第四十六話 再確認
俺と八鷹、マロン君の3人は神丸達が経験値を稼いでいる狩り場に向かっていた。
神丸達が居る狩り場は初心者向けの場所だったため狩り場に着くまでの雑魚モンスターは八鷹とマロン君に任せ、俺は皆のステータスを確認しながら2人について行く。
ステータス画面は他人に見られる事は基本的には無いのだが、パーティーメンバー限定でステータスを任意で公開できる機能が20年前からの仕様だった。
―――――ステータス―――――
※名前 梅 神 鈴 八 マ
※基本LV 25 55 40 30 30
※HP 293 79 64 103 98
補正 +10
※SP 26 106 435 105 140
補正 +10
※STR 1 100 1 10 1
※INT 1 10 79 15 22
※DEX 1 1 1 15 5
※VIT 49 1 1 11 10
※AGI 1 1 1 12 10
※LUCK 1 1 1 1 16
――――――――――――――――――――
こうして比べて見ると、神丸は一番レベルが高いのにHPが八鷹とマロン君より低い事が分かる。オッサン3人の極振りステータスがおかしいのか、八鷹とマロン君のステータスがおかしいのか…。
いやこれ、やっぱり八鷹とマロン君もかなりおかしい気がする…。
八鷹の職を全て聞いてないのでハッキリとした事はまだ言えないけど、パッと見た感じ魔法剣士としては器用貧乏なステータスな気がする。
マロン君は確かまだソーサラーだけだった気がするけど、魔法職の割に素早さ(AGI )を上げているし、幸運(LUCK)なんていう普通なら取らないステータスを結構あげてる。
それに2人とも体力(VIT)に少し振っているのはやはりデスゲームだからだろうか?
ゲーム攻略的には極振りじゃないと最終面において厳しいゲームだが、神丸のHPから分かるようにレベルがあがっても異常に低いHPは一発被弾すると即死するというリスクが常に隣り合わせだ。それを考えるとデスゲームにおいては体力に振るのが正常な気かする。
ん?あれ?
そういや神丸だけなんか補正が付いてる?
前回そんなのなかったはずだけど。
『ゴッド、この補正って何?』
ギルドチャットで連絡したがゴッドからの返事が遅く、俺の声が聞こえていたらしい八鷹とマロン君がゴッドより先に反応して雑談しながらスライムを蹴散らしていく。
「八鷹さん、補正って何ですか?」
「ベルさんはステータスの話しをしてたはずだからステータスを向上させるアイテムとかスキルとか、そういうものじゃないか?
例えば何か料理を食べるとSTRが30分だけ+10されるみたいな感じの」
なごやかな2人のやりとりを微笑ましく思いながら見ていると神丸から返事があった。
『――すまん、ちょっと集中していた。
それで何だ、ステータス補正についてか。
【体力増加Lv1】【魔力増加Lv1】を先程習得してな』
『えぇ!?どうやって!?
それって大発見じゃない?!
確かナイトとメイジのバッシブスキルだよね?』
『大発見かは分からんな、俺達が知らなかっただけの可能性はあるぞ?
職業固有のバッシブスキルによるステータス補正は20年前からあっただろ?』
『いやいやいや、そんな当たり前みたいに話されても。そもそも古参じゃないと職業固有のバッシブスキルなんて知らないわけだよ』
『なら古参勢の【円卓】さんは知っていた可能性もあるんじゃないか?』
『こんな重要な事知ってたならこれまでの会議とかで報告あったんじゃない?』
『どうだろうな、ちょっと八鷹にそのへん聞いてみてくれるか?』
俺は神丸の疑問を八鷹に伝えると、そんな話しは聞いた事が無いと言う。
むしろ八鷹とマロン君から職業補正についてキルドチャットを使って報告したいというお願いをされたので俺は神丸に職業補正習得の条件を聞く。
『そうか、知らなかったのか。
このバッシブスキルはハッキリした何かがあって習得できた訳ではなくてな、おそらく日々の鍛錬が職業補正を習得する条件だろう』
『え、鍛錬?素振りとか?』
『その類いのものであっていると思う。
俺はデスゲーム2日目から暇さえあれば素振りやスクワット、魔力を指先に集約できないかといったような事を試していた。
おそらくだが…それらの行為が蓄積し、スキル獲得に必要な経験値として加算されバッシブスキルを獲得できたのだと思う。そうでなければ基本Lv55にもなって体力増加Lvが未だ1しかないというのはおかしいだろう』
『ふむ、確認だけど、習得クエストをこなしたとかじゃないんだよね?』
『そうだ、もしかすればそういうクエストがあるのかも知れんが俺は知らん。
剣士の職業スキル【強打】など、レベル0からレベル1にするのにイメージが大切だった事からおそらくバッシブスキルを得るためにもそういうイメージが必要なのだと思っていてな。
俺の習得方法はそんな感じだったというだけで他の方法でもあがる可能性はあるんじゃないか?』
『つまり個人個人が鍛錬と思う行動の蓄積が習得に繋がるって事かな?』
『おそらくな。ベルの詠唱によるスキル習得もそういう類のものだろ?』
『いや、それはまだ俺も良くわかってないんだけど…』
『そういえばスキル習得後の今は詠唱無しでも使えるのか?』
『どうだろ、まだあれから使ったこと無いんだよね』
八鷹とマロン君がそれぞれのギルドに報告を続けていたので2人に替わって俺が先頭を歩き始めると、タイミング良く騒がしい声が聞こてきた。
「今食らってた攻撃!痛みはあるのかー!?」
「あるで!!」
「vitを上げてる分!痛覚は鈍るか!?」
「多少やな!!あと、にぶってても痛いで?!
ダメージによっては激痛も有るし!!!」
物騒な2人の会話とともに視界に入った異様な光景。
人間サイズのイナゴの大群に追われる梅梅と、追跡から脱落したイナゴの背中に一撃を入れて瞬殺していく神丸の姿を確認した。
「ちょ、トレインかよ」
まさかの光景につい1人ツッコミをしてしまった。列車の様に連なって移動するトレイン狩りとは前衛職など1人が敵のヘイトを集め、後衛職などが殲滅する戦法だ。
ある程度2人の行動を予想していたが、まさか回復職を連れていないのにデスゲームでトレイン狩をやるとは…。
トレインしているモンスターが低レベルとはいえ、一歩間違えると大群に袋叩きにされ身動きが取れないまま圧死する可能性がある危険な狩り方のはずだが…。
「………まぁ、大丈夫なのか?」
パーティーメンバーのHPを確認できる事に加え、神丸からのHELPか無かったからか俺は異様な光景を見ても焦る事なく、八鷹とマロン君に手振りで待機するよう合図をしてしまう。
あの様子だ。八鷹とマロン君のギルドチャットが終わるのを待ってから神丸達と合流すれば良いだろう。
「お!神丸!3人来てるで!」
「ふむ、試してみるか」
神丸は立ち止まると何やら詠唱をはじめたような…。
「ベル!SPに余裕ある!?」
梅梅が何故か一際大きな声で問いかけてきた。
「え?あるけど?」
「神丸!バッチコーイ!!」
俺はこの二人のノリにまだまだついていけていなかったようだ…。




