第十三話 エズマ・ルドルフ
餓狼隊と戯剣の率いる魔族たちとの激突。
しかし、一歩も動こうとしない戯剣を前に俺は同じく動けずにいた。
そんな中でも周りの戦況ま移り変わってゆく。餓狼隊5人に対して相手は戯剣を除いて6人。
人数不利ということもあってか、徐々に餓狼隊のメンツが押されている。
「あなたは動かないんですか〜?」
挑発のように俺へと話しかけてくる戯剣。
「俺の相手はお前だ」
「誰が相手でも私は構いませんがね〜」
やる気のない戯剣の返事。俺は宝剣カラドボルグを抜き放ち構える。
「おやおや、その剣……」
俺の宝剣を見て意味深に黙り込む戯剣。
「気が変わりました。あなたはこの私がお相手しましょう〜」
戯剣が腰の湾刀に手を掛ける。しかし、わざわざ相手が構えるのを待つほど俺は馬鹿じゃない。
先手必勝。一足飛びで相手に詰め寄ると最短距離で戯剣の首元目掛けて横薙ぎを繰り出す。
だが、紙一重のところで戯剣は体を捻り俺の剣を躱す。
追撃を加えんと剣を振り下ろすが、戯剣は体を起こす反動で湾刀を抜き放つと、俺の一撃を受け止める。
鍔迫り合いの形になる。再び戯剣が口を開いた。
「英雄といってもこの程度ですか〜」
「……なんでそれを知ってる」
俺の素性を知るはずもない相手からの言葉に驚きを隠せない。
「お前を倒して聞き出す」
「倒せるといいですね〜」
ヌルリと蛇のような軌道で迫る湾刀に攻めあぐねる。そうこうしている間にも、餓狼隊は徐々に押されていきこのままでは全滅してしまうだろう。
英雄として宝剣に選ばれ、身体能力が大幅に増加したことによって戯剣の動きになんとかついていけているのだが、慣れない力に振り回されて攻めきれない。今までの敵とは比べ物にならないほどの実力。殺しを躊躇って勝てる相手ではない。
『自らが力を持つものだと言うことを忘れるな』
剣帝の言葉が今になって思い返される。こいつを殺さなければならない。全てが手遅れになってしまう前に。
――殺す。殺す殺す殺す!
敵の心臓を貫かんとした一撃は、途中で威力を失い容易に弾かれてしまう。
――クソッ!
このままでは餓狼隊のメンバーが……。
「よそ見してる場合ですか〜?」
「――グッ!」
戯剣の湾刀が首筋を掠める。しかし、体制を崩した俺に追撃を加えてくることはなかった。
「あなたもしかしてふざけているのですか〜?……いえ、確実にふざけてますね〜」
湾刀をひらひらと回す戯剣は今までの戯けた態度とは打って変わり、冷たい眼差しだけをこちらへよこす。
「戦場に腑抜けは不要。次で確実に殺す」
背中にぞくりと寒気が走る。今までの戦場で一度も感じたことのない感覚。自分の命に確実に届きうる刃が突きつけられる悪寒が全身を駆け巡った。その時、
「――――チッ」
押されていた餓狼隊たちが俺の周りへと駆け寄ってくる。
その様子に戯剣が舌打ちを漏らすが、正直俺にも何が起こっているのか理解できていない。
アイクが俺の前に立ち、戯剣へと立ちはだかる。
「……あなたに私の相手が務まるとでも〜?」
「ああ、悪いが付き合ってもらうぜ……。ザック!」
アイクがこちらに振り返り指示を飛ばした直後。
「――ウッ!」
襟首に衝撃が走る。想像だにしなかった一撃に俺の視界は次第に暗転していく。
――なんで………。
俺に手刀をいれたザックと一瞬だけ目が合う。彼は今までの恨むような鋭い目つきではなく、憐れむような瞳でこちらを見ていた。
そこで俺の意識は途切れた。