第五十五話 交換条件
俺が到着するまでに一通り話が済んでいたらしく、クロノスは梅梅と握手を交わすとエリスと共に【砂漠の街モロクナード】へと向かった。
黙ってクロノスとエリスの背中を見送っていると何かを察した梅梅に注意される。
『そんな顔せんときや。
まだ良く知らん人達やで』
『そうなんだけとさ』
『シンガリを引き受ける事を条件にギルメンの名前を教えて貰うって事で話つけれたんやから、上出来ちゃう?』
『まじで』
『まじでて、ギルドチャットでそんな感じので話してたのに気付かんかったん?』
『ごめん、すれ違うプレイヤー達に目を奪われてた』
『ほぉん?』
梅梅の語気が強くなっているのを感じたのか神丸の横槍が入った。
『ウメ、そのくらいにしておいたらどうだ?
俺もベルの気持ちが分からんでも無いぞ』
『え、そうなん?』
『いや、おま……、まぁ……そうだな。
一般人の立場になって話をするぞ?
おそらくクロノスシフトは今回41人の死者を出した事になる。
更に【モロクナード】に到着したメンバーも無事とは言えない状態だ。
こんな人災とも言える状態をクロノスの判断な招いたと考えればそういう気持ちに自然となるだろう?』
『まぁそれはそうなんやけどなぁ……。
責任云々の話を言い始めたら最初の混乱の時に有利な情報持ってる俺達が率先して皆を助けるような働きをしないとってなるやん?
素人集団を放っておいたせいで発生した人災ならそもそも論で俺達にも責任が……ってなるやん?』
『いやいや、二人とも?!
何でそんなとこ掘り下げてるの?!
そう言う話は今はいいんじゃないかな?!
そもそもデスゲームが悪いんだから!!
俺は単純にちょっとモヤッてしただけだから、深く話すのはよそうよ?!』
危ない危ない。
一見普段と変わらないように見えるウメと神丸だが、二人なりにモヤッとしているようだ。
変な雰囲気になる前に俺が先に気持ちを切り替えないと。
『あぁ、そうだな。すまない。
まさかの俺も深層心理では少しこの光景にあてられていたようだ』
『なんやかんや二人は俺と違って優しいからなあ……、負い目とか感じる事無いで。
ほんでクロノスシフトの罪についてもそこまで追求する必要も今は無いと思う。
とか言うて、慧さんの娘さんが死んでたら話は全く変わるんやけどな』
梅梅の言葉に全員が黙った。
ご都合主義ではあるが、見知らぬ人の命より見知った人の命の方が何倍も重いのだ。
ん?あれ?見知った人?
『そう言えばクレさんは?』
『見かけてへんけど大丈夫ちゃう?
言うてクレさんやし。
まぁなんや。とりあえず!
亡くなった人の名前も記録してる言うてたし、この作戦が終わったら酒場か宿屋で教えてくれる手筈やからチャッチャと済ますで!
神丸、そっちの状況はどんなもん?』
『知らない間にSAN値(正気度)が削られてた事以外は異常無しだ。
若い二人は平気そうに見えるが俺同様にSAN値が気になるな。
あとは全員のレベルが順調に上がっている』
『ほ〜ん、回復職無しでも順調とかやるやん』
『3人とも遠距離攻撃を備えているからな、魔法を集中させればすぐだ』
なるほど、それで梅梅は俺だけ呼び寄せたのか。
ん?
いや、待てよ?
『……いやいやいや!?
今更だけど俺とウメの二人でシンガリやる流れだけど、無理じゃない!?
俺は誰か火力となる人がいると思って来たんだよ?!』
梅梅にツッコミのチョップを入れようとしたところで砂埃がこちらに向かってくるのが見えた。
『ちょ?!ウメ?!あれ何のモンスター?!』
砂埃がモンスターの姿を隠しているのかモンスターの姿が見えず、どんどん砂埃が大きくなっていく。
『サンドワンや、懐かしいやろ?』
『サンドワン!?あの見えない犬?!』
サンドワンは物理攻撃を当てるためには魔法で透明化を暴かないといけないという動物&聖霊系のモンスターだった。
おまけに一度追跡されたらマップが切り替わるまで追跡してくる仕様だったはず。
『そうそう、その犬』
『いやいや、どうすんの?!
死霊属性でも無いと俺の魔法無意味よ?!
クロノスはどうしてたんだよこれ!?』
『なんか衝撃波でふっ飛ばしてたら数が増えたっぽいとか言うてたわ、何の職業なんやろな』
あぁ、そうだった……。
相手が手強いとみると仲間を呼ぶ非常に面倒くさいモンスターでもあったんだ。
『いやいや?!
対抗手段なくない?!』
『今からでも助けに向かうか?』
『いやいや、ゴッドもベルも大ドロブネに乗った気持ちでおってくれたらええよ』
『でかくてもドロだよ?!』
『まぁ、まかせたまへよ。
ベル、俺の後ろで待機しといて、死にそうになってたらヘルプよろしく。
ゴッドはクロノスとエリスと合流して街に入って』
『了解した』
神丸の返事を聞くと梅梅は何かアイテムを取り出し口の中に入れ、サンドワンの方に向かいヘイトを集めにかかった。
『さ、作戦内容は!?』
『持久戦や』
『内容がないよう?!』
『そんだけ余裕あったら大丈夫や!!
状況みて指示出すからよろ!!』
またしても準備不足の中、シンガリ戦がはじまった……。




