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第三話 乖離する実力

「書類の確認は完了しました。向かって突き当りの建物で待機していてください」


養成所の受付を済ませた俺は、歩きながらも敷地内を見回す。


どうやら人魔大戦の前までは王国の近衛騎士を育成するための施設だったらしい。

そのためか、施設は思いのほか整っており座学のための校舎も存在しているため学園と言っても差し支えのない環境だ。


受付で言われたとおり進んでいると、まるで闘技場のような建物へとたどり着く。

建物内へ入ると、俺と同じくらいの男児が数百人集まっていた。


いくら学園のような見た目だとは言っても、養成所で召集された者たちに試験があるとは思えない。

まさか入所初日から模擬戦をやらせるのだろうか。


もうすでに修練場内の各地で集団が出来上がっている。確かにこれから二年間切磋琢磨する仲間かもしれないが、ひとたび戦場に出たときどちらがいつ死んでもおかしくない間柄になるのだ。

そもそも、村でも同世代の子供がいなかったため友達作りなどということをする勇気は俺にはない。

例外は剣を振りあっていつの間にか仲良くなっていたアキラくらいだろう。

と言っても、人魔大戦の始まりを告げる流星を見たあの日から、疎開をするために故郷の村を離れてしまったためしばらく会っていないのだが。


「傾聴!!!!」


突然轟く号令。しかもすぐ真横から。

見るとそこにはガタイの良い、見るからに上官といった風貌の男が立っていた。

先ほどまで談笑をしていた者たちも何事かと声のほうへと振り返る。


「そろそろ入所者もほとんど集まっただろう。そこで、全員の実力を見るため模擬戦を行う!」


まさかの予想が的中した。

しかし、自分と周りの実力を知っておくいい機会だ。

これからの目標を立てるにもちょうどいい。


と思っていたのだが、


「――ハァッ!!」


勇ましい掛け声とともに振り下ろされる木剣をひらりと躱す。

大振りすぎて本来避けるまでもなく一撃を叩き込むことができるだろう。あまりにもレベルが低すぎる。

今回集まったのはこれから剣を学ぼうという連中ばかりなのだから当然と言えば当然だ。

いくら同年代と言え小さなころから剣を振り続けた俺と差があるというのは当たり前だろう。

周りを見てもどうやら同程度の素人しかいないらしい。


「よそ見してんじゃ、ねぇ!!」


わざと見せた隙に大声を上げながら突進してくる対戦相手。

油断している敵にわざわざ忠告してどうするんだ。と内心呆れながらも木剣を片手で正面に構える。

視線がこちらの木剣に集中している時点で武器狙いの攻撃なのが丸わかりだったが、俺はあえて相手の作戦に乗ることにした。


またも大振りの凪払いだったが、今回は俺の木剣に直撃する。木剣はそのまま俺の手を離れ、後方へと弾き飛ばされた。


「よっしゃ!……グェッ」


相手が油断したのと同時、隙だらけの懐へと入り込み胸部をめがけて掌底を繰り出すと相手は防御することもなくクリーンヒットする。受けた勢いを流すこともできず、相手は修練場を転がっていく。

完全に予想外の攻撃に意表を突かれ、目を白黒させながら仰向けに倒れている。

すぐに起き上がろうとしないところも最悪だ。

もしこれが模擬戦でなく試験であれば彼は不合格になることだろう。


俺は、武器を持ったままの手を足で踏みつけ、首元を押さえつける


「俺の勝ちだ」


やっと自分の状況を理解したのか、対戦相手はじたばたと身悶える。

決着も付き手を離すと、相手は喉元をさすりながら納得のいっていない様子で口を開く。


「剣を使えよ……。こんなの不正だ」

「木剣で勝たなきゃいけないなんてルールないだろ。第一に、戦場でもおんなじこと言うつもりか?死ぬぞ、お前」


起き上がった相手は、俺の言葉に尚も納得がいかないのか睨みつけてくる。

殺伐とした雰囲気に周りも騒めきだす。

その様子を見てか、上官の男がこちらへと近づいてくる。


「君、名前は?」


面倒事になるのはごめんだが、こちらは何も不正などしたつもりはない。


「……カナタです」

「カナタ、君の言うことは確かに一理ある。しかも、一般兵以上の実力も持っていると認めよう」


対戦相手が顔をしかめる。


「だが、教官としては修練生の実力を見る義務もある。ここはひとつ、私と手合わせ願おうか」


修練場がどよめく。いつの間にか上官は大剣と言っても差し支えないほどの木剣を持つと、まるで枝でも振るかのように軽々と振って見せる。

俺も先ほど飛ばされた木剣を取るとそのまま構える。


「そういえば、名前を言っていなかったな。私の名はエルド・ウラノスだ」


再び修練場がざわつく。

あの雷鳴のエルド。などと聞こえてくるが、辺境出身の身からすればまったくもって聞きなじみがない。


「カナタくん。いざ尋常に――」


エルドの言葉を待たずして、俺は一足で懐へと飛び込んだ。

相手は大剣。超至近距離での戦闘は圧倒的に不利。

通常であれば後方に引きながら間合いを作るのが定石。

だが、エルドは大剣を盾代わりにしてこちらへ突進する。


真正面からの衝突。質量差により俺は吹き飛ばされた。

瞬時に受け身を取り、体制を立て直す。


「――ッ!?」


視線を上げた瞬間、振り下ろされる大剣を横っ飛びで躱す。

しかし、再び迫る追撃。躱す。追撃。躱す。


なんとか紙一重で凌いではいるが、防戦一方であることには変わりない。


「どうした、逃げてばかりでは敵は倒せないぞ!」


止まない追撃の中、エルドが吠える。

が、慣れない大剣の間合いも大体つかめてきた。

出来れば最初の不意打ちで仕留めておきたかったが仕方ない。


感情的になったエルドの大振りを最小限の動きで躱すと、再び懐めがけて飛び込む。


「またそれか!」


呼んでいたとばかりに突進してくるエルド。

このままぶつかれば先ほどのように俺が吹き飛ばされて終わりだろう。

だが、俺は、大剣を目前に構えるエルドの手前で大きくしゃがみ込む。

構えた大剣によって生まれた死角に入り込む。


「なに!?」


重量級の突進だ。急には止まれない。

ショルダータックルのような姿勢で猛進するエルドの背中側へと素早く回り込む。

通り過ぎんとするエルドの膝裏を蹴り飛ばして体勢を崩させる。

勢い余った状態での打撃により、エルドは片膝をついて倒れる。


「――ぬん!」


崩れた体制ながらも、残った右足を軸に三日月の如き軌跡を描きながら横薙ぎが繰り出される。

うかつにトドメを射しに近づいていたら間違いなく餌食になっていただろう。

しかし、必殺の威力を持つ一撃は悲しくも空を切った。


「いない!?」


直前に跳躍をしていた俺は、頭上から狙いを定め――。


「俺の勝ちです」


首筋に木剣を添え、勝利を告げた。

いつの間にか、修練場は静寂に包まれていた。


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