第三話 戦闘
街の門を抜けた俺達が目にしたのは広大な平野のフィールドにまっすぐ道が通っている光景で、身を隠せるような木や茂みも無い普通の草原だった。
他に視界に入るのはパーティー加入で確認できるようになったHP、SP、仲間の方角。これらの仕様は20年前と変わらなかったが、経験値の配分とパーティーチャットの項目が無い事が分かった。
「完全なリアルではないゲーム世界、どのあたりが基準なんや」
「政府が欲しいデータが取れるかどうかじゃないか?」
「リアルな戦闘?」
「さぁな」
「モンスターもおらんし」
街を出たあたりには最弱のモンスターである青芋虫や大ゴキブリなどがいるはずなのだが見当たらない。
「亡くなった人が倒したからちゃう?」
「リスポーンするまでに時間がかかるゲーム設定か、ありうるな」
「少し進んでみようか?」
「いや、もしくは【ルドン送り】が倒したばかりだという可能性もある、少し待ってみよう。
あと、武器による攻撃もどんな感じか知っておきたい」
「あー、ほんまやな」
俺達は武器を装備していない事に気付き、各々アイテムボックスから初心者用ナイフを取り出した。
「ナイフて…果物ナイフみたいやな…」
「こんな短いナイフ1本で初心者がモンスターと練習なしで戦うって、今更だけどおかしいよね」
「普通に考えたら無いな。槍くらいの長いリーチが欲しいところだ」
こんな装備で少し先に進んだエリアに居るだろう野良狼や小熊にであったら…いくらゲームでも勝てる気がしない。
「うーん…しゃあない」
先程から腕組みをしながら天を仰いでいた梅梅が何か思いついたのか、真剣な顔つきで言葉を続ける。
「ポーションの確認とかもろもろ気になる事があるから、ゴッドにちょっと頼みたいんやけど」
「なんだ?」
「俺の手の平をナイフで貫いてくれ」
「…よかろう」
いやいや、何を言ってるんだこの二人は。
空中で貫くのはやりにくいだろうから地面で。どうなっても俺は知らんからな。とか物騒な打ち合わせが続いていた。
「……いやいや、ちょっと二人とも」
呆気に取られた俺が止めに入るタイミングで神丸のナイフは梅梅の手の平を貫く。
「ぅぐう…」
「やはり痛むのか…」
「いやいや、二人とも?!」
HPの減少は?
24が22に減った、あとダメージによる経験値が入った、そっち経験値入った?
入ったな、出血によるデバフ、ステータス異常は見当たるか?
血が出ている様にも見えないし、デバフは見当たらない、出血状態では無いと思う、痛みは継続してる。
ふむ。
あとはナイフのダメージが場所により違うのか、経験値の入り方とかそれに比例するのか。
クリティカルか。
ポーションで回復30いけるからギリギリまで試そう、あともしレベルあがりそうなら一撃入れさせて。
レベルアップによる回復の有無の確認だな。
そう、それと、即死とか部位欠損に繋がりそうな攻撃はとりあえず無しで。
「…………関西弁消えてるやん」
俺は目の前で繰り広げられる異様な光景に吐き気を覚つつ、二人の確認作業が終わるまでは周囲の警戒を行っておこうと二人から目を離した。
梅梅のうめき声をBGMにどのくらいたっただろうか?俺の目の前に何も無い空間からスライムが出現した。
「う、うわわわ!出たよ!二人とも!」
「こっちは手が離せん!ちょっと頼む!!」
「え、ええ!?」
二人の様子が気になり一瞬振り向くと、倒れた梅梅の隣で空のポーションを持っている神丸がいた。
「な、なんでやねん!」
死にかけている梅梅の姿に俺は混乱し、足元のスライムに下手な関西弁を叫びながらナイフを突き立てる。
驚くほどスッと入る刃と、勢い余って手に付着する粘体に背筋が凍る。溶ける?溶けるのか?
一抹の不安がよぎるが、すぐに不安は打ち消される。ファンファーレがどこからか鳴り響き、俺のレベルがあがった事が分かったのだ。
そして俺の手についたスライムも跡形なく霧散していた。
「お、おれ、レベル2になったよ!?」
「なんでやねん!」
「ッてか、ウメ生きてるの?!」
「勝手に殺さんといてくれる!?」
「やれやれだな…1匹のモンスター経験値はフレンドリーファイアより多いと言うわけか」
「まぁ、そうやないと悪事してレベルあげるやつおりそうやもんな」
「どの口がそれを言うか…」
「と、とにかく無事で良かったよ」
「あ、そうそう俺ら基本レベル上がって無いけど、スキル手に入れたで」
「え?無職でレベルもあがってないのに?そんなのあるの?」
「ユニークスキルで【彷徨う者】やって、なんか累計ダメージを一番最初に1000受けた者だけ貰えるらしい」
「俺のユニークスキルは【猛進】だ、累計1000ダメージを最初に与えたら貰えるそうだ」
「へ、へぇ…」
いやいや、1000ダメージとか、さっき見た赤ポーション333個分くらいだろ?
攻撃も2とかしか当たってなかったよね?
最低500回くらい繰り返したのか?
てか、そんなにポーションあった?あまりの狂人的な行動に俺は心のなかでツッコミをいれた。
初期配布されていた二人のポーションはおそらくもう残って無いだろう。
「お、モンスター出始めたやん」
「狩りの時間か」
二人が何事も無かったように別方向に駆け出した。
「いやいや、パーティの意味よ…」
俺達は落ちている金を拾い集める様に淡々と数をこなした。