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第二話 兵士の召集

俺が十三歳になる頃。兵士となるための養成所への召集令状が届いた。


どこか申し訳なさそうな顔をした父と母、二人に心配をかけないよう明るく家を出よう。そう思っていたのだが、妹が最後まで俺の服にしがみつきながら泣きじゃくっていた。

何とかなだめて家を出ること早二週間。今は行商の荷馬車に揺られている。


「おい坊主、もうすぐ王都につくから準備しとけよ」


御者台に座る大男が気さくに話しかける。

準備も何も、手荷物は村を出る時にもらった少量(といっても、田舎の給金で考えたら相当な量)の貨幣と、家を出る際にもらった一振りの剣しか持ってきていない。


「そういえば、おっちゃんは出兵の要請はされなかったのか」


暇をつぶすため、ふと思い浮かんだ疑問を口にする。


今回の徴兵は養成所で青少年の育成が目的だと聞いている。

しかし、その他にも兵の召集は年に数回行われており、一部例外(子供のいる家族は一家を養うために免除されている)を除いて声がかかるはずだ。

いくら商人と言えど、田舎町まで足を運ぶ小規模な者に声がかからないとは思えない。免除金を払うことによって要請を拒否することもできるが、この男はそれほど稼いでいるようにも見えない。


こちらの考えを察したのか、大男はがははと豪快に笑う。


「そりゃお前、喜んで戦地に行く物好きは居ねぇがよ…」


御者台から半身で振り返ると、大男は履いていたブーツを脱ぐ。(すね)から下が義足だった。


「すぐに死ぬとわかってて戦場に送り出すバカも居ねぇってこった」


大男は靴を履きなおすと、姿勢を戻し手綱を両手で握る。


「……悪い」


とっさに謝罪をするが、大男は気にしていないと言わんばかりに再び豪快に笑う。


「俺のミスでこうなっちまったんだし、なによりこいつのおかげで戦場に行かなくていいってんなら儲けもんだ」


次第に速度を緩めていた馬車はやがて街路の脇に停止する。気づけば王都の関所がすぐそこの距離に近づいていた。


「着いたぞ坊主。俺は隣の町に行くからここまでだ」

「ああ、ありがとう。大した礼もできず、すまん」


荷馬車から飛び降り、軽く伸びをする。

長く荷馬車に横たわっていたせいか、体の節々が軋むのを感じる。


「俺は商人だからな。今回はツケとくぜ」

「…出世払いってことで」


短い旅路だったが、助けられたことに変わりはない。

そんな俺の軽口を聞きながら、大男は神妙な面持ちでこちらを睨む。


「いつか払いに来い。……だからそれまで死ぬんじゃねえぞ」

「わかった」


そんなやり取りをして俺は大男の乗る馬車を見送った。

まだここは始まりに過ぎない。俺は王都へ向けて足を進めた。

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