二上山
これはある和歌から想像して作られた姉と弟の物語。
それはある冬のことだった。
私は重い病にかかった。きっと冷たい川に入って魚を取ったせいだろう。
でも、私は魚をとりたかった。病にかかるとわかってたとしても私はきっと魚をとるために川に入っただろう。
腹をすかせた弟のために、両親を亡くしずっと二人で支えあってきた弟のために、食べ物が必要だった。
「姉さん」
重くて沈むような頭の中弟の佐助の声が鳴り響く。私の身を案じているのだろう手には水の入った桶が握られていた。
「二上山まで薬草を取りにいってこようか?」
二上山は家からも見える大きな山だった。冬に一人で出かけるには危険すぎる山だった。
「二上山は厳しい、行くのはおよし。私のことは心配いらぬ。」
喉から出た声はかすれていた、自分でも高熱が出ているのがわかる。
弟も声をきいて唇を真一文字に引き結んだ。私はこのままでは弟は本当に二上山まで行ってしまうかもしれないと思った。
いや、姉思いの佐助のことだきっと行こうとするだろう。
だが、冬の二上山は厳しい弟は死んでしまうかもしれない。しかし、止めようと思っても体は熱のあまり動かなかった。
そのうち私は気絶するように寝てしまった。
私は、ハッと目覚めあたりを見渡した。弟はやはりいなかった。私は弟がかえって来ないかと待ち続けた。自分の心臓だけがやけに大きくきこえる。
どれくらいの時間がたっただろうか、ふいに扉が開き朝日が差し込んだ。
そこには血まみれの弟がいた。
「姉さん、薬草とれたよ」
手にはこれほどの重傷でありながらも薬草が握られていた。
佐助は声が途切れ途切れになりながらも自分がなぜ怪我をしたかを語った。
佐助は崖の途中に生える雑草を取るためにけがをしてしまったのだという。私はその話を呆然として聞くことしか出来なかった。
それからほどなくしてけがが原因で弟は亡くなった。
私はその時人生で初めて一人になったような気がした。
皮肉なことにそれからしばらくたって弟は二上山に葬られた。
しかし、雄大でありながらも人間味がある二上山は少し弟と似ているように思われた。
そんな中これから一人生きていくのであろう私は
「うつそみの 人にある我らや 明日よりは
二上山を 弟背と我が見む」
こう一人つぶやいた。
一人ではないと思いながら。




