第十七話 変化
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DAY【1094/1095】
Time【21:15】
DEATH【60/1000】
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俺達が街に着くと雰囲気が一変していた。夜も遅いというのにプレイヤーをまばらに見かけるのだ。
「何かあったんやろか?」
「さぁな。それよりベル、結構遅い時間帯だが今から行くのか?」
【赤い森の塔】の助力についてお礼をかねた挨拶をしたいと二人には話していた。
「今の俺達にはお礼ができるようなアイテムや金品の持ち合わせがない」
「うーん。妖刀村正は?」
「ちょ、俺が命がけで盗んだアイテムを!?」
「彼女達の助力が無ければ二人とも死んでたんだよ?」
ふむ、と神丸は顎をつまみ一瞬何かを考える。おそらく何かを天秤にかけてはかっているのだろう。
「確かにそれはあるな。俺は別にかまわんぞ?」
「まぁ、また盗めば良いか」
「いやいやいや…俺が言うのもなんだけどそんなんで良いの!?執着心は!?」
妖刀村正は非常に攻撃力が高く破損もせず、持ち主の攻撃速度を2倍にするというかなりチートな武器で20年前でもそこそこ人気があり高額なアイテムだ。
ただし、一つだけ欠点がある。それは一定の確率で金縛りにあう呪いがかかるというもので、金縛りを治すには聖水かクレリックによる解呪魔法が必要だった。
「信用は金では買えない」
「俺は装備できへんからなぁ」
梅梅は確かに剣士系の職業ではないので装備はできないのだが…。
「いつもなら売るとか言い出すのに」
「こういうレア物の装備はNPCに売ってもたいした額にならんし、プレイヤーに向けて売るにも全員始めたばかりでお金持ってないやん?
それならまぁ、命の恩人にお礼として渡すのもありかなってとこやな」
「お礼の選択肢は一番最後ではあるんだな」
「それでどうする?この時間帯で行くのか?」
「無事に帰還した事を伝えるべきだと思うし、今から行こう」
俺は二人を連れて【街の中心亭】に向かった。
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DAY【1094/1095】
Time【21:25】
DEATH【60/1000】
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【街の中心亭】に着き受付の若い男性NPCに【赤い森の塔】の部屋を聞くが防犯上教えられないと断られた。仕方がないのでロビーにいる可能性にかけて神丸と梅梅の全財産を払って水瓶とコップを受け取りロビーに移った。
「いやしかし、まさかここが宿屋仕様になってるなんてなぁ、大手ギルドやないと入れなかったとこやからある意味感動やわ」
「防犯面で断られていたのが以外だったな、リアリティを追求しての事かシステム面での事なのか」
二人の口が閉じる雰囲気もなかったので俺は二人より先行してお茶会をした辺りに向かってみる。
時間は遅いが前回来た時より利用客が多い。他の安宿より高い利用料を支払うココを拠点としているだけあってか、どのプレイヤーの雰囲気も外のプレイヤーと違って幾分落ち着いてみえる。
「あっ!ベルさん!こっちです!」
声を頼りに振り向くと端の方の席で目一杯手をあげているマロンさんを見つける。どうやら他のメンバーも揃っていそうな感じだ。
「まさか、皆さん揃って待っていてくれたんですか?」
「当たり前じゃないですか、皆心配してたんですよ!?」
「おじ…ベルさんだけに行かせて悪かったなって、反省してたんだ」
「た、たぬきち君まで…」
俺は皆の優しさに感動を覚えつつ、まずお礼を言い、すぐに二人を連れてくる事を伝えて席を離れた。
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二人のもとに戻っていく途中で何やら怒鳴り声が聞こえた。
「お前たち、調子に乗るんじゃないぞ!?黙ってないで何とか言ってみろ!?」
「なんとか」
「こ、コイツ、女の癖に馬鹿にしやがって!?」
「アホ、挑発してやるな」
「あ、アホだと~!?」
「いや、お前じゃない、この女の事だ」
酒場の時みたいにまた絡まれてるのか…。ひとまず俺は仲裁に入る事にした。