイクはミナトからグラスを奪い取ると声を荒げる。

戦時中ということもあり、酒はかなりの嗜好品だ。流通もそこまでしているとは思えないし、ましてや前線の基地で一般兵が気軽に手に入れられるものでもあるまい。きっと軍の上層部の部屋からくすねてきたものだろう。


「ちゃんとみんなの分もあるっすよ。それじゃ隊長、音頭はお願いします」


すでに飲んでいたのか、どことなくミナトの顔が赤い。そんなミナトの様子に呆れながらも、アイクはグラスを掲げる。


「こんな日くらいは良いか。とりあえず、カナタの入隊を祝して、乾杯!」


アイクの音頭を皮切りに、歓迎の宴が開催されるのであった。

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