第五十三話 砂漠の街
梅梅がワープポータルに飛び込んだ後、八鷹が察した様にそれに続こうとしたが神丸がそれを防いだ。
「え、神丸さん!?」
「まぁ待て、先に安全確認をしよう。
『ウメ、聞こえるか?』」
すぐに返答が無いので神丸は八鷹とマロン君に説明を続ける。
「俺達が知っている20年前のワープポータルと同様の仕様ならすぐに閉じる事は無い、ウメの返答を待つ間に少し確認しよう。
20年前のワープポータルは座標を記憶する必要があったんだが――」
「あ、あの!座標って、メインクラフトみたいな感じですか?」
まさかのマロン君が話に食いついた。
座標が通じるとは最近の流行りのゲームに感謝だな。
「ああ、その考え方であっている。
それでベル、これはどこに繋がっている?
まだ行った事がない【モロクナード】へのワープポータルなのか?
それとも途中のフィールドか?
詠唱中に何をイメージした?」
「うーん、記憶にある【モロクナード】の街並みかな。
【始まりの街アーク】が20年前の配置とほとんど一緒だから【モロクナード】も同じかと思って。あとは覚えてる座標」
「ええ!?
ベルさん、何で座標知ってるんですか!?」
「いやいや、20年前の座標だから、あってるかは微妙だけどね」
「さすがは元廃人と言うべきか」
「いやいや!?
廃人はゴッドとウメでしょ!?」
「謙遜するな、座標を覚えているじゃないか」 「いやいや!?
【モロクナード】の鍛冶屋にウメが毎日の様に通ってたの覚えてない?
あの時俺がワープポータルでいつも送り出してたから覚えてるだけだよ!?」
「……そう言えば、装備強化ギャンブルにハマってあるだけ全部注ぎ込んでたな。
最終的に失敗を繰り返して全財産を溶かし、引退寸前までメンタルをやられてたやつだな」
「それ!」
「ウメの散財も20年越しに役に立ったわけか」
「いやぁ……まだ無事か分からないから役に立ってるかは微妙かも。
最近流行のVRゲーム小説だとバグ扱いされたら次元の狭間に落ちるみたいなやつあるし」
「あぁ、死んだも同然のやつか」
「それそれ。あと、俺が触媒に使った石だけど20年前の色と違うんだよ。ワープポータルを開いたのに消えてないから多分まだ使えそう」
俺が気になる事の説明を終えても梅梅からの返事が無いので、全員が不安になってきた事を隠せなくなりつつあった。
そもそも【クロノスシフト】の異常事態で気を張り詰めすぎるといけないから雑談も兼ねていたというのに、これでは逆効果だ。
何分くらい経ったのだろうか。
体感ではワープポータルが消える時間がそろそろ近付いてきている気がする、時間を計測しておくべきだったな。
異変を察している神丸が何か話を続けようとした瞬間、アナウンスが流れてきた。
―――――――――――
DAY【1090/1095】
Time【17:00】
DEATH【125/1000】
―――――――――――
NEWS【通天閣商会】梅梅が【砂漠の街モロクナード】を発見しました(賞金1000万円)
――――――――
「お」
「成功!?」
「成功ですか!?やりましたね!!」
「おめでとうございます!!」
『クホホーーーッ!!??』
「「ブハッ!?」」
梅梅のギルドチャットに俺と神丸は思わず吹き出してしまった
八鷹とマロン君が何事かという顔をして覗いてくるので簡単に説明しておく。
「大丈夫、ウメから返事があったんだけど、破産した当時の記憶がフラッシュバックしただけっぽいだけら」
「さて、これで安全の確認は取れたな、ポータルが閉じる前に行こうか。
ゲームだとワープポータルを使用した者が入ると閉じる使用だったな?ベルは最後に入ってくれ」
「OK」
スッと入る神丸と、それに続く八鷹。
おそるおそる入ろうとするマロン君の足が止まったのを見て俺は声をかける。
「不安なら手を繋いで入る?」
「……はい!」
握手コマンドを発動させマロン君の右手を左手で握る。俗に言う恋人繋ぎって奴に近い、握手認定でいけるんだなこれ。
俺の手の中に収まっているマロン君の手は若干震えていて、勇気を出して付いてきてくれるのが良く分かった。
……そうだよね、ボス戦で一気に死人が増えた場所の近くに行くんだから怖いはずだ。
「大丈夫、俺がマロン君を守るよ」
マロン君を見て微笑むと、手を強く握り返された。それに頬を赤くして照れているような感じもするな。
女の子だったら勘違いしてしまうな。
「それじゃ、カウントするからゼロで入ろう」
「はい!」
「3.2.1」
「「ゼロ!」」
俺達は握手したままワープポータルへ入った。
――――
―――
――
視界一面虹色だったものが真っ暗になった後、砂漠の世界が視界中央から広がっていくと
同時に熱い空気と刺すような陽射しを感じた。
―――――――――――
DAY【1090/1095】
Time【17:03】
DEATH【125/1000】
―――――――――――
どうやらワープポータルから抜けたらしい。
「あつぅ…」
場所の確認もまだだが、思わず声が漏れる。
まだ汗は出ていないが、これって汗とかでるのだろうか。
「あ、ありがとうございます」
急に恥ずかしくなったのかマロン君が握手を解除した。
「いえいえ」
「あの、ここが【モロクナード】ですか?」
「20年前の姿が凄く良く再現されてるから、たぶんそうかな」
「砂漠の街ってこんな感じなんですね、アラビアンのナイトを思い出します」
「あ〜、そういうイメージがあるんだね」
「風に乗って砂が口に入ってくるような感じがしますね」
「確かに。何かフード的なもの買いに行きたいとこだけど、先にポータルに入った3人が見た当たらないね。方角はこの先っぽいけど」
バーティーメンバーの方角感知を頼りに視線を変えると黒や白、ベージュ色の布を頭部に巻いた人々が歩いておりこの地域に適した格好をしている。梅梅が【モロクナード】一番乗りから考えてもおそらくNPCだろう。
「この先には何があるんでしょう?
鍛冶屋ですか?」
「昔のままなら街の正門だと思うよ。
鍛冶屋は俺達の後ろにあるあれ」
「ええ!?これですか?!」
およそ鍛冶屋とは思えない土の壁の家屋がポツンと建っていて、初見では民家と間違えてしまうだろう。
「こっちの鍛冶屋の方が何かメリットがあったんですか?【アーク】にあった鍛冶屋はもっと立派だったような」
「【アーク】は同時接続者が多くて通信障害も稀にあってね。ひっそりしたこっちの方が障害なく純粋な確率で運試しできるみたいなこだわりがあったみたい」
「なるほど!」
「まぁ、結果的に破産してるんだけどね」
『ハックション!?
ベルなんか俺の悪口いってへん!?
てか街の正門でゴッドと合流したんやけど、ヤッちゃんおらんのやんか。
ヤッちゃんそっちにおる?』
え?八鷹?
『え、そっちじゃないの?
ゴッドのすぐ後に行ったよ?』
『すまん、ウメの気配をすぐに追ってしまって確認していないんだ』
「ベルさん、あれ!」
マロン君が指す方向を見ると、先程俺達が出てきた場所に虹色に光るポータルが出現していた。




