令和の読書環境における蔵書印への一考
先日にテレビ台を新調したのを好機と判断し、私室を始めとする自宅の整理整頓と大掃除をしようと思い立ちました。
この整理整頓には当然ながら、書籍やビデオ・DVDといったメディア関連も含まれていますよ。
VHSやDVDに録画したホームビデオはHDDに移して、書籍や漫画はサイン本といった再入手困難な物以外は私設図書館に寄贈したり古本屋に売却して。
こんな具合にアレコレ手を尽くしても書棚にはまだまだ書籍やソフト類が沢山並んでいるのですから、全くもって業の深い話ですよ。
未だに片付けの途中ですし、肩や腰の筋肉痛や疲労に悩まされる日々が続いていますが、今回の大掃除は私にとって実りの多い物となりました。
居住スペースが増えて書棚に秩序が出来た事は純粋に気分が良いですし、アレコレと換金した事で懐もそこそこ温まりましたからね。
古本屋で1冊100円で買った絶版マンガのセットやブックオフの均一コーナーで買ったアニメのサントラにプレミアが付いた時には、「寝かせておいて良かった!」と心から喜んだ物でしたよ。
とはいえ私が現在やっている大掃除や不用品処分は、コロナ禍においては皆様方が行われていた事なんですよね。
新型コロナウイルスが5類に移行して1年以上が経過した今になって整理整頓に意欲を燃やす私って、もしかして出遅れたのかも…
そんな事をふと考えてしまう今日この頃です。
まあコロナ禍であろうとなかろうと「おうち時間」は快適であるに越した事はありませんし、そのためには整理整頓が肝心となってきますからね。
今後も空き時間を見つけて、大掃除を地道に頑張っていきましょう。
そして本エッセイのテーマである蔵書印について改めて考える事になったのは、大掃除の過程として本棚の整理整頓を行っていた最中だったんです。
親戚筋から受け継いだ本の中には戦前から戦後にかけて販売された古書もありまして、そのうちの少なからずの本には「◯◯蔵書」という具合に苗字の彫られた蔵書印が奥付や裏表紙といった特定の箇所に赤い朱肉で押印されていたんですね。
本の所有者や所蔵者が押印する事で自身の所有権や所蔵権を宣言する印影である蔵書印は、中世以降に宋の書籍が輸入された事で日本にも普及したそうですね。
そう言えば確かに、戦前から戦後にかけての愛書家の中には、書棚の本に蔵書印を押されている方が少なからずいらっしゃった感じがします。
この蔵書印が判子屋さんにオーダーメイドで作って貰った物なのか、或いは親戚が自分で篆刻して作った品のかは、今となっては定かでは御座いません。
いずれにせよ蔵書印は、「他の誰かの蔵書=所有物」ともなり得る大量生産品である書籍を「他ならぬ私の蔵書」という唯一無二の物に仕立て上げるプロセスであり、そこには蔵書家という存在が確固たる地位を確立していた古き良き時代のロマンが感じられますね。
そんな蔵書印ですが、この令和の現代における活字文化においてはあまり主流ではない感じがしますね。
公立の図書館でも、蔵書印を押印する代わりにバーコードのタグで蔵書を管理している所の方が多いのではないでしょうか。
まあ、それも仕方ないのかも知れません。
何しろ見返しや遊び紙に随時押印していくのは手間が掛かりますし、本に直接押印してしまったら最後、ちょっとやそっとじゃ消す事が出来ないんですから。
古本屋さんへの買い取りや第三者への贈与といった廃棄以外の処分方法を取る際にも、個人を特定する要素が残ってしまう蔵書印はあんまり歓迎されない傾向にあるようです。
とはいえ、このまま蔵書印という風習を時代の徒花として風化させてしまうのは惜しいと思うんですよ。
大量生産品だった本に、「特定個人の蔵書の一冊」という唯一無二の個性を付与する。
この蔵書印のプロセスには、一種の契約めいた厳かな趣があると思うんですよね。
それに蔵書印の刻印には芸術的な美しさも御座いますし。
そうした蔵書印の醍醐味を活かしつつも、何らかの理由で処分の必要に迫られた時に困らないように押印前の状態へとリカバリーする事が出来る。
そんな相反する条件を両立出来る方法がないものか、私なりに一計を案じてみました。
現代の技術を活用して、気軽に蔵書印を楽しむ。
その為に必要となってくるのに欠かせないのが、透明ブックカバーなんですね。
要するに、ア◯メイトを始めとする漫画に力を入れている書店で売っている透明ビニール製のブックカバーです。
表紙が手垢や埃で汚れるのを防止するのは勿論の事、カバーや帯の傷みや紛失さえも防いでくれる透明ブックカバーですが、蔵書印の押印文化の保全にも役に立つと思うんですよね。
その方法は至ってシンプルで御座いまして、大事な本にブックカバーを付けたら、カバー見返し部分にかかっている透明ブックカバーの帯のとこに蔵書印を押した紙を挟み込むんですよ。
この蔵書印を押印した紙をブックカバーの帯に裏側から両面テープ等で貼り付けたなら、読書中にもズレずに済んで快適でしょう。
古本屋さんに売ったり人にプレゼントしたりする際には透明ブックカバーごと剥がしちゃえば良いんですから、いざという時も安心ですね…
と、ここまで書いていて気付いたんですが、これって要するに蔵書票なんですよね。
日本では蔵書印が主流ですが、西欧圏では本の持ち主を示す証として蔵書票が主流みたいです。
まあ、蔵書票も書籍の本体に貼り付けたら取り返しがつかない訳ですから、透明ブックカバーの方に貼ってお手軽に楽しむのもありかも知れません。
そして昨今の読書環境を考えますと電子書籍も視野に入れないといけないのですが、電子書籍における蔵書印や蔵書票ってどうすれば良いんでしょうね?
物理的には押印出来ませんし、そうかといって奥付部分に蔵書印の画像データを書き加える訳にはいきませんし。
電子書籍リーダーの本体に蔵書票を貼り付ける位しか思いつかなかったのですが、これだとプリクラや千社札を貼り付けているみたいですし…
うーむ、何かよい方法は御座いませんかね?