第四十八話 ドン引き
HP1の梅梅に俺はストレスを感じていた。
デスゲームでこんな無茶苦茶な戦闘を行い、俺だけでなくマロン君や八鷹に迷惑をかけている。
二人の行動が俺への信頼であったとしても、こんなリスクが高い事を許してはならないだろう。
「ベルさん?」
頑張って声を出している感じのマロン君によって俺の思考はリセットされた。
前回の忍者戦では神丸のファイヤウォールで青い顔をしていたマロン君が、こんな悲惨な現場で頑張っているんだ。
「ごめん、ヒールが効かない状態は何かなと考えていてね。
多分なんらかの状態異常がかかっていてヒールを受け付けないんだと思う。
それにHPも時間経過で減るから、それを何とかしないとなんだけど…。
もしかすると呼吸をしていないのがポイントかもしれない」
俺が説明する事でマロン君が少し落ち着いた気がする。この調子で冷静にいこう。
ゲームの世界だけど、心肺停止しているなら人工呼吸か効果的だろうか?試してみるか?
俺は梅梅に近づいて気道確保を行っているとふと視線を感じた。
どうやらマロン君の熱い視線だと気付いた俺は、オッサン同士の人工呼吸などせずとも魔法で生き返せば良いのでは?という思いがよぎり人工呼吸を中断し、マロン君に歩み寄った。
「……マロン君に頼みがある」
「えぇ!?ぼ、僕ですか!?
お、おとこわりします!?」
「お、おとこわり――!?
」
「ぼ、僕、は、初めてなんで!?」
「え、お、俺も初めてだけれども?」
「え!?ベルさんもですか!?」
「んん?!そ、そうだけれど?!」
「そ、そうだったんですね」
そう言ってマロン君は赤面して一歩後ろに下がった。
いや、なん、何の勘違いが?
勢いにのまれて伝えたい事が伝えられなかった。
俺はマロン君に梅梅の口に手を当てて風系統の魔法を試し打ちして貰いたかっただけなのに…。
「二人とも何やってるんですか!?」
突然の声に驚きそちらを振り向くと八鷹が背負っていた神丸を地面に降ろし、梅梅の元に走り寄ってきた。
「いや、人工呼吸した事なくてね」
「わかりました!人工呼吸ですね!」
俺達の異常を察知したのか八鷹はとまどう事なく梅梅に人工呼吸を開始した。
「あっ」
マロン君が八鷹と梅梅による口付けをみて頬を赤く染めている。
なるほど、これが誤解の原因かな?
マロン君の年頃なら間接キスとかも恥ずかしいかもしれないな。
と、俺の若い頃はどうだったかなと八鷹の蘇生行為をぼんやりと眺めながら考える。
いやしかし、八鷹の胸骨圧迫の仕方とか何だか手慣れているような?
およそゲームの世界とはかけ離れた光景にマロン君と一緒に目を奪われていると、梅梅の身体が白い光に包まれHPがジワジワ回復し始めた。
「おお…」
「八鷹さんすごいです!」
八鷹は俺達の声を聞いて梅梅の元を離れ、疑問を口にする。
「HPが回復していく?人工呼吸で?」
「たぶん俺がさっきかけたヒール2回分の効果が出たのかな、心肺停止してたから効かなかったみたいで。
もしかしたら状態異常に【仮死】とかあるのかも」
「あぁ、それで人工呼吸だったんですか」
「何だか手慣れてるみたいだったけど、もしかして医大生とか?」
「普通の大学生ですよ、自動車免許の講習で覚えたところだったんです」
「なるほど」
「そんな事より!!何ですかこの二人!!
めちゃくちゃ過ぎるじゃないですか!?
何時もこんな戦闘してるんですか!?」
「いやぁ…まぁ…そうだね」
「最初に出会った酒場でふざけた人達だとは思ってましたけど…。ベルさんの仲間ならひょっとしたらと思ったのに。これ、なんとかならないんですか?デスゲームなんですよ?」
「面目ない」
「俺、ベルさんには付いていけますけど、正直この二人とはパーティー組みたくないです」
「ですよね」
思っていた事を全て言葉にしてくれたような八鷹を見て何と言うか変にスッキリした気持ちになった。
そうだよね、普通の人ならそう思って当然だし、俺も何だかんだでこの2人に毒されてきてるからなぁ…気をつけないと。
「2人が気がついたらその辺り打ち合わせしませんか?今なら多数決で勝てますよ」
「僕も賛成です、ベルさんの負担が大きい作戦は反対です。今、蘇生魔法が使えるのって多分ベルさんだけだと思うんです」
「え、そうなの?ルヤさん達は?」
「リザレクション習得にゾンビ相手に詠唱も工夫しながらやってるみたいですけど、残念ながら誰も成功してません」
「【塔】の皆さんもですか【円卓】も似た感じですよ」
「うぇぇ…そうなの?」
俺達は梅梅と神丸が目覚めるまで雑魚モンスターを駆逐しながら仮説を検証しあった。




