第四十五話 ギルドチャット
「―――」
「―――――」
ぼんやりと意識が覚醒してきたのを感じ、誰かが話す声が聞こえる。これは女の声か?
まぶたをゆっくり開けてみると気付かれた様ですぐに話しかけられた。
「あ、気が付きましたか?」
まぶたを開けると至近距離に茶髪の少女?の顔があった。あれ、これ前にもこれあったような…。
「って!?マロン君やないかい!?」
俺はあわてて叫び声とともに上半身を起こしたのだが、それがいけなかった。
「ッッッぐはぁ!?」
目から火花でも出るんじゃないかと思う様な鋭く深い痛みに意識が朦朧とする。
「だ、大丈夫かよ…」
「ぼ、僕は大丈夫…です」
「あ、いや、ベルさんの方ね」
八鷹の声音はリアルに引いている声だが、マロン君は何だか恥ずかしがってるような。
痛みを堪えながら薄目をあけて確認するとやはり赤面していた。いつもながら申し訳ないな…。
「うぐぐぐ…」
いや、しかし、痛すぎてまともに会話できんぞ。
俺とマロン君は額をぶつけあう程に急接近
したのだが、案の定ぶつかる瞬間見えない壁に弾かれた俺は硬い石畳に後頭部を叩きつけるというコントさながらの神技をやってしまったのだ。
え、何の神かって?もちろんお笑いの神だ。
「ベルさん、笑えないって…むしろ痛い」
「そ、そうですよ!?
身体を張ったお笑いは禁止しましょう!?
心臓に悪いです!!」
あれ、俺の心の声はどのあたりから漏れてたんだ…。ま、まぁ特に変な事も言ってないだろう。たぶん。
「あはは、ごめんごめん」
俺は平静を装い2人に謝りながら立ち上がり、状況を確認する。
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DAY【1090/1095】
Time【10:30】
DEATH【82/1000】
―――――――――――
また2人死者が増えていた。
リアルの世界でも毎日何かしらで人は死んでいるんだし、八鷹達から特に訃報の連絡もないので知人の可能性も少ないと思う事でストレスを最小限に抑える。
てか、もうこんな時間か…。
「あ、れ?
そう言えばウメとゴッドは」
「僕達が来た頃にはベルさんしかいませんでしたよ?」
マロン君の返答に八鷹も頷いてみせた。
「やっぱりか」
溜息とともに2人に苦笑してみせたその時、盛大なファンファーレがどこからともなく聞こえ、視界に文字が浮かび上がった。
―――――――――
【通天閣商会】
ギルドのレベルがあがりました。
ギルドチャットの機能を開放します。
―――――――――
「う、うお!?
あいつら、やりやがった」
俺はファンファーレに驚いて興奮気味に二人の顔を覗くが2人は俺の言動を不審に思っているような表情をしていた。
「あ、そうか。
もしかして同じギルドじゃないからさっきのファンファーレとか聞こえてない?
ギルドチャット開放しました〜てやつとか」
八鷹とマロン君は顔を見合わせてから八鷹が俺に答えてくれる。
「聞こえてないし、見えてませんね」
「今ギルドチャット開放されたんですか?
おめでとうございます!
慣れると便利ですよ」
マロン君は笑顔で拍手までしてくれていた。
『起きてるか、眠り姫。
ギルドチャットを開放したぞ』
「うぉ、ゴッドの声が聞こえてきた。
これ2人には聞こえてるの?」
「聞こえませんね」
『くそぉぉおー!!
俺の作戦が見破られるとかほんま!!
もしやクレさんの入れ知恵なん!?
まぁ、深くそこは追求せんけど?
ベルの希望通りにギルドチャットを開放したで!これで言伝システムに都合の良い嘘ついた事はとりあえずチャラにしてや!』
神丸と梅梅が寝不足時にありがちな妙なハイテンションでギルドチャットを行ってきたので俺は八鷹とマロン君に少しの間待ってもらう様に伝えた。
それにしてもやはり思った通り、二人は言伝を確認するという大義名分をひっさげて朝から酒場に行ったようだ…あとで叱ってやらないと。
ギルドチャットをしばらく体験すると、ボイスチャットではありつつも視界の左端に会話ログが残る感じを確認する。
これは興味深い機能だ、変な発言をしたらギルド全員に知られるリスクがある。
『ギルドチャットのやり方は視界の左端にある薄いサンテンリーダーの位置に指を数秒あわせると発信先を選べるから、ギルドに設定したあと会話する感じで成立するで。
ベルよサンテンリーダーを探すんやサンテンリーダー』
ええぃ梅梅のやつ、かなりうるさい感じに仕上がってるな、リアルでも寝不足と空腹時はたちが悪いからなぁ…。
『あ、もしかしてサンテンリーダーわからん?ほら、ドラコンポールのキャラクターのおでこにあるやつの半分みたいなやつ』
『うぐぐ、ま、マロロンのことかー!?』
『そうそう、それやで』
俺のギルドチャットの第一声を聞いてマロン君が何故か頬を赤らめる。
いやいや、なんでやねん!?
「すみません、ベルさん」
「ん?八鷹どうしたの?」
「その、ギルドチャットを選択して話した場合なんですが」
「うん?」
「近くにいる人にはそれはそれとして聞こえるんですよ…」
「え?それってその、今のやつも?」
「はい」
俺はマロン君の顔を見つめながら、何を言っても説得力にかけるなと思いこれ以上言葉を重ねない事を選んだ。ごめんよマロン君。
こうして俺達はギルドチャットをしながら合流の段取りをつけたのだった。




