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7.この世界の設定とは


 執務へ戻ったが。。。

 マーガレットのことが気がかりで身が入らない。

 骨折をした侍女の手当てももう少ししてやりたかった。

 が、レントゲンもギプスもない状況。最低限として骨の位置を戻したに過ぎない。

だが、公爵の中見が俺になっていることをバラすには時期尚早。。

 患者を手当する能力があるのにできないのは何とも歯がゆい。。。


 仕事に身は入らない上に若干イライラしていたようで、

「旦那様。。心労を和らげる薬湯にございます。」

 とセバスチャンがティーカップを置いた。なんとも気の付く執事だろうか。。


 などと感心したのもつかの間。。。目の前のカップの中身を見て眉間にしわを寄せてしまった。。


 これは一体何を入れたのか。。植物ではありそうだが。。。

 カップをゆっくり回すとドロリと動く液体。温かさで湯気に乗るのは。。めちゃくちゃ青臭い香り。

 恐る恐る一口。。。ぅえ。。。

 例えるならば、ホットグリーンスムージー。の悪いとこどりしたヤツだ。。


 何をどうすればこの味この触感。。”薬湯”とはいえ。だろう。。せめてハチミツくらい入れて、氷でガンガンに冷やせば、多少飲みやすくなりそうなものを。。。


 セバスの目線が刺さるので、覚悟を決め、男らしく一気に飲み干した。。つーか、一気にいかないと絶対に飲みきれん!!効能はどうか知らんが、このまずさで、心労のことはどっか行ったわっ!!ならば、よく効いたなっ!!


 心でものすっごく大人げなく毒づいてしまうほど不味かった。。。

 ”薬湯”なぞに頼らない、医療技術が進歩した現代日本。。。いいところだったなぁ。。。と思わず遠い目をしてしまった。


 そこでふとこの世界の医療技術や薬事情が気になってきた。

 確か”植物図鑑”を見た際に”魔力”が関係していると読んだ。


 回復系や毒など効果も様々らしい。

 これをうまく組み合わせることができれば、医療技術の発達していなさそうなこの世界でも、俺の知る医学が役に立つかもしれない。。

 そう思い立ったが吉日だ。。


「セバス。医学関連の書物と、薬草についての書物を。。」

 先ほどまでの俺とは雲泥の差で、てきぱきと指示を出す。

「薬湯が効いたようで何よりでございます。」

 セバスチャンは嬉しそうに下がっていった。



 そうして現在。。医学書やら薬草やらの書物と格闘中である。

 やはりこの世界の医学は未発達のようで、注射や点滴は存在していない。もちろんこれでは輸血も不可能だ。

 外科手術についても江戸時代ごろではなかろうか。。蘭学が入ってくる前のあたりっぽい。解剖学についての書物がなかった。


 目に見える剣傷などは縫合するようだが、それでは腱の断裂などは対応できず、後遺症が残るようだ。

 だが、そこで役立つのが”魔力”らしい。

 どういう原理なのかはわからないが。。。っと、そこはファンタジーな異世界だ。原理などあるのかも不明だが。

 魔力を持った薬草を使うとその作用がもたらされるらしい。



 さて、この情報を脳内で自分なりに落とし込んでいこう。


 背中を切り付けられた負傷者がいた場合。

 この世界の剣は、洋風な剣だ。あれは刀のように斬るでは無く、刺す・叩き切るがメインで切れ味は二の次だったはずだ。

 肩甲骨などの骨があるので、切り付けだけならば脊髄を切るまでには至らないだろう。となれば。即死は免れる。が、深刻なのは後遺症だ。背中の筋肉はかなり重要で、傷の場所によるだろうが、上半身を動かすことができなくなり、腰部まで達した場合は当然下半身も動かせない。そして動くことができなければ逃げることはできずに失血死。となるのだろう。。

 まぁ実際そんな刀傷の患者を診たことがないので、何とも言えないが、この世界は刃の薄い”刀”ではなく”剣”のようなので、叩き切る。というイメージから、脊髄損傷をしていないものとして考える。


 そして、味方がおり、すぐさま手当てを開始できた場合とする。

 背中を縫合する際に回復薬を使えば、傷の治りは劇的に早くなり、治癒薬を使えば奥にある筋肉や腱の治癒まで期待ができるという。。

 まさにファンタジー。。液体や粉をかけるだけでか。。。血管や腱の縫合ってかなりの神経を使うんだけどなぁ。と外科医としての苦労があっさりクリアされてしまうことに苦笑した。

 しかし世の中そんなうまい話はないわけで。。。

 回復薬に関しては、濃度によるが一般庶民でも手を出せるものもある。しかし治癒薬に関しては、その希少性から王侯貴族が手に入れるもの。という認識らしい。 


 また、薬の濃度で薬効が決まるらしい。まぁ当たり前か。

 濃度については、そもそも薬草がどれだけ魔力を含んでいるかで決まり、それを薄めて使うのが一般的だそうだ。

 薬草が魔力を蓄えるには、魔力の高い土壌で育つ。または魔物の巣窟で日々垂れ流される魔物の魔力を吸う。このあたりで違ってくるようだ。

 なので、魔力の高い土壌に魔力が高い魔物が住んでいて、そこに育つ薬草。。となればかなりの魔力を有するわけで。。そんな薬草は”魔草”と呼ばれ、王族であろうと滅多にお目にかかれない品物だそうだ。。


 さらに、エーテルエクスポーションなる”完全回復薬”と呼ばれる伝説のアイテムもあるらしい。

 すべての異常を消し、傷、体力までもを瞬時に全回復。。。ファンタジー万歳な代物だ。

 まぁ。伝説級のアイテムなど存在すら怪しので、話半分で聞いておこう。


 医学書や薬草について気になるところはメモを取る。だが、やはり自分の医学知識や見解も加えて書き込むため、この世界の文字で書き記せば、俺が異世界人であるとわかってしまう。

 とりあえず日本語を試したところ、難なく書くことができたので、遠慮なく日本語を使わせてもらう。これなら見られたとしても内容が分らないし、言い訳も容易いだろう。


 医学生時代を思い出して少しワクワクした気分になっていた。

 あの頃は未知の領域に足を踏み入れた感覚で、一つまた一つとなぞ解きをしている気分だった。

 点滴は知っているが、それが何をどうして効果を発揮するのか。

 そんな小さな骨一つがこれほどまでに大切な役割を持っていたのか。

 たったこれだけのことで、命の危険まで及ぼしてしまうのか。。

 そして、これほど発達した医学界でもまだまだ謎のベールに包まれた人体とはなんと不思議なものだろうか。と。


 のめりこむように医学書を読みふけり、模型一つ一つと格闘し。。

 両親のような状況に陥った人を一人でも助けるのが、医者としての使命なのだ。と燃えていた時代。まるではるか昔のようでもあり、昨日のことのようでもあり。。不思議な懐かしさを覚えた。



 そうしてセバスからの休憩の声も耳に入らないほど集中して、気づけば20時を過ぎていた。


「・・・ふぅぅっ。」

 キリのいいところまで済ませてノートを閉じ、ググっと伸びをすると、凝り固まった筋肉たちに血流が流れ込んだのか、ジワっと温かみを感じた。


「まったく。。坊ちゃまは。。。」

「・・・ん???」

「コホン・・・失礼をいたしました。」

 呆れかえったような顔で呟いたセバスを見ると、あぁ。子供のころからよくああやって叱られたなぁ。と公爵の記憶が蘇った。

 

「何度もお声がけしたのですよ?せめてお飲み物だけでも召し上がる時間をおとりくださいませ。」

「ははっ。ついつい、だったな。」

 困ったような顔の中に俺のことを心配する顔が見え隠れして、素直に反省をしておく。


「それで。。マーガレットに変わりはないか?」

「はい。侍女長からの報告では、お目覚めになってから傷の痛みはあるようですが、そのほかに不調が現れてはおらぬようでございます。1時間ほど前に夕食も済まされ、いつも通り食が細いながらもデザートまで完食なされたそうにございます。」

「そうか。それは良かった。引き続き注視していてくれ。」

「かしこまりました。ですから、旦那様も完食してくださいませ。」

「そうだな。」

 先の件を言っているのだろう。。公爵の軍人としての記憶に苛まれ、食欲を失ってしまったからな。。

 セバスが見守る中、というか。視線が痛いほどに見つめられ。。。もう無理。と思ってからもこれ以上の心配をかけさせぬように料理を口へと押し込んで。。。何とか食べきれば、セバスチャンは嬉しそうに目を細めていた。



 そして。。。苦行の時間が始まる。。


 そう”湯浴み”。。この世界も日本と同じく浴槽方式。。

 大浴場ほどの広さの湯舟に、無駄に素敵な花々が浮かぶ”花湯”で一日の疲れを癒すところまでは、良しとしよう。


 その先がなぜ苦行かというと。。。


「旦那様。。お手を。。次はお背中を。。」

 吐息がかかる距離で、侍女が背中を流してくれるという謎サービス。。。


 確かに着替えも侍女が手伝ってはいたのだが。。。


 この状況で大人しくしていろと言う方が間違っている。が、そこは大人だ。腰に巻いたタオルの下で必死に主張してきそうな主張部分を僧侶になった気持ちで鎮めに静める。

 少しだけ息が荒いのは、心を静めているからで、決して興奮しているわけではないっ!!と自分に言い訳をつけながら、必死に耐えて、今日も無事に湯浴みを終えた。


 

 そしてようやく一日が終わるのだが。。リラックスできるはずの風呂が。。。精神的にも体力的にも一番きつく、何かしらがゴッソリと持っていかれる感覚だった。。。


 本当はこの後の一人の時間にこの世界の仕組みを解き明かすべく。。。までは到底行かないが、せめて少しでも情報を。。。すぅぅぅぅ。。。


 やはりまだまだ身体は回復途中のようで、いつの間にか目を閉じてしまうのだった。





 そして目覚めてから2週間が経つころ。


 このファンタジーな世界の設定がなんとなくだが分かってきた。

 ”魔力”なるものは、自然が有しているのがほとんどで、人間も持っているには持っているようだが、自覚できないほど僅かな量。しかもそれを認識でき自在に使いこなせる存在ともなると、人間国宝級なのではなかろうか。。

 ポーションや薬草、回復魔法などは、人間の持つ微量の魔力に作用して、その効果をもたらすようだ。


 ”魔力”という存在があると気づいた時点で、ゲームのような”大魔導士”や”大賢者”がいるのだろうかと心躍らせたのだが、そんな存在はまず現れないようだ。だが、ゲームの序盤中の序盤で見かけるような、”ちょっと使える”程度の者は少ないながらも存在している。それでも魔力を操れる人物は稀有で、各国家で保護する対象になるようだ。確かにそんな稀有な存在は、その存在だけで争いの種になりそうだ。


 また、魔獣やモンスターに関しては生まれながらにその属性の”魔力”を有しており、危険な存在らしい。危険度でEランクからSSランクまで分けられており、当然SSランクがヤバい存在ということだ。


 人間(こっち)が魔力使えないのに魔獣(あっち)が使えるとか、どんだけ無理ゲーだよ。。と思わずため息を吐いてしまったが、そのかわり、人間側には”使い魔”契約というものが存在し、精霊・魔獣・モンスターと契約できれば、それを使えるようだ。。まぁそれも難しそうではあるが。。



 そして。。眉唾の存在、伝説級の能力があるらしい。。。


 まずは”魔眼”これを持つ者は何かしらが視えるらしい。相手の能力が視えたり、精霊が視えたり、あり得ない遠方が視えたり、少し先の未来が視えたり。。中々便利そうな能力だ。


 次に”魔操指”これは文字通り魔力を操作する力なのだが、魔法を使うのとはわけが違う。目の前の魔力を触れたり摘まんだり掴んだり。要は漂う魔力を扱えるらしい。なので、攻撃としてきた魔力を掴んで投げ返すだとか、魔物から溢れ出た魔力を集めたりだとかができるようだ。もちろん自分のレベルより高い攻撃魔力に触れれば。。。大惨事なんだろうな。。


 最後に”魔響声”これは声だけではないらしい。身体から発する音に魔力を持たせることができるようだ。まぁ主に攻撃用なのだろう。現代でも音響兵器は聞いたことがある。過度な音波は脳にダメージがくる。それにファンタジー要素を加えたと思うと。。ゾッとする。


 あくまでも文献での話。もしもその能力を有したならば国家への報告と登録が義務付けられている。

 このレベルまでくると、その能力者を人とは扱わないかもしれない。。”兵器”として使われたり、”実験体”となる可能性もあるだろう。ま、俺には関係のない話だ。


 

 それにしても現代日本。。。マンガやらが浸透していて良かった。俺の情報は主に両親が亡くなる中2までだが、それまではゲームは死ぬほどやりこんだし、マンガも週刊・月刊誌は友達同士で見せ合って全部読んでた。。こんなぶっ飛んだ異世界に来ても、何となくファンタジーを受け入れることができたのはその子供時代があったからだろう。。それぞれのマンガや小説なんかで、設定もそれぞれだったし。。まぁ。この世界はこういう感じか。。と。。。一応あっさり、とはいかないまでも完全な拒絶反応はせずに済んだ。。下地なくこの世界に来ていたら頭がおかしくなっても不思議じゃないだろう。。。


 まだ屋敷から一度も出たことがないので、あまりピンと来ていないのもあるかもしれない。実際、魔獣やらモンスターやらに遭遇しないと実感は湧かなさそうだ。。。が、できることなら出会いたくはないな。。



 庭を散歩しつつ、そんなことを思っていると、庭師たちが鍛錬をしていた。。

「私も混ぜてくれ。」

 とその中に参加することにした。


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