第十二話 交流
【街の中心亭】に入るとすぐに受付があり、執事風の若い男性NPCに空室がないか確認できた。
【街の中心】と謳うだけあってか高級宿の価格を提示される。残念ながら昨日支給された金を全て飲み代にあて、ドロップ品も売ってない俺には持ち合わせが無かった。
宿泊しなくても1階ロビーで待合い利用や軽食はできるらしく、俺の全財産を使用して紅茶とサンドイッチを注文して昼休憩を取ることにした。
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「いやぁ、高級宿は違うな」
木造の酒場や安宿と違ってレンガ造りで内装も高級品、椅子もクッション付きで柔らかいときたもんだ。
提供されたサンドイッチも何となく特別に旨い気がするし、紅茶も何となく気分が落ち着く気がする。
かなり広いロビーだが、利用しているのは俺から離れた場所にパーティーが二組見えるくらいだ。
時間の問題なのか金銭の問題なのか分からないが、ここを拠点に活動するなら毎日どのくらい狩りをする必要があるんだろうな。
ぼんやりしながら紅茶を楽しんでいると声をかけられた。
「ベルさん!もう来てくれたんですか?!」
声の方を見ると、二階に繋がる階段から手をあげて駆け下りてくるマロンさんを見つける。
あんな風に声を掛けられたらかなり目立ってしまうな。マロンさんに好意を抱く者から嫉妬されないか不安になる反応だ…。
しかし、やはり中性的で判断がつかないな。なんだろう、誰かに似てるんだよな、ろろ剣の沖田総司あたりだろうか?
「マロンさん、そんな慌てなくても逃げませんよ?どうぞ足下に気をつけて下さい」
俺はマロンさんに声をかけながら手を上げ挨拶し、立ち上がる。
「折角なのでマロンさんにお茶をご馳走できれば良かったんですが、残念ながら手持ちがこれで尽きました」
苦笑しながら俺は親指でテーブルを指さす。
「それなら僕がご馳走しますよ!今ならギルメンも揃ってますので良かったら是非!」
「え、あ、はい、ありがとうございます」
ギルドメンバーを交えたお茶会となるとちょっと話が違ってくるのだが、今更お断りできないぞ。
「あちらの席に移動お願いできますか?」
そういうとマロンさんはロビーの端の集団を指さした。
二組あるパーティのうち、まだ小さい方だったのが救いか?
「わかりました、宜しくお願いします」
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「ルヤさん、お待たせしました!さっき連絡したハイクレリックのベルさんが来てくれてたんですが、一緒に良いですか?」
マロンさんが銀髪ストレートヘアの美女アバターの方を向いて声をかけた。
「もちろん良いですよ」
立ち上がり会釈するルヤさんは、微笑みながら女性の声でそう返してきた。まじか。落ち着いた穏やかな雰囲気で女性のギルマスだと?かなりレアな存在なのでは。
「ベルさん初めまして【赤い森の塔】ギルドマスターのルヤです。私もハイクレリックをしてますから、お互いに情報交換などできたら幸いです」
うーむ、まだギルド登録はしていないが、ギルドに所属いている感じで話しておくか。
「【通天閣商会】のベルです。前作でもハイクレリックをしてたんで俺に協力できる事ならよろこ―――」
「前作?」
「たぬきち、まずは自己紹介」
他のギルドメンバーから声があがったのをルヤさんがギルマスっぽく注意する。
なるほど、雰囲気からおそらく若い子が集まってるギルドなのだろう。
「ベルさん、話を遮ってしまってすみません。どうぞこちらにお座り下さい。まずは改めてこちらのメンバー紹介をさせて頂きますね」
デスゲームで初めての文化交流が始まった気がした。