第六話 正義
「そういやあのアニメもうみた?ハーレムもののやつなんやけど―――」
神丸の意識がなかなか戻らないので俺達は酔いを覚ましながらアニメの話で盛り上がっていたのだが…
「あんたら、いい加減うるさくて迷惑だ!!」
周囲を見渡すと視線が返って来る、どうやら俺達に向けられた言葉だったようだ。
「ワタシ達が…何か?」
梅梅は俺の後ろに視線をやり、職業病なのかよそ向けの声で対応して立ち上がる。
「ここにいる皆の気持ちがわかるか?ログアウトできない事に絶望し、明日死ぬかも分からない事に恐怖して真面目に相談しあってるんだよ!!そこのパーティはすでに二人失っているんだ。
あんたらのくだらない話で延々と笑ってる感じがここにいる皆の迷惑なんだよ、分かるか?!」
黒髪の男は梅梅の背丈に若干驚いたようだったが梅梅を見上げながら手振りを交え言葉を続ける。
「はぁ…」
梅梅は何が問題なのか分からないといった表情で絡んできた黒髪の男に向け首をかしげている。
「本当に今俺達がどんな状態に置かれてるのか分かってるのか?ゲームが始まって既に50人以上死んでるんだぞ!?」
黒髪男の言うことは分からなくもない。俺も二人と一緒でなかったら絶望していたかもしれない。
しかし、50人以上?確認してみるか。
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DAY【1095/1095】
Time【22:35】
DEATH【52/1000】
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本当だ、夜になって死人が増えている。夜間のモンスターは強いとかそういう感じだろうか?
「気を悪くしてすみません、他の皆さんも」
そう言うと梅梅は周囲のテーブルに頭を下げる。彼はリアルが接客業だからたぶん大人の対応をしてるだけで特になんとも思ってはいないだろう。
「ん、あんた、背は高いがよく見ると女か」
「え、ええ、まぁ?」
…いや。まぁ?ってなんだよ!?
ツッコミたい気持ちを抑えながら俺は二人のやり取りを見守る。
ならそっちのポニーテールが男か、と黒髪男は毒吐きながら俺を睨む。なんでだよ!?
「その様子だとあんたたち何も分かってない素人なんだろ?俺はこのゲームの前作をやっていて少し詳しいんだ。それに、こういう事態が起きた時の対処法も普段から考えている」
「はぁ…」
なるほど、温度差はかなり違いそうだが黒髪の男と俺達は同じ部類の人間のようだ。
「俺は既にクレリックの職について回復魔法も使える。死にたくなかったらそんな危機感のない男達のパーティを抜けて俺のパーティに来ないか?色々と教えられるぞ」
そう言って黒髪の男は近くの席に向けて親指で指さす。そこには3人の可愛い女の外装アバターをした者達がこちらの様子を見守っている。
「ありがとうございます。お気持ちは嬉しいんでけど、リアルの友人なのですみません。うるさくしない様に気をつけます」
いやいや、どこから声出してるだよ。それにうるさかったのは俺じゃないぞ!?
「そうか。俺の名前はライトだ。もし今後困ったらギルド【月光】がアナタならいつでも助けよう」
そう言うとライトと名乗った男は席にもどっていった。
「なんでやねん」
「いやいや、俺のセリフやん」
「どこから声出てるのそれ」
「VRしてたらそういう世界もあるんやで」
「…聞かなかったことにしよう」
…何をだ?と言いながら神丸が顔を起こした。
「ギルド【月光】のライトがいたんや」
梅梅は周囲に気を遣って小声だ。
「いたのか」
「いたで」
「え、そんなに有名人だっけ?」
「度が過ぎだネットナンパの苦情を受けた運営からアカウント停止処分を食らったやつだ、8チャンネルで祭りになってただろ」
「あぁ…そんなのいたっけな…」
「それより神丸、デバフの酩酊は消えたん?」
「あぁ、消えたな。しかもアルコールへの耐性が0.1%あがったらしい。これはありがた迷惑な話だな」
「なるほど、そういう耐性の成長の仕方か、二人ともやるね」
おそらく毒耐性なども摂取してあがるシステムなのたろう。二人の確認する手際の良さに感心する。
「つまり耐性が上がる前あたりで酔いを覚ましながら飲むと、延々と飲めるわけやね」
「おそらくな」
いや、なんか違うぞこれ…。
結局、俺達は全員の貨幣が無くなるまで飲み続けた。