第十五話 義務に反した報い
「うっ……ここは……?」
ぼやける視界とともに、思考も次第に鮮明になっていく。
首筋の痛みをさすりながら俺はゆっくりと体を起こす。
「書類移送の任務を受けて……それから――ッ!」
戯剣の襲撃を受けたことを思い出し、俺はベッドから跳ね起きると民家から飛び出す。
戦闘開始からどれほどの時間が立ってしまったのか。空は雲に覆われていていまいち時間がわからない。
だが、そんなことは関係ない。俺がいた状態ですら均衡が崩れかかっていたあの場で、俺と俺を逃すための誰かを失った4対7の状況に勝機があるとはとても思えない。
今さら戻っても待っているのは――。
「――ウァアアッ!」
浮かぶ思考を振り払いながら森を駆ける。
「どこだ、みんな!」
木霊する俺の問いに返事が返ってくることはなかった。
だが、足を止めるわけにはいかない。
そのとき、視界の端に何かが見えた気がした。
「………」
――嘘だ。そんなはずがない。
俺はゆっくりと茂みを押しのけながら先へと進む。
地面に、血で汚れたナニカが転がっている。
「――ァ。ァァアアアアッ!!」
物言わぬ骸と化した餓狼隊の死体が、見るも無残に地面に散らばっていた。
かなり時間が立っているのか、血は乾き死骸は冷え切っていた。
「なんで、どうしてみんな。…………なんで俺だけッ!!!!」
剣を抜き放ち辺りを見回すが、もう戯剣や魔族達の気配はない。
手中のカラドボルグが虚しく剣光を放つだけだ。
「なんで、俺が英雄なんだ……」
雨粒が空から落ちると、次第にそれは強くなっていく。
かつて、憧れた英雄と同じ舞台へ立ったが、待ち受けていたのは焦がれていた輝きとは真逆の現実だけだった。
不意に、アイクと目が合う。その瞳は生気を失いながらも、どこか満足げな表情をしているように見えた。
守れなかった後悔。守られた罪悪感。戯剣への殺意。託された希望。
胸中をさまざまな感情が渦巻き混沌のような濁流へと転じる。
やがてそれは決壊して――――。
「うああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
感情が慟哭として溢れ出す。
しかし、悲痛な叫びは豪雨にかき消され、誰の耳にも届くことはなかった。