第十四話 偽神剣カリバーン
ザックが気を失ったカナタを抱える。これで5対7。戦況は先おほどよりも厳しいものとなった。
「あとは頼んだぞ。ザック」
「ああ………。俺もすぐに行くさ」
それだけ言い残すと、ザックはカナタを抱えて戦線を離脱する。4対7。さらに戦況は傾く。
「まさか四人だけで私たちを相手取れるとでも〜?」
戯剣はこちらを見ながら、先程までの戯け顔をするが、その瞳の奥には憤慨の色がちらついていた。
戯剣が腕を振り魔族達に指示を出すと、端に立っていた二人の魔族がザックの後を追って駆け出す。
これで4対5。しかし、相手には戯剣がいる。たとえ人数有利を取れたとしても通常では勝てる相手ではない。
通常ではの話だが。
「偽神剣〈カリバーン〉起動!」
俺の合図と共に餓狼隊の隊員達は剣を構えた。次第に力が湧き出てくる。
「制限の強制解除ですか〜……。それで私に勝てるとお思いで〜?」
「はなからお前さんを倒そうなんざ思っちゃいないさ」
借り物の力で勝てるなんて思ってない。できることといえばカナタを逃す間だけでも時間を稼ぐことくらいだろう。
餓狼隊が壊滅したとしても、英雄を生き残させることの方が優先だ。俺たちの代わりはいくらでもいるが、カナタは代えのきく存在じゃない。
「悪いなお前ら、最後までこんな隊長でよ」
弱音を吐くと、周りの仲間達は呆れたように笑い飛ばす。
「戦場に立ったその時から、死に方を選べないのは心得ていた」
「……今更だね」
「ほんと、水臭いっすよ。けど、アイクさんが隊長でよかったっす」
仲間の励ましに涙をこらえる。
「あの~、もういいですかね~?」
戯剣が訊ねる。いつでも殺せる。それゆえに焦って倒すことも、隙を突く必要すらもないという態度の現れ。あくまでこちらの作戦はカナタを逃がすことだ。油断結構。舐められ上等。これは力を持たざる者の悪あがきなのだから。
「餓狼隊最後の戦いだ。行くぞ!」
「「「おう!!!」」」
風前の灯が如く、燃え上がる気力を糧に最後の戦いへと繰り出した。
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カナタを背負い森の中を疾駆する。偽神剣を起動したからか、上昇した身体能力による全能感が止まらない。本来なら脳がストップをかけるような運動量を平気でこなす事のできる多幸感。
しかしこれは諸刃の剣だ。そう長くは続かない。
人造の兵器でこのレベルなのだ。神の作った武器は比べ物にならないほどの力を手にすることができるに違いない。
「それなのにこいつ……」
つい、恨み言が口から出る。今言うようなことでもなければ、俺が言えたようなことでもないだろう。
かつて、自らの甘さゆえに餓狼隊の仲間、ハルトを殺してしまったのは俺なのだから。次は俺らの番だったというだけだ。
やがて、廃村が視界に入る。かつて俺の故郷だった村だ。
魔族との戦争が始まってすぐ、国境沿いの激戦区となるのを見越して放棄した村。
今では地図にすら載っていないため、身を隠すにはうってつけだろう。
村に入ると、時間がたって些か風化してしまっているところもあるが、懐かしい景色が広がっていた。
民家の一室にカナタを寝かせる。
俺の人生、後悔ばかりだった。いろいろなものを失って、それでも進み続けなければ死んでしまう世界で。自分にも嘘をついて。
本当は気づいていた。カナタに強く当たった理由も、自分と重ねて同族嫌悪をしていただけだ。だが、自分の気持ちに蓋をして敵を斬る俺とは違い、カナタは最後まで自分を曲げることはなかった。それがとても眩しくて、とても妬ましく感じた。
これからカナタが進む道は、俺が通ったものよりもずっと険しく辛い道のりだ。その先に待つのが栄光か、それとも破滅か。それは神のみぞ知るというやつだろう。
「負けるなよ。カナタ」
未だ意識を失ったままのカナタには聞こえてはいないだろう。だがそれでもいい。これはただの自己満足だ。憑き物が落ちたように、頭がとてもスッキリした。後進に託して、俺の物語はもうすぐ幕を閉じる。
俺は民家を後にすると、追跡を誤魔化すべく駆け出す。
心臓の高鳴りと共に過剰に上昇した体温。夜風が心地いい。
もうそろそろ限界が近い。
どこからか狼の遠吠えが聞こえた気がした。
初後書きです。どもども
多分「急に出てきたけど偽神剣カリバーンってなに?」という人もいるかと思って一応解説をば。
偽神剣は、途中で戯剣も言ってますが「脳のリミッターを外して限界以上の力を出す代物」ですね。いわゆる火事場の馬鹿力を無理やり出してる感じです。
もちろんそんなことして体が無事なわけないですよね。
偽神剣については今後の話でもいろいろ書いていきたいと思ってるのでネタバレにならないよう書こうと思ってかれこれ5分くらい悩んだけれど、書けることがこれくらいしかありませんでした(笑)
今後も難しい設定などが登場するかもしれませんが、ぜひコメントで聞いてくださればネタバレにならない程度で答えさせていただきます。
ご一読いただき、ありがとうございました。これからも応援していただけると幸いです。