第四十九話 訴える
八鷹とマロン君としばらく話していると、神丸と梅梅がほぼ同時に跳ね起きた。
「ッ!?これが【ホワイトアウト】か」
「状態異常【仮死】解除とペナルティ!?
ひょっとして、この状態は最ky…?!」
目覚めの第一声は2人とも相変わらず反省の色無しだった。
俺が2人に声をかけようとすると八鷹に止められた、どうやら八鷹から話を切り出してくれるようだ。
「お二人にお話があります!!
今後こんな無茶苦茶な戦闘はやめて下さい!!ハッキリ言って迷惑です!!」
最初酒場で出会った時の様な圧力を2人にかけて話す八鷹だが、やはり2人には響いていないようだった。
「え、なんでなん?」
「パーティーに蘇生魔法持ちがいる場合の初心者マップにおけるホワイトアウト、死亡時の確認は経験の積立に最善だと思うが?」
「死亡したらデスペナルティあるから最善の経験では無いんちゃう?」
「死亡を経験したい者がいればペナルティくらい払うだろ?」
「俺が言うのもなんやけど、かなり痛くて苦しいからオススメせんよ?」
「だろうな、俺は一生経験したくない」
2人が八鷹にお構い無しで議論しているのを見て八鷹は更にヒートアップする。
「お二人がどう思おうと、それをされる側になって考えて下さい!!
仮にお二人が死亡したらベルさんが一生罪の意識に苛まれるんですよ!?」
「ベルなら問題ない」
「そやね、問題ない」
「その…ベルさんへの揺るぎない信頼は百歩譲って理解しましょう。
ただ、ここにはマロン君の様な若い子もいるんですよ!?」
急に全員の視線がマロン君に向けられたため、マロン君は子犬のようにソワソワしている。
俺も八鷹に加勢しよう。俺だけなら注意を聞かない2人でもこの状況ならもしかすると。
「そうだよ、慧さんのお子さんとか、もっと若い10代以下の子にあの戦闘見せられの?
仮に自分の子供がいたとして考えてみてよ、臭いとかまでリアルに感じる世界なんだよ?
こんなのに慣れてリアルに戻ったらホルメタルパニックのソウスケになっちゃうかもよ?」
人気小説の主人公であるソウスケのように過酷な戦場経験によってリアルに戻っても日常生活に悪影響を及ぼし、何かのタイミングでフラッシュバックに襲われたり人間関係で過度な警戒心と不信感に悩まされるような事になって欲しくはない。
若い二人には分からないだろう例えであえて訴えたのは、リアルに戻ってからのPTSD(心的外傷後ストレス障害)の可能性を考えさせたくないからだ。
「あー、そのへんは考えて無かったなぁ。ごめんよ、ヤッちゃん、マロンちゃん」
「そうだな、時と場合を考えられていなかったのは俺達の様だ、今後は事前に打ち合わせをしよう。本当に迷惑をかけて悪かった。そしてありがとう、八鷹、マロン君」
「…本当に分かってくれたなら良いんですけど。本当に!気を付けて下さい」
何だか不穏な事を言い残してるが、2人が割とあっさり謝罪するのを見て八鷹も拍子抜けしたようでこれ以上の追求を止めた。
「ところで、ウメ。さっきペナルティが何とか話してなかったか?」
「ん〜、今回死亡はしてないんやけど、状態異常で【仮死】ってのになってたっぽい」
「ほう?」
反省の色が見られない会話だが、気になる情報ではあるので黙って聞く事にする。
八鷹の方を見ると渋い顔をしていたので俺と同じ気持ちだろうか。
「死亡から蘇生を経験したダンスさんは、ステータス半減ってペナルティを食らってたやん。
仮死状態からの回復はちょっと種類か違うみたいで【疲労】【衰弱】【混乱】【暗闇】とか他多数のデバフがかかってるわ。
どれがどのステータスに影響あるか良く分からんけど」
「【混乱】してるように見えんが?」
「20年前の使用だと歩く方向が逆になるやつあったやんか、たぶんあれやない?
あとなんか、永続的なデバフがどれか分からんけどありそう」
「デバフが蓄積するシステムか?
デスゲームで何度も蘇生されるなんてのはおかしな話だとは思っていたから、そこで調整をかける感じか」
梅梅と神丸がいつものようにゲームのシステムについて考察していくのを見て八鷹が小声で話しかけてきた。
「あの人達、いつもこんな調子なんですか?」
「ですよ?」
「ベルさんも大変ですね…」
「いやぁ、ははは」
苦笑しながらマロン君の様子を見ると、マロン君は小声でどうやらギルドチャットで報告している様だ。
なんて出来た子なんだ。それなのにうちの二人ときたら。睡眠不足で若干おかしくなっているとはいえもっと大人であって欲しい。
梅梅と神丸の考察が終わり、デバフ蓄積のリスクが判明するまで安全運転でいこうという話に落ち着いた。
…んん?なんかひっかかるな。
もしかして、二人ともすんなり八鷹の提案を受け入れて謝罪したのは梅梅が最初にペナルティがどうのこうの言ってたからなのでは?
判明するまでって明言してるし…。
やっぱり全然わかってねーじゃねーか!?
あっさり受け入れすぎだと思ったよ!?
まったく、やれやれだぜ…。




