第四十話 借金
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DAY【1091/1095】
Time【22:30】
DEATH【80/1000】
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楽しい時間はあっという間に過ぎ、俺達は月光で見渡せる薄暗さの中を路地裏目指して歩いていた。
「また路地裏かぁ…石畳は痛いんだよね。ベッドで眠った記憶が欲しいよ」
「ん?ベッドで寝てたやん」
「いやいや、起きたらベッドだったわけで、寝るまでのシーツの感触とかふかふかのベッドに沈み込むとかそういう記憶よ」
「あぁ、俺は有り難く頂戴したで、ゴッドはベルの隣で監視してたからどうかわからんけど」
「ベルの隣で狭かったが、少なくとも石畳より良かったな」
「ぐぬぬ…二人とも…」
八鷹とマロン君は【街の中心亭】に宿を取っていたため一度別れる事となり、別れる前に2人には【通天閣商会】のパーティーに入ってもらった。
20年前のゲームと違い、どこでも連絡が取り合えるパーティーチャットはできないが、パーティー加入により2人がいる方向を知ることができるためだ。
ちなみに【円卓の誓い】【赤い森の塔】は既にどこにいても連絡が取り合えるギルドチャットの機能を解放しているが、【通天閣商会】は俺が寝ていたためにまだだという話だ。
「まぁ慣れる事だな。どうせウメのことだ、これから数日は路地裏の予定なんだろ?」
「えぇ!?」
神丸の言葉で俺は梅梅を見やると梅梅はいつもの調子で答える。
「酒場の椅子とか床って可能性もあるで」
「ベッドの可能性は?」
「【円卓】さんへの借金返済が済むまで無理やな」
「そんな…」
「ここ数日でやっと相場の事が分かってきたんやけどな、実は食事が一番割高やわ。俺らが貧乏なのはそのせいよ」
「え…」
「ベルに渡した林檎、覚えてるか?」
ゴッドがあごをさすりながら聞いてくる。
「美味しかった事を覚えてるけど?」
「あれなんだがな、ウメが装備してる初心者用ナイフと同じ価格だ」
「ん?それって価格が上がってるって事?」
「そうだ」
林檎の価格高騰よりも、俺達がまだ初期装備だった事に驚いてしまうぞ…。
ま、まぁ、ひとまず装備の話は後回しだ。
たしかRoでの貨幣名は銭だったかな。
「林檎って20年前は5銭じゃなかった?」
「20年前はそうだったが今は50銭だ。食料は軒並み10倍の価格になってると思った方が良いだろう」
「じゅ、十倍!?」
「あぁ、ちなみに初心者ナイフは当時から50銭だったから、食料だけが高くなってるな」
「なんでそんな事に…」
「たぶんやけど、毎日生きるために金が必要な方が運営にとって都合が良かったんやない?
モンスター討伐必須という形の方がデータとか取りやすそうやし」
「それってご飯食べないとやっぱりデバフとかあるってこと?
ゲームだから食べなくても大丈夫みたいなことは?」
「デバフは確認できてないが、リアルみたいに腹が減って辛くなるし、血糖値が下がったような活力の低下を感じるな」
「そうやんなぁ。
腹が減ったらめちゃくちゃイライラするから、やっぱり飯は食わんとあかんよ」
「そこやっぱりリアルにしてるんだね。
それじゃトイレとかもリアルに?」
「トイレはたぶん必要ないな。
俺達もここ数日排泄の欲求は無かったから機能としては無いと考えるべきだろう。
【街の中心亭】にもトイレが無かった。
ただ、有料の風呂があったぞ。金が無いから入れなかったが」
「ほんまひどい話よ、何でもカネカネって」
ヤレヤレといった感じで梅梅が肩をすくめ首を振っている。
「ひどいと言えば俺達の財務状況でしょ。
【円卓】や【塔】の皆はお金あるから泊まれてるんだよね?」
「【円卓】さんは数の力と宗教みたいに集金してるんやない?全員の職業とか装備とか徹底した管理されてるから、優先順位つけて前衛だけ装備しっかりさすとか、決められた物を食べるとか、そんな感じやと思うで?」
「それじゃ【塔】の皆は?」
「今回の祝賀会費用出せる程の余裕は無かったっぽいから、割とカツカツなん違うかなぁ?」
「えぇ…祝賀会を言い出したのは?」
「俺やけど?」
「なるほど…」
さすが梅梅…金が無くても実行するあたりやりたい事はどんな手段をとってもやるという当時からの性格は変わってないみたいだ。
「ゴッドは反対しなかったの?」
「金で得られない何かを得る切っ掛けをベルが命懸けで掴んできた。それをウメが強固に繋げた。特に反対する理由もなかろう?俺はそんな無粋な男ではない」
意外とよい感じの事言ってるけど、この2人の事だからそんな良い理由じゃない気がするんだけどなぁ…。
「まぁまぁ、ゲームの借金なんて死ぬ事と比べたら安いもんやで。これから先の攻略やって上位ギルドど協力しといたほうが楽やろうし、共闘した時にピンチになったとしても前衛さんやろ危ないの」
「狙いはそれか」
「まぁ同盟言うても常に一緒に攻略わけやないで?基本はそれぞれ各自やし、情報の共有とかがなんやったらメインよ。危険の存在とか、未知の発見とか、なんやったらベルのハイリザレクションと詠唱について検証されてるで」
「ええ?!」
「まだリザレクション使える人おらんでな、てか詠唱ってなんやねん」
「いや、俺も適当に詠唱っぼいの言ってるだけだよ?未習得のスキルを何とかして使いたいっていうイメージを強化して効果あるのかなってくらいよ」
「ほーん、まぁそれもそのうち細かく聞こか、俺等のレベル含めて一度これからの作戦会議必要やろし。パーティに2人入るんやからそのへんも含めて」
とかなんとか話していると路地裏についた。
「ということで、まぁ今日は寝て明日に備えよ。強制寝落ちで和を乱す事の無いように」
「どの口がそれを言うか」
「それじゃおやすみー」
「おつ」
口を挟む間も無く二人は前回と同じ辺りで就寝したようだ。
う、うーん。
俺は起きるのが遅かったからまだ眠く無いんだけどな。
ぼんやり腕組みをして夜空を見上げていると、男の声で急に話しかけられた。
「そのポニーテール、まさかとは思ったけど本当にベルさんだったか」
「え、俺を知ってるんですか?」
なんだな全体的に細いスラッとした黒髪の男がそこにいた。名前を確認してみると、三日月とあるな。
「三日月さん?どちらでお会いしましたっけ?」
「20年前一緒に遊んだクレッセントファングと言えば分かるかな?」
「えええ、まさか、クレさん!?」
元【通天閣商会】のギルメン、クレさんと俺は再会した。




