第四十三話 可能性
「もしかしたら娘さんだけ先にログインしてる可能性があってね…」
クレさんの発言に俺達全員が凍りついたのは、これがデスゲームである事を認識している証だろう。
都合の悪い事はうるさく冗談めかして誤魔化してしまう梅梅でさえ黙りこんでいる。
神丸も今頃は沈黙の中で多くの可能性を考えているはずだ。
クレさんと視線を交わすとクレさんは短く頷き、話を続ける。
「どこから話そうかな…」
「それじゃ、何でクレさんは娘さんの事を知ってるの?」
俺はまず気になっていた事を切り出した。クレさん本人の話なので嘘では無いと思っているが、やはり確認しておきたい。
「あぁ、そこからになるんだね。
慧さんとは20年前にバンド繋がりで連絡先を交換していたんだけど、当時は結局連絡する事は無かったんだ。
それが新作Roが出ると分かり始めた頃から連絡があってね。もしかしたら他の皆もいるかもしれないからやってみないかって」
「ウメみたいな感じだな」
「さすが心の友」
ウンウンと大袈裟に頷く梅梅を横目にクレさんは話を続ける。
「娘さんが慧さんと一緒に遊びたくてってのが事の発端らしいんだけどね、父親のハマってたゲームに興味があった感じらしいよ。
ただ慧さんは仕事の都合でセレモニーには間に合わないって連絡があって、後から合流予定だったんだよ」
「ふうん、えほえほとか、とらくえみたいなもんか。父親のゲームが子供に奪われていくやつ」
「…うちは違ったが、そういうパターンもあるんだな」
梅梅と神丸は話ながらそれぞれ納得しているようだったので、俺は次の質問にうつる。
「慧さんについては分かったけど、娘さんとクレさんが所属してるギルドにどんな関係かある感じなの?」
「俺が所属してるギルドだけど、多分この世界の中で一番大きなギルドになるんじゃないかと思うんだ」
「円卓の誓いの皆さんいてたけど、それより大きいん?」
「あ、円卓さんいるんだ。
でも円卓さんより大きいと思うよ?
いやほら、覚えてない?
混乱してたセレモニー会場で協力して助け合いましょうって叫んでた人達」
「いやぁ、さっぱり」
「クレさん、なんだ、俺達はその時には酒場にいた」
イマイチピンと来てないクレさんに苦笑して説明する。
「ウメの提案で割と早い段階で酒場に移動してたんだよ」
「花火大会とかテーマパークのパレードに最後までいてたら数時間人混みに巻き込まれるやん?あれよあれ」
「ええ……梅さんらしいといえばらしいね…」
力無く笑うクレさんに俺は質問を投げる。
「どんな感じだったの?」
「頑張ってる学級委員長みたいな感じかな?
経験者だとか言わずに善意に訴えかけて人を集めてたから、たぶん未経験者だと思う」
「ほぅ、それで良く混乱を収めたものだ」
「神様もそう思いますか」
「よほど強力な意志が無いとできないだろう。ウメなんて無視して即座に移動した、悪い大人はたいていそんなもんだ」
「そうそう、悪い大人!
って、なんでやねん!?
皆ついてきたやん!?」
梅梅はノリツッコミを神丸にキメるが神丸は眉一つ動かさずクレさんに続けて質問する。
「何人ぐらいのギルドで、ギルド名は何て言うんだ?」
「ギルド名は【クロノスシフト7th】で約350人」
「350人!?
ギルドレベルどうなってんの!?」
梅梅が驚くのは無理もない。通天閣商会のギルドレベルはまだ1だし。ギルドメンバーの最大値も初期値の50人なのだ。
「ウメ落ち着け、7thとか言ってただろ?」
「それがなんなん?」
「おそらく、1st〜7thまであるんだろ」
「さすが神様!」
クレさんは神丸に向けて大きな拍手をしていた。昔から気になってたけど、今も神丸の事はリスペクトする対象のようだ。
とりま、そんな事より話をすすめよう。俺は神丸に話をすすめる様に促す。
「なかなかのネーミングセンスだね」
「あぁ、時間を操る神クロノスと、状況を変える意味のシフトを組み合わせてデスゲーム攻略するみたいな厨二的な名前だな。
350人も集めたんだから、人を惹きつける要素をうまく扱える奴がメンバーにいるんだろう。
北欧神話を舞台にしたゲームにあえてギリシャ神話の神の名前をもってくるのは…、いや、まぁ、考えすぎか」
「通天閣商会は厨二的?」
「大阪的だな」
「なんでやねん!?」
「…それで、クレさんは7つあるうちのひとつにいるってことであってるの?」
渾身のツッコミを入れる梅梅を放置して俺もクレさんに確認をする。
「ええ、そうです」
「少しまとめるか」
「神様お願いします」
「まず、慧さんの娘さんがいる可能性があり、いる場合はクロノスシフトに入っている可能性が高い。
問題なのは娘さんの名前が分からない事と、クレさんが入ってない1〜6に所属している可能性もある事。更に、クロノスシフトにそもそも入ってない可能性もある。
クレさん、せめて名前くらい分からないのだろうか?」
「それが慧さんと娘さんで姓名の姓は合わせるって聞いてはいたんですけど、なんて姓かは聞けてないんですよ」
「慧さんが昔使ってた姓なら『真崎』だが、7thにはいるのか?」
「残念ながらいないですね。そもそも姓名に分けてる人がいないですよ」
「となると、姓名に分けてる人を探すのが手っ取り早いかもしれんな。拠点にしている場所はあるのか?」
「拠点はまだ無いですね、素人集団に近いですから野宿しないようになんとかやってる程度ですよ」
「ふむ、どうしたものかな」
俺達はしばらく思いつくままに意見を交わした。




