第三十九話 真実
「リタさんすみません、助かりました。
八鷹もありがとう」
祝賀会でのアルコール騒ぎは案外すぐに収まった。
お冷の効果で酔いが覚めるというのは本当だったらしく、酔っていた者はお冷を一口ふくむとすぐに正気に戻ったのだ。
こんなに効果があるなら酩酊の状態異常を回復するのに普段から持っていても良いのかもしれない。
酔いから覚めた【赤い森の塔】のメンバーがリタと八鷹にそれぞれお礼を言い、そのままちょっとした自己紹介が開始されたので見守っていたのだが、八鷹から俺にキラーパスが飛んでくる。
どうも俺に出向組の仲介をして欲しいと言うのだ。
20年前から平均年齢が高かった【円卓】とは違い、おそらく【塔】は若者しかいないギルドだ。
それに女性比率も高く、マロン君に至っては男なのに可愛いという事からおそらく恥ずかしさなどもあるのだろう。
若さよのぉ、八鷹に向けて優しく微笑んで見せると何故かげんなりした顔をされた。
ま、まぁ気を取り直して。俺は八鷹とマロン君を向かい合わせて二人の紹介をする事にした。
「八鷹、こちらマロン君。
まだ俺も一回しか一緒に戦闘してないけど、職業はソーサラーをしていて良く人の動きを見て臨機応変に対応できる感じのプレイヤースキルの高い人だよ。
普段から優しいし良く回りを見ているから、俺も何度か助けられて貰ってるんだ、マロン君には感謝しかないよね」
俺の紹介がうまくいったのか【塔】のメンバーからは笑顔を頂き、マロン君からは林檎ほっぺとモジモジした感じを頂く。
これでは八鷹にも誤解される可能性がある。
もうひとつ追加しておくか。
「あとは見た目も動きも声も可愛いから、女の子に間違えられてナンパされたりするんだけど。こう見えて男の子だからもし絡まれたりして困ってたら助けてあげて欲しいな」
マロン君は恥ずかしかったのか赤面という言葉通りに顔を真っ赤にしている。
ナンパされるというのはちょっと余計だったかもしれない。
「…お、おう」
八鷹が微妙な表情で俺に視線をくれるが、何だろう?
まぁ、とにかく。これで誤解されないはずだから問題無いはず。
ん、そう言えば。
誤解している可能性といえば…。
「あとついでに誤解してたら悪いから連絡しとくけど、うちのギルマスのウメは俺と同じで中身オッサンだからね」
梅梅の紹介に八鷹とマロン君、話を少し離れて聞いていたリタさんと【塔】のメンバー全員が驚きの表情をしていた。
そうか、やはりまだ報せてなかったのか。
梅梅は確信犯的なところがあるからなぁ…。
「それじゃ、次は八鷹だね。
職業は魔法剣士でまだ実力を詳しく知らないけど、攻撃魔法の使い方からしても結構洞察力があると思う。
それに八鷹は責任感の強い真面目でしっかりした人だと俺は思うよ。
ちゃんと自分の意見を言えて現実を見ていて、それでいて俺の命の恩人でもある。
生命の大切さをちゃんと分かってて、仲間想いな事からまだ短い付き合いだけど信頼できる人だよ」
マロン君程ではないが、八鷹もムズムズしたような表情をしていた。
確かにリアルなら恥ずかしいくらいの内容だが、ここがゲームの世界であり俺自身もそういう事に恥ずかしさを感じなくなってきた年齢でもあるので更に続ける。
「正直、マロン君と八鷹が出向組だって聞いて俺は嬉しかったな。
たぶん年齢は二人とは親子程離れてると思うけど、気軽に馴染んでくれたらと思うよ」
そういえば、年齢についてはまだ誰にも聞いていなかったなと思いながら皆を見渡していると、リタさんが口元に指を当てている。
あぁ、なるほど、女性に年齢は聞くべきではないな、リタさんは恐らく俺より年上だろうし…。
よし、こんなもんだろう。
「はい八鷹、握手」
「あ、ああ」
二人はそれぞれ挨拶しながら握手を交わすと周囲からも拍手が飛んできた。
どうも他の【円卓】メンバーにも聞き耳を立てられていたようで、八鷹や【塔】のメンバーに向けて挨拶が投げかけられていた。
「なになに、何かうまいことやってるやん?
流石は好青年といったところやね」
「いやいや、もう良いって」
合流してきた梅梅にツッコムが、梅梅は俺のツッコミなど気にせず周囲の皆さんへの挨拶を『まいど』と『おおきに』の2つで次々とこなしていた。
「あっちはもう良いの?」
「いやまだやけどな、なんか悪口言われてる気がして口止めに」
「え?」
「まぁそれは冗談として。八鷹ちゃんとマロンちゃんって何歳かなと聞きにきたんよ、アーさんとルヤちゃんは本人から聞くべき言うから」
「まぁそうだろうなぁ。
それで、アーさんってアーサーさん?」
「そうそう、呼びにくいからあだ名」
「なるほど」
「と言う事で、お二人さんおいくつ?」
梅梅はニタニタ笑いで有無を言わせない勢いで二人に質問する。リアルならパワハラとセクハラだろうからハラハラするぜ…。
「15です」
「「「「若ッ!!」」」」
マロン君の返答に俺と梅梅と八鷹とリタさんの声がハモった。まじか。
「八鷹ちゃんは?」
「19」
「八鷹ちゃんはおおかた想像通りや」
「梅梅さん達は何歳なんですか?」
「八鷹ちゃん、それ、リタ姉にも聞いたん?」
「いえ、聞いてないですけど」
「ほんなら教えられへんなぁ。女には聞いたらあかんこともあるんよ。
ただ、ベルとゴッドの年齢は40歳やって事だけ教えとこ、男やしええやろ。
あと大事な事!お二人さんの年齢と性別も、ベルとゴッドの年齢も嘘かホントかなんなわからんから!信じるか信じないかは貴方次第!!
んじゃ、とりまこれだけやから、ほんなら皆さんまた!」
梅梅は相変わらず好き勝手に聞きたい事と言いたい事だけやりきって去っていった。
「二人ともゴメンね、あのウルサイのがうちのギルマス」
「いえ、それよりベルさん。すみません、そんな歳上だったとは知らずに」
「いやいや、年齢なんて関係ないからこれまで通りに話してくれたら良いよ?
【円卓の誓い】の皆さんの時はどうしてたの?」
「いや、特に気にならなかったので聞いてませんでしたよ、何となく察してましたね」
「なるほど」
20年前の有名大手ギルドだったとかの情報も普通知らないから年齢の予想とかも普通ならつかないか。
「あ、あの」
「マロン君どうしたの?」
「僕たちはベルさんの年齢、前に話してくれた時に何となく想像ついてたんで、幻滅とかしてないですから!」
「え、あ、うん。ありがとう?」
「それより、ベルさん何か食べましょう!」
「あ、うん。八鷹も取りに行こうか」
「そうですね」
こうして俺達は少しの時間、平和な時を過ごしたのだった。




