第五十話 補正と詠唱
神丸と梅梅による考察が終わり、無茶苦茶な戦闘をとりあえず控える様に言質をとった八鷹は改めて神丸に質問をしていた。
「神丸さん、職業補正と詠唱について少し詳しく聞いても良いですか?」
「かまわんよ。ただ、あくまで俺の仮説だという事は忘れないでくれ」
「わかりました、まずは補正についてお願いします。
神丸さんが習得したバッシブスキルの【体力増加Lv1】【魔力増加Lv1】ですが、剣士やメイジの職についてなくても自己鍛錬をすれば身につくと思いますか?」
「可能性はあると思っているが、習得条件の難易度が上がるのではないかと思っている。これについては梅梅が現在進行系で試している所だから続報を待って欲しい」
「すでに試してたんですか!?」
「このデスゲームはアイテムの使い方など色々とリアルにちかいものがある。
ステータスやスキルレベルだけでなく、プレイヤースキルが重要になってくるだろうと思ってな。動作確認の意味でやれる事をやっていたんだ。それで今回運良くバッシブスキルを確認できた」
「なるほど。では次に詠唱についてお願いします。先程のファイアストームは何だか慣れてる気がしましたけど、初めて詠唱された感じですか?
確かベルさん以外は誰も詠唱からの魔法習得が確認できてませんでしたよね?」
「うむ、スキルを最初に習得するために必要なものは想像力だと思っている。
詠唱は想像力の補助的な役割が強く、小説好きや妄想好きな者ならうまく詠唱を使ってスキル習得できるのではないだろうか。
俺が慣れてる感じがするのはそのあたりのせいだろう」
「想像力ですか。それではスキル習得後の2回目からは詠唱は必要なんでしょうか?」
「おそらく必要ないが、想像力が弱まるため何らかの弱体化はあるかもしれんな、試してみようか?」
「お願いします」
神丸が少し先の空を指先したと思ったら『ファイアストーム』という声が聞こえた。
ちょ!!ここで!?
もしさっきの威力でたらどうすんの!?
咄嗟の事に声を失い身構えるが、ライターの炎がそよ風によって消えるような事が起こった。
「え?」
つい間抜けな声を漏らしてしまった。
「確認なんですけど、スキルは習得してるんですよね?」
「あぁ、レベル1 を習得している」
「その、さっきと違ってホワイトアウトもしてないようですけど?」
「おそらく、詠唱によって発動したのはスキルレベルMAXのファイアストームだったのではないだろうか。
今のようにしっかりしたイメージもせずスキルだけの力で発動するならこんなもんなのだろう。例えばライターの火打ち石がスキル習得で
個人の想像力がガスみたいなもんかな。
ちなみに今消費した魔力は3だ」
「なるほど。では最後に想像についてなんですが、どんな感じの想像をしてるんですか?」
「体力増加は筋肉や持久力がつくイメージだな、鏡の前でやると良いかもしれん。
魔力については映画でもアニメでも何でも良いが、とにかく自分の中で魔法に対するイメージを作り上げてそれを増やすイメージを行うと良いのかもしれんな。
詠唱については詠唱の前にどんな感じの魔法が発動するか、どういう効果があるかを想像しながら詠唱している感じだ」
「なるほど、ありがとうございます。
とりあえず【円卓】に連絡したいと思います」
八鷹は一礼すると神丸の隣を離れてギルドチャットを開始したようだ。
「あの…僕からも良いですか?」
八鷹と入れ替わる様にギルドチャットを終えたらしいマロン君が梅梅の前に立った。
「んん?あ、俺!?
こほん…何だい、マロンちゃん」
予想していなかったのか、梅梅がオッサン声を改めながら応えていた。
もうこのパーティーメンバーには素の声で良い気もするけど、何かこだわりがあるのかもしれない。
「梅さんのステータスの振り方と、戦闘の仕方って、おかしくないでしょうか?」
ちょwマロン君に言われてる〜!
「あ、それは俺も思いました。職業も確か防御に特化したパラディンとかでもないですよね?攻撃とかもこの先どうするんですか?」
会話の内容が気になるのかギルドチャットで報告していたはずの八鷹まで会話に入ってくる始末だ。
「あの、僕。職業的にvitは不要なんですけど、痛みや死ぬ事の恐怖から安全のためにvitに振ってるんです。
梅梅さんくらいvitを上げていても痛いんですよね?」
マロン君の発言に俺は八鷹の方を見ると八鷹も声をあげる。
「俺もそんな感じでステータス振ってますよ。
その、亡くなった仲間が極振りステータスだった事もあるんですけど…」
八鷹は顔を曇らせて教えてくれた。
悪い事を思い出させてしまったな。八鷹の思いに応える様に梅梅に釘をさしておくか。
「八鷹ありがとう。ウメ、ここは茶化さずに頼むよ」
「あ〜う〜ん…そうやなぁ、まずvitに振ってもダメージ入ると痛いよ。
あと多分、ヘッドショットとか心臓とかの急所に入ればvitとかHP関係なく死ぬ気がする。
まだ経験してない部位欠損とか死亡を含めて色々と検証したいところではあるんだけど」
「流石はウメだな」
深く頷く神丸と梅梅を見てマロン君と八鷹はやはりドン引きしていた。うんうん、普通そうだよね。
俺と同じ思いを抱く二人を見て俺が普通な事に安心しつつ、先程梅梅が気になること言ってた事を思い出した。
「そういえばウメ、なんか最強とか呟きかけてたの何だったの?」
「ん、あれかい?相変わらず地獄耳やな」
「確か仮死状態が解除されるとデバフがめちゃくちゃつくって話してたのに、それっておかしくない?最強どころか最弱でしょ」
「普通はそうだけどほら、俺と神丸は【ユニークスキル】持ちやん」
ユニークスキルという言葉に八鷹とマロン君の目の色が変わった気がする。
さっきまでドン引きだったのにこの変り身の早さ、やはりゲーマーとして気になるのだろう。
「あの、ユニークスキルって何ですか?」
「あれ、二人ともアーさんとルヤちゃんから聞いてない?
俺と神丸はユニークスキル持ちでね。
神丸の【猛進】はデバフの数だけ攻撃力が倍になる変わりに、受けるダメージが等倍で上がって、俺の【彷徨う者】はHPが減少する程、デバフが多い程に物理防御力があがるってスキルなんやけど。
これを上手く使えば最強やん?
こういう特殊な能力持ってるプレイヤー集めて特殊部隊つくるのもええと思わん?」
「いやいや!?そんな特殊能力、ピーキー過ぎて真似できないよ!?」
何故かドヤ顔している梅梅だったが、八鷹とマロン君が聞いていないという事は不必要な情報で混乱を与えないようにしていたとも考えられる。
「ベルさん、ピーキーって何ですか?」
八鷹の発言に梅梅が急に髪をオールバックにして叫んだ。
「ゴッドォォォオオ!!」
「さんを付けろよデコ助ヤロー!?」
突如始まった梅梅と神丸の寸劇に八鷹とマロン君はポカンとしている。
「ピーキーって一般的には使わないから当然だよね。うちの2人があんなになるくらいの人気作品があったから俺達は分かるんだけど、分かりにくくてごめんね。
ピーキーの意味としては、特定の条件下で非常に高い性能を発揮するけど、安定性に欠けるし、扱いが難しかったりするって感じかな」
俺はピーキーを説明しつつ、若い二人がいる時は悪ふざけは控えないといけないなという親心のようなものが芽生えるのを感じた。




