第三十話 袋小路
なんだここ?暗い場所に何人かいる感じか?
どうにも頭がぼやける、早く状況を把握したいのに。
「ここは?どうなってる?」
どうにか声をひねり出したが、どうにも力が出ない。
「お―――!」
八鷹が話そうとしたところに重装備の大柄な男が割って入る。
「八鷹、俺に説明させてくれ、しばらくは大丈夫だろう」
「…わかりました」
八鷹は俺の両肩に置いていた手を離すと立ち上がり後ろに下がった。
俺はどうやら壁面に背中をつけた状態で座っているようだ。
「貴方は確か…」
「見下ろす形になってすまない、俺はダンス。先程のハイリザレクションにより蘇生をしてもらったパラディンだ。本当にありがとう。リザレクションがデスゲームでも使えるとは驚いたよ」
「いえ、俺も初めて使ったんですが、蘇生が成功して何よりです。デスペナはありましたか?」
「ははは、そこにすぐ意識がゆくとは流石は古参の方といったところか。ゲームでは経験値が1割減る仕様だったが、今回はステータスが半減するようだ。ちなみにいつになったら戻るのかは分からない」
『アイスウォール!!』
「ちょっと!!
何和やかな雰囲気出してるのよ!!」
「ははは、失礼、こいつはハイメイジのリタ。俺の嫁さんだ」
リタは杖で豪胆に笑うダンスの頭を殴打すると鈍い音が響いた、おそらく結構痛いやつだ。
急な展開に呆気にとられていると眼鏡男子が二人を注意する。俺が気絶する前にヒーリングをするのを辞める様に言ったハイクレリックの人だった。
「夫婦喧嘩はやめて下さい、僕のSPも余裕は無いんですよ?そんな事でHPを減らさないでほしいです」
「すまん、ちょっと場を和まそうとな」
「だから、そんな状況じゃないって!あんたは黙って草でも食べてなさい」
リタは緑の薬草を取り出すとダンスの口にねじ込みながら俺の方を向いて笑顔になる。
「こんなだけど、この馬鹿を生き返らせてくれて本当に感謝してるんだ、ありがとう」
「いえ、俺もホワイトアウトしてから助けられてるみたいですしお互い様です。それより、アイスウォールを使ってるって事は氷壁の先にネクロがまだいる感じですか?ここは安全なのでしょうか?」
俺がネクロの名前を出すと4人の顔が曇り、眼鏡男子が語り始めた。
「君がハイリザレクションを使ってからの話を簡単に説明するよ―――」
眼鏡男子の話によると、アストルとリタによるネクロへの氷壁作戦でネクロとの距離が一時的に開いた。
そして俺のハイリザレクションにより、ネクロに殺された3人が蘇生される。
アストルの指示により蘇生された3人に回復やバフを行うも、デスペナルティによるステータスの半減が非常に問題で即時撤退を決断。
デスペナルティを受けた3人より、八鷹と眼鏡男子が協力して気絶した俺を運ぶ方が効率的だと判断される。
ネクロは遠ざかるパーティを確認すると氷壁を破壊して追撃を開始。
アーチャーの上位職のハンターだと言うパイクが弓を使用した遠距離攻撃を行い、リタはアイスランスなどの遠距離魔法を使用するがネクロは軽々と交わして接近。
そこで、アストルと生き残ったロードナイトとパラディンが連携して足止めを試みる。
人質がいない事がアストル達に有利に働いたのか、ネクロの足止めには成功する。
しかし、ネクロ以外のモンスターが出た時に魔法を使いすぎてSPの残りが心配になってきたリタと、ステータスが半減して大盾が装備できなくなったダンス、更に気絶した俺を運ぶ2人を守りながら撤退するのはリスクが大きいと判断される。
結果、アストルは俺が目覚める事と、リタのSPがいくらか回復する事、ダンスのステータスがいくらか回復する可能性に駆けて俺達をここに残し、他のメンバーでネクロをここから遠ざける作戦を取ったのだという事だ。
「蘇生したロードナイトさんはダンスさんと違って戦えるんですか?」
「ネクロとは戦えないね、ネクロ以外のモンスターへの対処のシンガリとしてアストルについて行った感じかな」
「なるほど」
一通り説明を聞いた俺だったが、何かひっかかる。
…なんだろう?
人質がいなくなったから、足止めができるようになった?レベル差から考えてもそんな事でなんとかなる差だっただろうか?
俺はパーティー構成を思い出してみる。
パラディン2名、ロードナイト2名、ハイクレリック、ハイソーサラー、ハンターのパーティーで足止めをしつつここから他へネクロを誘導中か。
人質が今は取られていないとはいえ、人質を取られていた時よりパーティ人数が3人少ないし、回復役が3名から1名に減っているのはかなり危ないんじゃないだろうか?
それに、ネクロの恐ろしさはゲームの時よりはるかに進化している。人質を使う心理戦や大鎌を振り幅を変える戦法はまるで本当の人のようだったから苦労したのではないだろうか?これまでのゲームならあんな動作は考えられない。
…ん?…まるで人のような?
ネクロの属性は人属性…街のNPCの性能はめちゃくちゃあがってる?まさか関係が?考える力?学習能力がある?
俺が黙り込んでいると八鷹がしびれを切らしたような口調でダンスに訴えはじめた。
「ダンスさん、そろそろいいんじゃないでしょうか?早くここから脱出しませんか?」
「ここに避難してまだ30分程だ、死亡者のカウントも増えていないし、今のうちにハイリザレクションの詠唱の事を聞いておくのはどうだ?
あの氷壁が自然に消える15分後あたりから避難しよう。もしかしたらアストル達も帰ってくるかもしれないぞ?」
「アストルさんはベルが目を覚ましたらすぐに脱出しろと言ってました」
おそらくダンスとしては長年の付き合いのあるアストルを置いて行きたくない気持ちや、アストルの強さを信頼してという所があるのかもしれない。
八鷹はアストルの指示という事もあるだろうが、既に仲間を失った経験や、先程再び失いかけた事からの意見だろうか。
「…うーむ確かにそうだが…皆はどう思う?」
「僕は八鷹君の意見に賛成ですね、SPも既に回復しましたし、詠唱については脱出してからでも良いかと思います」
「私も賛成、そもそもあんた、生き返ったから良いけど、私を置いて死ぬとか殺すよ?」
リタの発言に苦笑しながらダンスが俺に視線を投げるので、俺も頷いてみせた。
「わかった、俺の緊張感が足りず、全員すまなかった。今すぐに脱出に移ろう」
そう言ってダンスが全員を見渡した瞬間、無情にも死者のカウントが1つ増え、その場の空気は一気に凍った。




