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第二十三話 ナイト

 揉めている二人から少し離れた物陰で間違いないか確認すると、やはりマロンさんと【月光】のライトだった。


「あなたの様な人が必要なんです!」

「だから、僕は既にギルドに所属してるんで すよ」

「そこを何とか!

 あなたの様な可憐で心優しいソーサラーは、俺の隣で幸せになるべきなんです!」


 こわッ!?


 聞こえてくる会話の内容からして、梅梅を勧誘していた時より粘着質なものを感じるし、マロンさんの顔が遠目でわかるくらい引きつっている。


 何気ない感じで助け出すしか無いな。


「マロンさーん!

 おはようございます、奇遇ですね」


 俺は手を上げながら二人に近づく。


「ベルさん!」


 俺に気付いたマロンさんは俺の方に駆けてきて、背中の後ろに隠れた。


「ちょ!?」

「このオジさん、変なんです!!」


「「え?」」


 不覚にも俺とライトの声がハモる。


 マロンさんには覚えが無い言葉かも知れないが、おそらく同年代の俺とライトには刺さる言葉だ。


「あ、あぁ。

 なるほど、その男が変と言う事ですか」


 ふぅ、と大きく溜息をつき、蔑むような視線を送ってきた!?


「いやいやいやいや!?

 どう考えても俺じゃないし!?」

「失敬な!?俺だと言いたいのか!?

 それにお前!!

 良く見れば酒場に居た奴だな、確か現状を理解していない哀れなオタク野郎じゃないか!?

 ネカマしやがって!!

 社会の敵めッ!!」

「いやいやいやいや!?

 このアバターをどう見れば女だよ!?

 普通に男だろ!?」

「男のポニーテールは認めん!!

 さあ、マロンさん!!そんな下劣な男からは離れて俺の隣に来て下さい!!

 絶対幸せにしてみせます!!」


 う、うひょお?!

 俺が言われてる訳じゃないのに変な鳥肌がたつぞ!?


 マロンさんを確認すると青くなっている。

 まじか、その辺までリアルなのか…。


 って!違う!そうじゃない!!

 これは俺が壁にならないと!?


「お前なんかにマロンさんを幸せにできるものか!!

 そもそも酒場にいた他の女性?メンバーはどうしたんだよ!?

 3人くらい連れてただろ!?」

「あぁ…死にましたよ…」


「「!?」」


 俺とマロンさんは思わず顔を見合わせてしまった。仲間の【死】を経験した者は何かが狂っていてもおかしくない。


 酒場で絡んできた白髮の男もどこか危うかったのだ。


「奴らは死にましたよ…」


 ん?、やつら?


「あの、奴らって?仲間だったんですよね?」


 マロンさんが問いかけてしまったが、もしやこれ…地雷では?


「奴ら、仲間の振りをした外道だったんですよ。

 最初はセレモニーの恐怖から声を出さないのだと思ってたんです。

 それで皆を守ってあげないとって、声をかけて、励まして、守って、世話して、俺が壁をしながら経験値だって稼がせてやったのに」


「壁?」

「マロンさん、壁とは回復職がモンスターのターゲットを取るって意味です」


「俺が肉壁となり痛みに耐えていたのは、カヨワイ彼女達だからこそだったのに。

 レベルがあがってもまるで声を出さないから、少しダメージを与えたら出たんだよ、奴らの本性が」

「お前、まさかそれで…」

「あぁ!悪いか!?

 俺は壁を辞めたんだ、ただそれだけで奴らは、勝手に死んだ!!」


 あまりの自分勝手な言い分と狂気に思わず後ずさりしそうになるが、マロンさんが後ろにいる。


「心身ズタボロになっていたところで、そこのマロンさんが声をかけてくれたんだ。

 偽物ではない、本物の慈愛だ。だから俺が幸せにしてみせるんだよ!

 それともなにか?お前が幸せにするとでも言うのか?!」


 ぐ…、これは何と答えるのが狂人相手には良いんだ!?


 ええぃ、ままよ…。


「俺がマロンさんを幸せにする!!」

「…………くそ、見せつけやがって。

 そんな顔をされたら興醒めだ。

 この淫売め、勝手にどこにでもいきやがれ」


 ライトは汚く罵るものの、声が掠れ最後は涙声で去っていった。


 あまりの呆気なさに拍子抜けし、哀れに去っていく姿を見ると俺は追い打ちをかける気も失せマロンさんに視線を移す。


 そこには林檎のように頬を赤くしたマロンさんが………いや、めちゃくちゃ可愛いすぎる。


 俺の真剣な返事を聞いてライトは去ったのではなく、マロンさんの顔を見て去ったのだと分かった。確かにこんな顔を見せられたら去るしか無い。


「あの、ベルさん。…ありがとうございます」

「な、なぁに、無事で何よりです」 

「あと、その…」


 両手をあわせ上目遣いでもじもじしている…なんだ、このかわいい生き物。


「なんですか?」

「僕、男ですから」

「ん?」

「僕、男のアバターを使ってる女の子と良く間違われるんですけど、男です…よ?」

「な、なぁに、それくらい分かっていましたよ。マロン君に変な因縁をつけられないための演技ですよ、演技。あははは」

「そ、そうですか」


 いや、ちょっと残念そうな顔するの何なの!?

 むしろ残念なのは俺なんじゃないの!?


「と、とにかく!ありがとうございます!

 ぼ、僕用事があるのでまた!!」

「ま、また後ほど」


 うぐぐ…変に疲れたなぁ…。

 

 まぁ、気になる性別も分かった事だし、気を取り直して朝飯を買いに行こう。


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