かめはめ派?
フルタイムのバイトの昼休みの事。
金髪でツンツンに尖がった頭を、右手でひと撫でしながら、
「おいら、かめはめ波を出してぇ~」
仕事中に何となく仲良くなった、アラフォーのフリーター親父が、窓際の席で
食い散らかしたコンビニのおにぎりの袋をテーブルに置いたまま、やたら眩しい青空の光を受け、
向かいの席の僕に、突然言ったので、
「かめはめ波って、あのドラゴンボールの?」
金髪親父が、腕組みをした格好で、僕の方へ満足気に頷く。
「じゃ、その髪も・・・」
すると、その親父は僕に向って、一目もはばからず、大声で、
「だって俺、スーパーサイヤ人だも~ん!!」
バイトは流れ作業で、今日初めて来た僕よか、金髪親父は既に10回経験してるマスター級で、
とにかく仕事は早いのだが、
「あの人さ、時々変な事言うから、聞き流しなね」
と、一緒にラインに入っていた、パートのお姉さん(本当はオバちゃん)に囁かれたが、
もう遅く、それで今こうして、昼の休憩中に誘われて・・・
夕方6時で終了し、QRで退勤時間を読み取り、報酬確定をした後、帰りの送迎バスへ
向かおうとしたら、
「兄ちゃん、おいら車で来たから、送ってってやる」
と、そのクレイジーな金髪親父に呼び止められ、少し迷ってから、
「ありがとうございます、お願いします。」
一目で見て、ドラゴンボールのキャラが貼り付けてある “痛車”のセダンの前で
「ま、乗れや」
言われるまま、僕は助手席に乗り、シートベルトを。
しかし、さっきまでいた、金髪親父の姿がいなくなり、
「お兄さん、ドコです!!」
すると、上の方からドンと、重く鈍い音がしたので、ドアを開けたら、車の屋根に
その親父が!!
「何してんですか!?」
僕が親父に聞くと、屋根の上の親父は、ニタリと笑い、
「かめはめ波で、コイツを動かす!!」
ダメだ、完全にイカれてる。
「やっぱ僕、バスで帰りますから・・・」
その途端、金髪親父は僕を恐ろしい形相で睨み、
「いいから、乗ってろ!!」
その気迫に圧倒され、僕は背筋を震わせ、助手席へ。
「いくぞ!!か~め~は~め~・・・」
何故か神に祈る様に、僕は車中で両手の拳を握りしめ、目をつむった時、
「はぁ~!!」
身体が宙に浮く様な感覚となり、目を開けると、外には無数の星々が・・・
「と、まあこんな事出来たらなぁ」
屋根から降りて、痛車のハンドルを握りながら、大声で笑う金髪親父に僕は何も言えず・・・
そして駅前のロータリーに着き、僕はお礼を言った後、何気に、
「どどん波は、試したんですか?」
もう会う事もない、その金髪親父に、自分でもマヌケだなと思いつつも、尋ねたら、
その親父は、首を激しく左右に振り、
「その “派閥”は邪道だ」
僕は唖然として親父を見ると、金髪親父は右手の親指を立てて、
「だから、おいらは ”かめはめ派”だっつーの!!」