第二十八話 覚悟
「これより予定通り救出作戦を行う。
各自、隣の仲間を守れ!」
「「「応」」」
【円卓の誓い】アストルを先頭に鋒矢の陣(↑矢印型)が展開され【冥界の狩り手-ネクロ-】との戦闘が始まった。
「パイク!!今行くぞ!!」
アストルは大声をあげ救出目標の男の名を叫ぶが男からの返事は無く、ネクロもコチラを一瞥する程度で襲ってくる気配が無い。
こちらを認識しているのに襲って来ないのは距離か?それとも人数の多さを警戒しているのか?
俺が疑問に思っているなかアストルは大盾を前に出して一歩ずつ確実に距離を縮めるとともに、ネクロの動きにあわせて動ける様にロングメイスを下段に構える。
アストルの左右後方には両手持ちのロングソードを構えたロードナイトがそれぞれ1名ずつ、隙あらば即座に打ち込める構えで追従。
更にロードナイト左右後方には右手に小盾、左手に大盾の浪漫パラディンが1名ずつ…いざとなれば前方のロードナイトと後方の魔法職を守らんとする姿から盾に人生をかけた者の気概を感じる。
アストルを先頭にした彼らの姿は巨大な矢の穂先のように見える見事なものだ。
大盾を装備する事で遅くなる移動速度はハイクレリックの『速度上昇』で補い、更に『魔法障壁』を盾に付与する事で盾のカバー範囲を広げ盾自体も強化する。
そこにソーサラーによる『身体能力向上』『魔力向上』『生命力向上』でステータスとHP、SPにバフがかけられている。
一番後ろから見ると非常に安心感のある熟練の進軍で、これが大手ギルドかと納得する。
ただ、敵対している【ネクロ】とのレベル差がありすぎる事に加え八鷹と俺のレベルが突出して低い事が不安ではあった。
ネクロの大鎌の攻撃範囲にそろそろアストルが入りそうだ…。
「パイク!!
今行くぞ!!あと少しの辛抱だ!!」
―――ピチャ
ネクロが動いた!
「ウォォオオ!!!」
一歩前に出たネクロに反応したアストルは即座に盾越しに突進!!!
流石にうまい!!
アストルは大鎌の刃が届く前に柄を弾いて攻撃をいなすか、そのまま体当たりをしてネクロを後方に弾き飛ばす算段だろう。
ピチャ
「な!?」
嘘だろ!?
ネクロはアストルの突進が届くよりも早く大鎌の石突で足元にいるパイクの胸を串刺し、そのままホウキをはく要領でパイクをこちらに吹き飛ばした。
あまりの出来事にアストルは硬直、パイクに剣を当てないように避けようとしたロードナイトにネクロの大鎌による上段からの大振りの追撃が迫る。
かろうじて反応した両手盾のパラディン、鈍い音をたててパイクの衝突を大盾で受けたが、ロードナイトの前に出たのがいけなかった。
ネクロの大鎌の軌道が突如として長く伸びたのだ。刃の内側に位置するロードナイトとパラディンは肩から胸部にかけて背中から切り裂かれ、三人が折り重なるように崩れた。
「回復しながら撤退しろッ!!早くッ!!」
呆気に取られる全員に向けアストルが指示を叫び、ロングメイスを振りあげてネクロの背中を狙うがネクロは軽々とかわす。
一度に三人を切り裂いた事に満足したのかネクロはキヒキヒと不気味な笑い声を出しながら闇に溶けるようにして下がった。
『『『ヒーリング』』』
俺を含めたハイクレリック3人がとにかくヒーリングを重ね重症の治療を行うが誰も立てずにいた。
『ヒ』
俺がさらにヒーリングをかけようとしたところ、ハイクレリックの男性に手で制される。
「回復しなかった」
「え」
「心臓をやられた…」
嘘だろ…。
「氷壁!!」
『アイスウォール!!』
「ここにもだ!!」
アストルがハイメイジに指示し、ネクロとの間に氷の壁を築き始めた。
「あの、ハイヒールは!?」
「残念ながらHPがゼロだ…もう数分すれば霧散して消える…」
「リ、リザレクションは!?」
「無い…そもそもデスゲームにあるのかどうか…」
生き残っているパラディンが盾をアイテムBOXに収納したのか、折り重なった三人のアイテムを回収し始めた…。
「まただ……クソッ!!…クソッ!!!!」
八鷹も毒づきながら急いでパラディンの隣で回収作業をし始める。
こ、こんな事…こんな事があってたまるか!?
ものの数分で3人が死亡!?
しかも救出作戦のはずが?!
犠牲者を増やした!?
俺の中の何かがキレた。
人を助けられなくて何がハイクレリックだ。
「―――深淵より来たれ、魂の呼び声に応えよ。生と死の境界を越え、再び息吹を。生命の灯火、今再び燃え盛れ」
全員が俺を哀れに思う顔で見ている。いよいよ狂ったと思われても良い、生き返ってくれるなら!!
『ハイリザレクション!!』
視界が眩い光に一瞬にして覆われる。
白い。
真っ白だ―――――。




