第十六話 事後処理
ヒーリングしてももちろん火は消えない、火だるま状態の神丸は草むらを転がりまわって消火を試みていたので俺はスライムの粘液をぶつけてやる。
地味なダメージが入るようで不機嫌な声が聞こえるが、生きているなら良いだろう。
次に炎の中をゆっくり歩いて出てきた梅梅は俺の記憶より身体が大きくなっていた。
「なにこれ…」
あまりの姿に心配して駆けつけたのが馬鹿らしくなる気さえしてくる。
「これ?薬草の防護服、スライムとイモムシの粘液を添えて、みたいな?」
シェフおすすめのメニューみたいになってるが、生木や生草は燃えにくいみたいなところから着想に至ったのだろうか…。
「俺もスライムの粘液は試したけど、今回のドロップアイテムの使い方ってこんな風に自由につかえるんだね」
「かなり自由度高いな」
「熱くないの?」
「いや、死ぬ程熱いで?ベル来てなかったら多分死んでるくらいのダメージ食らってたや
ろ?」
「いやおま…」
死への恐怖が無いのかとか、心配してるこっちの身にもなれと言いたいところだが、言っても変わらないだろうな…。
「まぁそれより、喉とかやられなかったのが不思議なんだけど」
「口の中にずっと薬草入れて回復してたからかもしれんわ」
梅梅は身体中に付着している乾燥した薬草をペリペリと剥がしながら答える。
「そうそう、あとギルドやけど、正式に登録したからよろしく」
パーティ加入時のように【通天閣商会】からギルド加入の要請がきています、とコンソールが出たので特に考える事なく加入する。
「いやぁ、しかし暑かったわ」
梅梅から蒸気がのぼり、香草の何たら焼きみたいだなと現実逃避気味に思っていると装備品が焦げている事に気付いた。
「服とか胸当て焦げてるけど。何がどうなったらあんなことに?そもそも二人寝てたんじゃないの?」
次から次に起こる問題で忘ていたが、問題はそこだ。俺が【赤い森の塔】とお茶会をしていた時間内にギルド登録を完了させてこのフィールドまで来てるとなると、寝ていないとしか思えない。
この二人の動きを把握してないと、たぶん死に目にも会えんぞ…。
「まさか焦げるとは思わんかったよ。耐久値がある装備品って不自由やなぁ、そのへんにリアルは求めてないんやけど。髪の毛とかも燃える感じやったから、とにかく頭はしっかり守ったで」
梅梅はスライムのワックスといった感じのヌメヌメした頭をオールバックになでつけ何故かドヤ顔をしている。
「いやいや、その辺も気になるけど。何で起きててこんな無茶な戦い方を」
「それについては俺が話そう、ウメでは脱線しかしないだろうからな」
草と土とスライムでグチャグチャになっているのを払い落としながら神丸が合流してくる。
「なんでやねん、やけどま、とりあえず任せるわ。身体中が不快でたまらん、ちょっと整理させてもらうわ」
梅梅は装備品を取り外しアイテムBOXから取り出した配給品が入っていた袋に水を含ませて全身の汚れを落としはじめた。
どうやら下着は外せんなぁ、まぁそのへんはなぜか汚れない仕様?みたいやからええか。と、また気になる独り言を呟いているが今は神丸の話が先だ。
神丸が梅梅の姿を気にしてか少し離れて話そうと、梅梅から距離をとる。意外とこのへん紳士なんだよなと変に感心してしまう。
「俺達が以前ユニークスキルを習得したのを覚えているか?」
「確か【猛進】と【彷徨う者】だっけ?」
「そうだ、簡単に説明しよう。
【猛進】はデバフの数だけ攻撃力が倍になる変わりに、受けるダメージが等倍で上がる。
【彷徨う者】はHPが減少する程、デバフが多い程に物理防御力があがる」
「何その一見良さそうに見えてデメリットの方が多そうな能力。
【彷徨う者】は魔法防御力あがらないならHP減らしてる状態時のリスクあがるだけじゃ…。
てか、それが何で起きてるって話に繋がるんだ?」
「俺達二人は睡眠不足のデバフ状態にあってな。それを試していたんだ」
やはり相変わらずの二人なのでまともに相手をしていたらこっちがまいってしまう。
「…ま、まぁ、百歩譲ってそれは認めるとしよう?何故あんな無茶な戦い方を?魔法だっていつ覚えたんだよ。武器だってそんな立派な剣をいつ買ったんだ?」
神丸の腰に下げている立派な剣、いや刀か?雑魚モンスターのドロップアイテムを売却して買えるような物では無い気がする。
「大蛙まで無茶でもなく計算通りだった。予定通り大蛙の経験値は全部俺に入り大幅にレベルアップをして、魔法を覚えるためにINTにポイントを全振りした。
そしてここからが計画が狂った。大蛙の主人【忍者】が蛙の陰に潜んでいたんだ」
「あ〜…そのパターンか…」
【大蛙】と違い、【忍者】はストーリー後半に出てくるモンスターだ。稀に大蛙の陰に潜む場合があって初心者が初期フィールドで死屍累々になる事があり、殲滅依頼を受けて何度か討伐した覚えがあった。
「ベルも分かってるだろうが今の俺達二人では【忍者】は倒せない、そして逃げたくても俺達二人のAGIは1で、足の速さで到底敵わない」
「うぅむ…」
「そこで俺は咄嗟にファイアウォールを唱えたんだが…」
「だが?」
「ウメの奴がスティールをすると聞かなくてな…炎の中で焼かれる忍者に逃げられては困ると自ら中に入って羽交い締めにして…なんというか、スマン」
「あぁ…じゃぁその剣は…」
「あぁ、妖刀村正だ」
「まじかよ…アイテム欲しさに命を危険に…。
ま、まぁ?逃げるのが困難だから仕方なく応戦したとも?とらえられなくは?な?い?」
「…結果的には勝てたが、ベルが来てなかったら恐らくウメは死んでいたな」
普段から人を不安にさせる様な事を言わない神丸がこんな風に話すのは無意識のSOSなのではないか?
「う、ぐ、ちょっと胃が痛くなってきたよ」
「ウメなりにゲームに誘って巻き込んだという責任を感じての無茶なのかも知れんが、まぁ、あまり、責めてやらないでやれ」
おーい、そろそろこっちは終わったで〜。
梅梅が呼びかけてきたので、神丸が手をあげ、まぁそういう事だ。と話を終わらせて梅梅の元へ向かう。
…これで良いのか?
「なんや真剣な顔してるやんベル」
いや、今言わないとたぶん駄目だ。次は無いかも知れないじゃないか。
「ウメ、ゴッド、話がある」
「聞こう」
「今更改まって、どしたん」
俺は真剣な眼差しで腕組みしている神丸と、頭の後ろで手を組んでいる梅梅を交互に見やる。
「俺は、三人揃ってログアウトしたいし、ログアウトした後に改めて三人で酒を酌み交わしたい」
「そうだな」
「ふむ?」
梅梅の方はやはり鈍感というか、ハッキリ伝えないと分からないやつだ。
「二人の無茶に付き合えるのは腐れ縁の俺くらいだと思ってるし、俺がいない時に勝手に死なれるのは困るんだ。
特にウメ、もし責任を感じてるならちゃんと最後まで生きて見せて欲しい」
「あ、俺か!?そんな心配をかけてたか…」
「まぁ、俺が言うのもなんだが、結構ヤバいぞ?」
「神丸にヤバい言われたらあかんな、笑笑…。
って、いや。ほんまスマン。言ってくれて助かったわ。実際感覚がよく分からなくなってきてるのもあるから、そういう意見助かる」
そういって苦笑する梅梅の顔は気のせいか憑き物が落ちたような感じがする。
「分かってくれたなら良いんだ」
「よし、話はまとまったな。まずは全員で街に帰るぞ」
「そう言えば二人に会わせたい人達がいるんだ、言わば二人の命の恩人でもある」
俺はここに来るまでの事を二人に話しながら帰路についた。