61.本当の事
踏み荒らされた芋畑の芋を使おうとか、討伐したミリタリーボアの肉を喰おうとか。。
そんなにおかしなことだろうか。。。
かーなり変人を見る目で皆がこちらを見てくる。
「まぁ、被害を最小限に抑えるための案だ。案。」
そう言えば少しほっとした顔をする面々。。いや。ホッとしすぎだろっ。とツッコミを入れたいが、アルベルトとしての体面がある。能面のように表情を変えずに、次の報告書へと何事も無かったように目を移しておく。
そうして夕食2時間前に無理やりに仕事を終わらせ、裏庭に急遽用意させたフィールドコンロに向かい合う。
昼間に指示しておいた被害畑から取り寄せた芋の数々。そして解体して肉としたミリタリーボア。さらに厨房から借りた調味料やら食材やらが並ぶ。
ミリタリーボアの肉は、下準備として、そのまま・酒に漬ける・水に漬ける・ヨーグルトに漬ける。を指示しておいたものだ。キヌタの病院はど田舎にあったので、差し入れで狩猟で獲ったイノシシやシカ、クマなどの肉を良く貰ったものだ。その時にジビエ肉の臭み取りを聞いていた。とはいえ異世界の魔物肉にも効くのか分からないが故の複数の下準備だ。。。
「そのまま。。。は、やはり臭いな。。そもそも喰う前提では無いからしっかりとした血抜きもしてないからな。」
筋肉質の硬そうなボア肉を嗅げば、やはり獣臭がすごい。下処理違いで順番に匂いを嗅いでいく。
「・・・ん?これは。。。」
まさかの”水”が一番匂いが少なく意外な結果。だが、調理すると違うかもしれないと、とりあえず下茹でを。
「うむ。やはり水が一番良いのか。」
念のため。と思っていた”水”であったが匂いは和らぐが肉質は硬い。水ならば金もかからず領民たちでも簡単にできるだろう。しかし柔らかさは酒漬が一番良かった。だが、食感はヨーグルト漬がモチっとしていていい感じだ。一長一短だが、調理法やメニューによって使い分けられる可能性もあるだろう。
そしてくず芋。潰れたり割れたり。。被害はいろいろだが、ほぼ損傷がない物もある。よく吟味選別をすれば多少なりとも素材として使える。
さてと。ジャガイモに似た芋だから、そうだな。。。傷芋は、使える部分だけを取って乾燥させて粉末にするか。。そうすれば長期保存が可能になる。が、今すぐどうこうできるものではない。
ポテトパウダーが上手くできるかは分からないが、それを使うレシピをいくつか作ってみようか。
そうしてまずはミリタリーボアの肉をミンチにして。。芋は茹でて潰して。。
マヨネーズを作って、野菜を刻んで。。揚げたり、和えたり。。。
などとしているとあっという間に2時間以上過ぎていた。セバスが呼びに来るまで気づかないほど調理に夢中になっていたようだ。
だが、いくつかのサンプルはできた。
食堂に着けば、皆が俺を待っていたようで、席に着くなり配膳が始まろうとしたので、
「少しいいか。」
そう言って、セバスに持たせていた試作品をテーブルに並べた。
「これは先ほど言っていた傷芋とミリタリーボアの肉で作った試作品だ。私は味見をしたいので、こちらを食すことにするから、私の分は配膳しなくて良い。皆も興味があればつまんでくれ。」
そう言って、食事の配膳を断れば、エスペランサ伯爵は困った顔をする。それでも問題ないから気にするなと念を押して、俺は大皿に盛った試作品をサーブさせた。
ミリタリーボアのミンチ入りコロッケに、ポタージュスープ。ポテトサラダと、じゃがいももち。この辺りが乾燥したポテトパウダーでもできるレシピだろう。
先ほどの試作品作りでは揚げ油があったし、ジャガイモと言えば!!で、もちろんフライドポテトも作りくず芋ではハッシュドポテトも作った。そしてヨーグルト漬けの肉があったので、ジャガイモとボアの薄切り肉をハーブで炒め、その上にグラタン風にチーズをのせてオーブン焼きしたものも作っておいた。
酒漬の肉は柔らかいので、本当はすき焼きにしたかったが、何せ醤油がない。なので、シンプルに焼いてワインソースを添えてみた。
なんだかんだ、時間が無かったので簡単な物しかできなかったが、そもそも肉も芋も期待通りに乾燥が成功するかもわからない。とりあえず今日の所は味見程度の試作で十分だろう。醤油や味噌があれば、レパートリーももっと増えたのだがな。
まずはコロッケか。
サクッっ。
「・・・・ほぅぅ。」
外から持ってきたから衣は少し冷めたが、中は思ったよりも熱を持っていて、ハフハフと口の中の息を吐いて熱を逃がす。
厨房で分けてもらった使用人用の硬くなったパンで、パン粉を作ったのだが、想像以上にうまくいったようで、サクサク感が堪らない。しかも少し多いかと思ったボアのミンチ肉だが、芋の味が濃く甘みが強いので、ボア特有の匂いが上手く誤魔化せている。ウスターソースがないし、臭み消しにもなるだろうとコショウを効かせたのも良かった。水に漬けた肉は筋肉質をそのままに硬かったが、こうしてミンチにするとかえって歯ごたえがあって、肉を感じられるという良さに変わっていた。
試作品一つ目にして中々いい出来だ。頷きながら、ポテトサラダをパクリとして、フライドポテトを齧りつつ、ポタージュスープも口に含む。やはりジャガイモよりも濃厚で甘みが強い。調理方法や味付けも芋の濃厚さを考えれば、もう少し変えても面白いだろうな。
ふむふむと一口食べるごとに頷きながら、ボア肉と芋のチーズ焼きに手を伸ばす。とろーーーーとチーズが際限なく伸びてくるので、くるくるッと上手いことフォークで絡めとって口に運べば。。
「・・・これは。。」
大満足の仕上がりだった。薄切りにしたボア肉の臭みが一切ないのだ。濃厚な芋とチーズの相性も抜群。ハーブの味も相まって。。。俺って天才か?と思うほど。。いや、今すぐ居酒屋のメニューにしても人気がでそうな出来栄えだ。
さらには酒で柔らかくなったロティは肉厚に焼いたが柔らかくてワインソースとよく合っていた。
そして最後はいももち。これはばあちゃんの得意料理だった。遊びに行けばいつも作ってくれる懐かしの味。だからこその”トリ”としておやつ感覚に楽しみに残しておいた。
「・・・甘いな。」
芋の甘さと塩のしょっぱさでもっちりとした食感が。。。日本を思い出してしまった。。郷愁を感じようと、戻ることのできない場所。。美味さと嬉しさと寂しさを飲み込むように目を瞑り深く一つ頷いた。
「・・・旦那様?わたくしもいただいてもよろしいですか?」
マーガレットの声で、はっと我に返り、隣を見れば、彼女が俺と皿を交互に見ながら心配そうに見ていた。
まずは試食だと思い、一口ずつしか食べていなかったのだが、失敗して残していると思ったのだろうか。。
「あぁ。もちろんだ。自分で言うのもなんだが、上手くできたと思うぞ。君は初めて食す料理だから、まずは一口ずつ食べてみると良い。」
そう言って、コロッケを一口大に切り分けて、フォークに刺して渡そうとしたのだが。。。
パクっ。
「・・・ん?」
「美味しゅうございますね。」
目を丸くした俺と、噛みしめて顔を綻ばせた彼女。。
フォークごと渡すつもりが彼女は手づから食べたのだ。傍から見ると”あーん”してたのと同じだ。。
こちらが恥ずかしくなってきた。。が、彼女は気付いていない。
もちろん俺としても恥ずかしさを誤魔化さないと。。。
「ソースをかけるとなお美味いのだが、今は無いのでな。他のも食べるか?」
「はい。」
そう言って、自分の皿を彼女の方へと渡してしまった。。大皿にある新しい物を取り分ければ良かったのに、テンパって。。何をしているんだと、心の中で反省する。
だが彼女は嬉しそうに他の試作品も食べて、その都度笑顔を見せてくれた。。となれば、エスペランサ伯爵もようやく安心したのか、試作品を食べてみることにしたようだ。
「・・・ふむ。。これは。。。閣下は料理もなさるのですな。」
試作品を気に入ったのか、目を丸くしたかと思った以降は、パクパクと食が進んでいる。
「今日は通常の作り方であったが、芋は乾燥させて粉にすれば、傷芋でも長期保存が効くようになる。これらはその粉を調理しても作ることができるのだ。無論、ボアの肉も然りだ。まあ、乾燥が成功すればの話にはなるがな。」
実際に傷芋やミリタリーボアの肉を食すことで、忌避感は薄れたようで、今後の対策方法について前向きな話をすることができた。
中々有意義な夕食を済ませることができたが、俺にとっての本題はここからだろう。
部屋に戻り、セバスの淹れた紅茶を前に、マーガレットと向かい合う。
「セバスとこの子達には既に話をしてあるから、このまま部屋にいてもらおうと思う。」
傍に控えるセバスと、奥で静かにしているブルー・シャルル・ヒスイに目配せをすれば静かに頷いてくれた。
マーガレットは少し不思議そうに俺たちのやり取りを見て首を傾げたものの、
「はい。皆様がいてくだされば、私が分からないことも教えていただけるので心強いです。」
との返答を聞けば、彼女は未だに皆に対して敬語である。セバスよりも自分の地位が下だと思っているようで、公爵夫人としての自覚が無いのだけはマイナスだな。とは思いつつ、まずは了承を得られたので、話に移ることにする。
一つ深呼吸をして、決めたはずの覚悟をもう一度してみる。話を聞いた後の彼女の反応が気掛かりで。。しかしもうこれ以上は伏せてはおけない状況になっているのも事実だ。
「マーガレット。これから話す内容は、とても信じられないかもしれないが。。だが本当の事だ。騙すつもりも嘘をつくつもりも無かった。だが、結果的には今さら話すことになった。思うところはあるだろうが、まずは最後まで話させて欲しい。」
「・・・はい。」
頭を下げる俺を見て、彼女は不安そうに胸の前で両手を握りしめてコクリと首を縦に振り、話を聞く体勢に入った。
そうして、アルベルトが生死の境を彷徨ったのちに、異世界から迷い込んだ俺が今までアルベルトとして過ごしてきたこと。元の世界では医者をしており、この世界では”魔操指”の能力を得たことで、医者としての腕をふるえたこと。そして。。。先日の大怪我により魘されていたのは、きっと本当のアルベルトだったのだろうという事を伝えた。
「・・・という事だ。。であるから、アルベルトがこの中にいるのであれば、俺がまた唐突に元の世界に戻ることになっても不思議じゃない。だが、彼が魘されながらも謝罪を口にしていたのであれば本心だろう。アルベルト自身が反省できたのかもしれない。もしもその時が来たとしても、以前のように君を虐げる事はないと信じたい。。。。それと、俺の気持ちに嘘はないよ。君を心から愛している。しかし元の年齢は33だからな。少しおじさんだよな。君の気持ちを尊重するから、今回の件で騙されたと嫌いになったのなら仕方ないことだと理解する。本来はアルベルト公爵の妻であるのだからな。。。今まで本当の事を言い出せずに、かなり後ろめたい気持ちが大きかったが。。好きになればなるほど君に嫌われたくない気持ちも大きくなってしまい。言い出せずにここまで来てしまった。。本当に申し訳なかった。」
深く頭を下げた。
俺は話をしながら、彼女の顔色を窺っていた。。だが目を伏せて聞き入っている彼女の表情はあまり変わることはなく、読み取ることができないことに不安が募っていたが、それはもうどうしようもないことだとも分かっていた。
沈黙が続く状況に、アルベルトだけでなく、俺までも彼女の心を傷つけてしまったのだと、深く後悔し始めた。




