第十一話 一般人
俺は路地裏に無防備な姿を晒している二人が本当に安全なのか確かめることにした。
蹴ったり殴ったり出来ない事や、アイテムBOXから取り出したスライムの粘液を顔めがけて落としても見えない壁に沿ってヌチャリと落ち、決して外装には当たらない事を何度か確認する。
更に取引申請を出し、認可されていない状態で本当に装備品を触れないかなど、考えられる事をいくつか試した。
「無防備そうだけど確かに全く何もできないな、俺もソロ活動をしてくるか?」
いざ放置していく側の立場になると、仲間を放置するという行為の異常さに気付かされる。
安全性を確認する事で放置できる理由を見つけ、自分を納得させようとしても残る不安感。
前回、二人が酔い潰れた俺を置いていったのはここまでの安全性をきっと確認したこらこそできた事なのだろう。たぶん、おそらく…いや、何だか自信がなくなってきたな。
とりあえずそんな風に無理矢理納得する事にして、俺も二人のようにソロ活動をする事にした。
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DAY【1094/1095】
Time【12:30】
DEATH【57/1000】
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時間と亡くなった人数とSPを確認し、ひとまず街の様子を確認しよう。
【速度上昇】
スキルを使った初めての移動。
意識した動きと勝手が違い、何度か建物にぶつかりながら移動する。例えるなら今の状態はラグが発生して思ってた場所じゃない所に移動しているような感覚だ。
壁にぶつかるのは痛くは無いのだが、見えない壁が発生している気がする。もし衝突ダメージなんてものがあるとしたらフィールドでは気を遣わないと事故死する可能性がありそうだ。
街中の様子確認には不向きなスキルだと判断し、ひとまず普通に街を散策する事にした。
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軽く街中を見ていくつか気付いた事がある。
やはりプレイヤーが少ないのだ。
ここまで少ないと他のプレイヤーの動向が気になりはじめる。
「マロンさんが言ってた宿屋【街の中心亭】ってそういえば確認してなかったな」
避難所と化していた宿屋の様にもしかしたらそこにも人が集まっているかもしれないな。
俺の足は自然と【街の中心亭】を目指していた。
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これまでプレイヤーとすれ違う事がほぼ無かったが、中央広場の方から来るパーティーと2回すれ違った。
どのプレイヤーも真剣な顔で陰気な雰囲気を垂れ流していて、すれ違うだけなのに息が詰まる。
陽気に雑談する声が聞こえた気がしてそちらを確認すると、NPCがNPCと話している。この街にNPCがいる事は救いなんだなと思ってしまった。
しばらくして【街の中心亭】と書かれた看板を出している建物を見つける。
当時の記憶では大手ギルドが所有する拠点だった気がするが、今は宿屋なのか。
出入り口らしき扉から見た顔が姿を現す。
「…チッ!」
金髪のイケメンが舌打ちとともににらんできた。
「ライアー隊長、どうかされました?」
「いや、何でもない。急に立ち止まって悪かったな、行こう」
ライアー隊長!?
俺をナンパしてきた奴が悪名高い廃人ギルド【ルドン送り】のギルマスだったのか!?
外装の上を意識して見ると表記される名前を確認すると確かに【ライアー】と表記されていた。
これは迂闊だった、前回の接触で分かっていたはずの情報なのだ。これからは名前を意識してみる癖をつけないとな。
ライアーを先頭に15人くらいのパーティが宿から出て行くのを黙って見送り、知ってる名前がないか確認したが他に知っている者はいなかった。
しかしまぁ、世の中狭いもんだな…と呟き思ながら俺は【街の中心亭】に入った。