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第二十六話 恐怖

―――――――――――

DAY【1092/1095】

Time【11:00 】

DEATH【65 /1000】

―――――――――――


 地下墓地入口から冒険者達が恐怖に歪んだ顔で飛び出してくる。


「なっ」


 声をかけようとするが、俺の存在など眼中に無いようで叫び声を上げながら俺の横をすり抜けて行く。


 なにがあったんだ!?


 俺は地下墓地の入口を再度見据える。


 緊張感で感性が鋭くなったせいか、先程までは気にならなかった湿った空気、微かな腐臭が気になりはじめる。


 男達を恐怖に陥れたであろう存在がこの先にいるという事実に俺は躊躇する。


 軽く例えるなら、これからゴミ箱を掃除するという時に、何かヤバい生物がその中に入って行くのを見てしまったような…生理的、本能的な拒否反応に近いかもしれない。


 しかも…それは人を殺すのだ。


「引き返すか…」


 先ほど飛び出してきた冒険者たちの恐怖に歪んだ顔が脳裏に浮かぶ。彼らは6人程のパーティーで、あえてこの気持ち悪い地下墓地を選んで来ていたという事は20年前のプレイヤーの可能性が高い。


 その彼らが、叫びながら飛び出してくる。と言う事は20年前には配置されていなかったBOSSモンスターが配置されている可能性がある。


『ギャァァァッ!!?』


 まだ中に人がいるのか!?

 

 咄嗟に身構えて入口からの危険に備えるが、

人もモンスターも出てくる気配は無い。


 どうする?帰るか?人を放置して?


 心臓が高鳴り冷や汗が出てくるのを感じる。


 ソロ狩りをしていた時には感じなかった死に直結する恐怖を感じる。


 あの入口を潜れば、俺の命は無いかもしれない。叫び声を上げた人は既に死んでいるかも知れない。


 あ、あぁ、そうか、データで見れるんだ…。


―――――――――――

DAY【1092/1095】

Time【11:05 】

DEATH【65 /1000】

―――――――――――


 カウントは増えていない…。

 一瞬、カウントが増えてたらそのまま逃げたのにという暗い気持ちが芽生えそうになるが、すぐにその考えを改める。


 見ず知らずの人の命だから軽いという訳じゃ無い。


 俺は強く頬を叩き、細心の注意をはらい地下墓地へと入っていく。


―――

――


 地下墓地の壁面に配置されている魔法のロウソクの揺らぎがモンスターの動きに思えてくるが、入口付近にはモンスターは見当たらない。


 1人であまり奥には入りたくないが、せめて叫び声の主を見つけなければ…。


 粘土質の地面のネチャネチャした感触が酷く不快だ。


 こんなに作り込まれていたのか…。

 ハイクレリックの力を行使したモンスター狩りに夢中で見えていなかったものが、今は見える。


 ピチャ、ピチャと何か水滴のような音が聞こえる…。


 この音を聞いたのはおそらく初めてだ。


 俺は音に引き寄せられるようにして先に進んでいく。


『ぅぅ…』


 男の弱弱しい声が聞こえてくる。


 俺は慌てずに、足音を立てないように、ゆっくりと先へ進む。


 遠目だが、地下墓地の中心あたりに手首を抑えてうずくまっているプレイヤーを見つける。…どうも手首から先は切断されているようだ。

 

 部位欠損あるのかよ……う、うげ…胃の中が逆流してくる衝動を咄嗟に抑え、飲み込む。

 更に息を殺すが、頭が酷く痛い。


 ピチャ、ピチャ…


 …この音は?


 うずくまっていた男の真横に黒い大鎌を持った黒長髪で黒いワンピースを着た不気味な女がいた事に気づく。


 暗い背景に溶け込んでいて気づかなかったのか?!

 

 俺は思わず息を止める。


 彼女は歪んだ笑みを浮かべ、男を中心に広がる赤黒い液体の中を裸足で歩いている。


 まさか…【冥界の狩り手-ネクロ-】か!?

 なんでこんなとこにいるんだよ!?


 あえてトドメを刺さず、助けに来た仲間を殺す【ユニークBOSS】で非常に忌み嫌わていた。

 最終ダンジョン手前あたりにいた敵で、レベル90あたりの編成されたパーティで討伐に行っても初見では敗北するパーティが多いBOSSだ。


 一見不死属性のモンスターと思われがちだが、山賊や海賊といった部類の人種族の敵にあたる。


 つまり、俺のターンアンデッドは効かないし、ヒーリングでは普通に回復してしまう。


 ネクロの特徴としては素早さと力に特化しており、暗闇に溶け込んだ中距離攻撃を得意としている。


 俺の経験はすぐに逃げる判断を告げる。


『ギャァァァッ!!』


 男の足首が切断された…。


 お、俺は…俺はどうしたら…。


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