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スパイの寝言

作者: 雉白書屋

 某所。任務中に捕らえられてしまったエリートスパイ、エージェントシックスは眠ることも許されず、拷問を受け続けていた。


「ぐっ!」


「もういい、やめろ」

「フーッ! フッー! フッー!」


「さすがはエリートスパイ。もっとも、噂でしか聞いたことがなく、姿はおろかコードネームしか知らないがね。でも、君なんだろ? エージェントシックス」


「……さあね。何を言っているのかわからないけど、まず、そちらが名乗るべきじゃないかな? それとも僕もあんたの隣の男のように、女王様とお呼びすればいいかな?」


「女王様?」


「あんたがその趣味の悪いマスクを着けた男の女王様なんだろう? まったく、鼻息が荒くて敵わないよ。マスクの下に口枷を着けさせているのかい?」


「はははっ! ユーモアまである男とは思わなかったよ。君の組織はそんな訓練もあるんだね。さあ、その調子でそろそろ話してはくれないかな。君たちの計画、拠点、仲間の数と特徴、そして配置を教えてくれ」


「いいとも。でも、まずは紅茶を一杯もらえるかな。バターたっぷりにね。あとはふかふかのベッドと、ぐっ!」


「おー、ははは、慣れないことをするものじゃないな。手が痛いよ。拷問は引き続き、彼に任せるとしよう。楽しんでくれたまえ」

「フッー! フッー!」


「ぐ、ううぅぅぅ、ああああ……」


「しかし、そろそろ次の段階に移行しようか。治る怪我はここまでだ。まずは片目から……と、気絶したかな? おい、水を持ってきてくれ」


「…………仲間」


「ん?」


「……数は四人だ」


「ほう、ようやくか。しかし、言っておくが下手な嘘は身のためにならないぞ」


「……」


「どうした、続けたまえ……ん?」


「……」


「……まさか、眠っているのか?」


「………………ぐー」


「え、寝言!?」


「はっ、なんだ……? 今は休憩時間か? どうしたんだ? 拷問を続けてくれよ。あんたとのお喋りはつまらなすぎて眠くてしょうがないよ」


「お、おぉ……では、音楽をかけようか」


「へえ、サイケデリックミュージックかな、それともヘビーメタルかな。どちらにせよ、あの拷問好きな男の鼻息が紛れるのはありがたいね」


「クラシック、いやヒーリングミュージックを。波の音と森林の音、どちらがいいかな? あと紅茶も持ってこさせよう。ええと、バターたっぷりがご希望だったね。おーい、頼むぞ。急いで持ってきてくれ」


「おいおい、飴の出番はまだ早いんじゃないか? もっと鞭をくれよ」


「まあまあ、肩の力を抜いて。他に何か欲しいものはあるかな? なんでも用意しよう」


「おいおい、まさかそれがあんたたちの交渉術かい? どこで習ったんだ? まったく、あくびが出そうだよ」


「お、いいよ、あくびしていいよ!」


「ふぅ、やれやれ……ふー…………」


「お、寝た……か? さぁ、拠点はどこにあるのかな? 教えて?」


「…………ルクサム市の……廃ビル……」


「おぉ、これはあれかな。絶対に喋ってはいけないという抑圧が眠ることで解放され、寝言に漏れてしまっているのかな」

「彼は二十時間は眠っていませんからね。限界が来たのでしょう」


「いや、君、喋るんだね。まあ、どうでもいいんだけど」


「……はっ、おっと今、天使の歌声がしなかったかな。ははは! するわけないか。君らは天から見放されてるものね」


「いや、今の声はたぶん彼の……まあ、それはいいとして、あ、紅茶が来たよ。おい、ベッドも持ってきてくれ。ああ、あと、こんな鎖は外したほうがいいね。まったく、天井からぶら下げるなんて、ああ、肩も凝っただろう。揉んであげよう」


「おいおい、甘すぎてまったく喉が焼けそうだよ。勘弁してくれよ。甘いものは苦手なんだ」


「バターたっぷりとか言っていたくせに……ささ、リラックス、リラックス」


「……」


「お、また眠ったみたいだな」

「いっそ、麻酔を打っては?」


「いや、おそらく今、絶妙なバランスにあるんだ。下手に薬を使ってそれが崩れたら元も子もない。ささ、君たちの計画はどのようなものかな? 何のためにこの国に入ったのかな? パパに教えてー」


「…………この国の……国家安全保障局の……データを……盗み……」


「おぉ、これはまた大それた計画を……それで、それは何のために……?」


「……国際……指名手配リストの……男……奴が……テロ計画を練って……そいつと……関わりのある……男の情報が……欲しい……」


「ほう、その情報なら確かに我々が所持しているが」


「……世界を…………救うために…………」


「ふっ、世界平和か。まったく寝言は寝てから言ってほしいね」

「うまいことを言いましたね」


「それはいいから……。さて、彼には一つ貸しだな」

「え、じゃあ」


「ああ、逃がしてやれ。彼の情報を提供したのも彼が探しているあの男だろう。同盟国の人間ゆえ我々は手が出せないが、他国の人間である彼が勝手にやったのなら問題にはなるまい。まあ、まずはベッドで休ませてやるか。運んでやれ」

「はい!」








「……………………いや、あぶなかったぁ」

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