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第四十二話 20年

 酒場に入った俺達は丸テーブルを囲み、木製のジョッキになみなみと注がれたエールを頭上に掲げ、ゴッドの音頭を待った。


「我ら、生まれし日は違えども、死す時は同じ日、同じ時を願わん。クレさんとの再会を祝って乾杯!!」


 全員で乾杯と叫びジョッキをぶつけ合う。こぼれたエールが顔にかかるが、皆そんな事は気にならないといった感じで満面の笑みを浮かべている。


「クレさんに!」


 俺は嬉しくてもう一声発すると、神丸と梅梅が続けて被せてきた。


「クレさんに!」

「マスター!クレさんにつけといて!」

「もうやめて?!俺の所持金はゼロよ!?」


 元ネタが分からないと意味不明になるような掛け合いでふざけられる友人は数少ない貴重な存在だ。


 こんな状況だというのに皆ひとしきり笑い、エールを流し込んでこの時間を堪能する。これが大人の余裕というやつかもしれない。


「それでクレさん、通天閣商会に入る?」


梅梅はいつでも申請を遅れる様にか手をひらひらとさせてニヤニヤ笑っている。


「それなんですが、少し待ってもらっても良いですか?」

「あら」


脳がフリーズした様な梅梅と、何か考え事をしている様な神丸を横目に俺はクレさんに質問する。


「もう他のギルドに所属してるとか?」

「ええ。ただ、それだけなら挨拶して抜ければ良いだけですけど、ちょっとした理由がありまして」

「理由って?」

「何かあったの?」

(ケイ)さんに関する事なんですけど」

「え、(ケイ)さんもいてるの?!」


 脳のフリーズがとけたのか、目を輝かせる様にして梅梅が話に食いついてきた。

 (ケイ)さんは当時の通天閣商会メンバーで梅梅のマブダチだ。

 「おぉ、心の友よ」とか当時から2人はやりあってた気がする。


(ケイ)さんがいれば単純に嬉しいし、一流の前衛が増える事にもなるので心強くもある。ただ、デスゲームに巻き込まれた友人が増えていく事になるので喜んで良い場面なのかは正直微妙だった。


「それがログインの時間的にちょっと分からないんですよね。予定ではオープニングセレモニーが終わったあたりから来れそうだと言う事でしたから」

「ほんまかぁ…」

「友人ならデスゲームに巻き込まれてない方を願っておけ」


 目に見えて落胆する梅梅を神丸が眉間にシワを寄せて叱っていた。


それはまぁそうなんやけど―――。と言う二人のやり取りを見て笑うクレさん。俺は二人が落ち着いたタイミングを見て話を進めた。


「もしかして、クレさんが所属してるギルドに(ケイ)さんが入ってくるかもとか、そういう感じなの?」

「いや、それがね。(ケイ)さん、娘さんと一緒にゲームする予定だったんだけど―――」


「「「えぇッ!?」」」


 俺達3人は娘さんの存在に驚き、シンクロ率100%を叩き出した。梅梅なんかすでに暴走モードだ。


「娘さんて、リアルな娘?

 いや、リアルな娘てなんや、お子さん?

 お嬢?ま、まぁ確かに20年も経てば結婚して子供がいてもおかしく無いけど?!

 え、まさかクレさんも?!」

「ははは、確か14歳のお子さんだったと思いますよ。俺はまぁ、まだ気楽な独身貴族を続けさせてもらってます」

「そうかぁクレさんは予想通りやけど、(ケイ)さんそんなに大きな娘さんおるんかぁ。まぁ、リアルイケメンだったしなぁ」


 苦笑するクレさんをよそに、梅梅が思い出に浸り始めたので燃料を投下しとこう。


「確かイケメンすぎてストーカー被害にあったんだよね?」

「最早伝説やで、容姿端麗すぎてラブコメの主人公かと思える感じで女から迫られる人生。内面を見てもらえないとかの悩みからネトゲにハマったとかいう、なんでやねん!な話」


 言いたいことを言い切ってスッキリしたのか、梅梅の暴走が落ち着いてきたな。


「それでその、やっぱり3人とも俺と同じ独身?」


 クレさんのやっぱりという失礼な質問に直ぐに返事ができず、梅梅もどう応えようか悩んでいたところで神丸が変わりに答えた。


「ウメは結婚してるぞ」

「え、それって…リアルで?」


 クレさんが信じられないという表情で見つめてきたので答える。


「嫁さん見たこと無いけどそうらしいよ?」

「なんだ…、やっぱり神様の嘘か」

「なんでやねん?!」


 梅梅のツッコミがクレさん綺麗にに決まったところで梅梅が改まって話し始めた。


「まぁなんや、結婚してるけど、あんまり気にせんといて。気を遣わせたら悪いし。それよりその娘さんがどう関係してるん?」


 話を変えたいのか梅梅は話を戻してくる。


「あぁ、それなんだよ。もしかしたら娘さんだけ先にログインしてる可能性があってね…」


 クレさんの爆弾発言に俺達は言葉を失い、全員がクレさんの次の言葉を待った。



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