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第五十一話 浸かる

 八鷹とマロン君の質問タイムを終え、神丸のHPを全快にした俺達は梅梅の希望で少し散策を行う事にした。


 前から梅梅、神丸、俺、マロン君、八鷹の順だ。


 ちなみに梅梅にかかっていたデバフはいくつか未解除のままだが、それで良いと本人が言ってきかなかったためそのままになっている。

 

 先を行く梅梅は手に入りそうなアイテムに片っ端から手を出し、口に入る物なら味を確かめつつ歩いている。


 新たに加わった八鷹とマロン君を気にして少しはまともなプレイスタイルになるかなと思ったけど全くそんな事はなかった。


 本人曰く『食費を浮かすしかないんや!』との事だが、石まで舐める姿勢にドン引きしていた八鷹とマロン君も梅梅厳選の一品を神丸が確認する作業を見ているうちに、嫌悪感より興味が勝ってきているようだ。


 未成年の二人にとってこの教育方針は良いのだろうかという謎の親目線の立場に俺は悩まさていたが、梅梅の『ゲームの世界がここまで細かく再現されている技術力にとにかく感激するんや!』という圧に押されるとともに、これからの資金を考えても必要な事かと渋々納得しはじめていた。


 それに本当に金がないのだ、致し方ない。


 そういうなんとも言えない表情で梅梅を見ていると、八鷹から声をかけられた。


「あの、金が無いなら普通に戦闘をして稼ぐっていう方法では駄目なんですか?

 ドロップアイテムを売ればこんな事をしなくても良いと思うんですが…」


 そう、八鷹の疑問はもっともだ。

 俺達だってそれは分かるのだが、古参プレイヤーの俺達はちょっとした病気にかかっているん。


 『しまっちゃうおっさん病』を説明するか。


「うーん、20年前のRoにはおつかいクエストがあったり、アイテム作成があったりしたんだ。

 それでドロップアイテムが何個必要みたいな事になるから、ドロップアイテムをNPC売りしたくないって気持ちになりやすくてね」

「え、アイテムBOXに重量制限ありますよね?

 所持制限越えたらどうするんですか?」

「持ちきれないアイテムは街にある倉庫に預けるんだよ。もしかして知らない?」

「そういえば【円卓】で財政担当の方がそんな事してたような気がしますけど…それでお金をどうやって貯めるんですか?」

「ドロップアイテムでもレアじゃないノーマルの武具とか、役に立たない事がわかってるアイテムを売るとかで貯めるよ」

「ええ…となると、今って何が役に立つかとか分からないんですよね?使い方も増えてる様ですし」

「そうだね、だから基本的には全部倉庫行きなんじゃないかな?」


 話が聞こえているのか梅梅が『どんどんしまっちゃおうね〜』と呟きながらアイテムを拾っていく姿にマロン君が笑いを押し殺していた。


 マロン君にも伝わるネタがあるとは驚いたな。さすが未だに子供からの人気が高い『しまっちゃうおっさん』だ。


 ただ八鷹には分からないネタなのか、顔に悲壮感を浮かべていたので安心させておこう。


「基本的にパーティーで得た収益は均等に分けるから、八鷹とマロン君にはちゃんと店売りした場合の金額分の支払いがあると思うよ、だからたぶん八鷹とマロン君は宿代とかの生活費には困らないんじゃないかな?」

「ベルさん達は?」

「俺達は路地裏とかだと思うよ」

「徹底してますね…俺達もそうした方が良いですか?」

「どうかなぁ、デスゲームだし人間らしい生活をした方が良い気はするよ。

 【円卓】さんもちゃんと宿に泊まってるよね。あれどうやってお金を捻出してるの?」

「えーと、確か泊まってるのは全メンバーの三分の一くらいなんですよ、残りのメンバーは狩りに行ったりして他の事をしてるので出費を抑えながらやれるそうです」


 三交代制によって24時間ドロップ品を集めている工場みたいなシステムだ。


「すご!さすが【円卓】さんだ。装備だって高いもの揃えてたもんね」

「装備に関しては一部は共有で使ってる感じですね、流石に全員の装備を整えるのはまだ難しいそうです」


 なるほど、それで死亡した仲間のアイテムを回収するという流れが組み込まれてあったんだな。こっちとはまた違った苦労がありそうだ。


「うぉぉぉおお!!」


 その時、梅梅の咆哮が聞こえた。

 全員が梅梅に注目する。

 何かをつまんでいるような?


「めちゃくちゃ甘い!」

「なんだと!」

「こっちはスッパイ!」

「なんだと!」


 梅梅から神丸に渡されている物が気になり俺達も梅梅に近寄る。


「ぇっ!?」


 マロン君は何か分かったのか声にならない様な悲鳴を小さくあげていた。


「これは…」

「アリだー!!」


 ついゲームの名シーンよろしく叫んだが、きっと若い二人には分からなかったろう。


 梅梅と神丸が腹が膨れた小豆サイズのアリを食べ比べている姿も衝撃アリそうだし。


 アリだけに?


「なるほど、これは良いんじゃないか?

 ただアイテムBOXには入りそうにないな」

「分類としてはモンスターでもアイテムでも無いんよね。何か手を加えたらアイテムになるんかな」

「試験管とかに入れれば持ち運びできるんじゃない?」

「なるほど、ベルやるじゃないか」

「ガラス瓶で聖水生成とかあったから、もしかしたら水も持ち運べるかも?」

「となると、箱があれば弁当も作れるかもしれんのか?街に帰ったら試してみるか」

「このアリって名前はないの?」

「無いな、アイテムBOXに入らない物は名前無しなになるのかもしれん」

「それじゃ、甘い方が神アリで、スッパイ方を梅アリで」

「なんでやねん!」


 俺達の馬鹿騒ぎを見ていて我慢できなくなったのか八鷹とマロン君も味見に加わった。


 味に感激した二人は【通天閣商会】の毒にこうして浸かっていくのである。

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