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第三十六話 犠牲者

 ちょうど林檎を食べ終わる頃にドタドタと音が聞こえてくる。


 誰が来たのかと身構えていると、ノックも無しに扉が開いた。


「おおおおお!」

「うぉ!?筋肉だるま!?」

「無事で何よりだ!!ベルよ!!」


 上半身裸の男が逆三角形の体型を見せつけるようにして襲いかかってくる。


 迫りくる恐怖に硬直した身体は咄嗟に避ける事ができなかったが…男は見えない壁にぶつかったようで後ろに弾き飛ばされ大きな音とともに背中から倒れ込んだ。


 まさか街中で触れ合いができない事にこれ程救われるとは…。

 しかし、この倒れる動きどこかでみたような?…あぁ、そうか、ダンスだ!


「ダンスさん、危ないですよ!」

「いやいや、スマンな、感謝の気持ちを分かりやすく伝えたくてな、ふはははは」

「ふむ、そういう事なら俺は外に出ていよう、来客が来た際はノックするから気にせずに友好を深めると良い」

「え、ちょ、ゴッドさん?何かかんち―――」


 俺の話を最後まで聞かずに神丸は部屋を出て扉を閉めた。


「いやいや…ゴッドめ、何を勘違いしてるんだか。それよりダンスさん、何で裸なんですか?」

「これか?

 ヘビーアーマーをゾンビメタルに壊されてな、残念ながら今は買い直せる金がないんだ」


 笑いながら胸を張るダンスを見ると、ゾンビメタルによって貫通していた穴の姿が一瞬脳にフラッシュバックする。

 目を一度閉じ額を軽く押さえながら気を取り直して応える。


「そういう事ですか…って!

 そんな事より!あの後どうなりましたか!?

 皆さんご無事でしたか?」

「あぁ、そのあたりを話そうと思ってな、こうして急いで来たのだ」


 ダンスは急に真面目な顔になり、先程までの馬鹿みたいな明るさが消えた。


「良いか、まず1つ大事な事を伝えておく」

「え、ええ」

「ベルがパイク救出を手伝ってくれていなければ、俺はここに今いなかったのは確かだ。本当に感謝している」


 俺は頷く事で返事をすると、ダンスは話を続ける。


「最初に3人死んだ時、ベルに生き返して貰えずに戦闘が継続していれば、おそらく全滅もありえただろう。

 だから、ここから先の話にベルは責任を感じる必要は無いぞ?」

「そ―」

「必要は無いぞ?」

「…分かりました」


 ダンスの強い意志が目を見ると伝わってくる。


「まず、アストルは行方不明」

「…」

「そして犠牲者はアストルについて行った、ロードナイト、パラディン、そしてアーロンだ」

「!」


 思わず声が出そうになったが、今はその時ではない…、最悪の事態も覚悟したはずなんだ。 


「次にベルがホワイトアウトした後の話をしていくぞ―――」


 ダンスの話によると俺のハイリザレクションの効果でゾンビメタルは倒され、ダンスとリタはHP1の状態で蘇生されたが、俺が変わりにホワイトアウト。


 リタが持っていた薬草を食べて最低限回復し、ダンスと八鷹が協力して俺を運んでいる途中で幸いな事に気絶から覚めたアーロンが復帰。


 アーロンよる『ヒーリング』『速度上昇』を3人はかけられるが、アストルのパーティーにいたパラディンがその時亡くなったそうだ。


 パラディンが亡くなった事からダンス達は脱出を急ごうとアーロンに勧めたが、アーロンはハイクレリックの使命感からかアストル達の救出へ1人地下墓地の先へ潜って行ったらしい。


 アーロンの魔法のおかげでダンス達の脱出は順調に成功。

 地下墓地入口でパーティー欄を確認しつつ待機していると、パーティーが解散されたという表示が出て情報が途絶えた。


「え、パーティーの解散?」


 パーティーリーダーであったアストルが亡くなったために自動的にパーティーが解散されたという事か?しかし行方不明と言ってたはず。


「それなんだがな、生き残ったハイソーサラーの話によるとそのタイミングでアーロンが合流したらしいんだ」

「だったらなんで?」

「うむ…助けに来たアーロンを無理にでも下げるためにパーティーを解散したという話だ」

「そんな馬鹿な…」

「HPが見えなければ、頭の良いアーロンならすぐに他のメンバーを率いて逃げてくれるだろうと、アストルはパーティー解散後にネクロに自殺まがいの突貫を仕掛けたらしい」

「そんな…」

「ただ、そこで1つ誤算があった。

 普通ならネクロのヘイトはアストルに向かうはずだが、ヘイトはアーロンに向かったんだ」

「んな…」

「これは俺の推測だが、ベルのハイリザレクションで一度殺した相手が蘇生された経験が蓄積され、ハイクレリックを危険と認識し、ヘイトが優先された可能性がある」

「…」

「それで、アーロンを守ろうとして前に出たロードナイトと、アーロンがその時に亡くなったそうだ」


 俺は何とも言えない感情に包まれ、激しい悪寒を感じる。


「それを見たハイソーサラーはすぐに逃げて生き残れた。まだアストルの動向を確認できていないがギルドメンバーの欄に名前は残っているから生存はしているはずだ…」


 俺は溢れる感情を飲み込み、ダンスに応じた。


「…わかりました。ありがとうございます」


『コンコン』


 話のタイミングを見計らった様にノックされ、神丸の声が響く。


『皆さんお着きだ』


 俺はダンスに目配せすると、ドアに向かった。



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