表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/62

58.ボス戦


 フェルが暴走してあり得ないスピードでエスペランサ領を目指すことになった俺とヒスイ。

 フェンリル用の手綱は無かったが、ヒスイが蜘蛛糸で作ってくれた即席の馬具は、俺とフェルに合わせて作ってくれたのでかなり快適だった。

 そして数日かかる行軍のはずが、数時間走ったところで、エスペランサ領に近づいた。




 エスペランサ領土境の林を抜けた途端だった。目の前にミリタリーボアの大群がいた。

「・・・・嘘だろ。」

 その数は。。。。


 すでに報告で聞いていた100匹などかわいいものだと思えるほど、数えきれない頭数が待ち受けていた。数百はいるだろうか。草原を埋め尽くす勢いだ。

 スタンピードの発生の一報からすると時間的におかしいほどに増えている。

 

 ミリタリーボアの体毛は緑や茶褐色が混じりあい、天然の迷彩柄となっている。

 とはいえ、イノシシの倍ほどある体躯の獣が平原に大量にいれば、隠れるどころか目立つことこの上ない。今のところは草を食んだりして各々過ごし、平原に屯っているだけのように見えるが、これが統率を持って動き始めたらと思うとぞっとする。



「この数。間違いなくジェネラルボアがいるであろうな。。だが。。これほどの増殖スピードから見るに、自然発生ではなく、迷宮生まれと見るほうが妥当であろうか。」

 そんな物騒なことを舌なめずりしながらフェルが言う。彼の興味は胃袋を満たすかどうかのようだ。

「エスペランサ領で迷宮は確認されていないが?」

「であれば新しくできたのかもしれぬな。この先はどうする?こやつらを一掃したところで、迷宮から溢れたスタンピードであれば、キリがないぞ?迷宮を探すか?」

「うーむ。」

 渋く唸ってしまう。


 迷宮からのスタンピード。

 アルベルトの記憶を拝借するならば、迷宮のモンスターや魔獣は基本的に出てくることはない。というか、不思議な現象で”出られない”の認識が一般的だ。


 だがしかし、一定の条件を満たすとその入り口が解放されてしまうらしい。

 そして、迷宮内は一定のモンスター数を維持するらしく、解放されて外に出た分のモンスター数を補充しようと新たなモンスターを生み出す。それがまた外に出るから、また生み出す。を繰り返し、スタンピードとなるようだ。


 対して自然発生のスタンピードは、突然変異によって稀に上位個体が生まれた群れが上位種の統率力により、能力を各段に上げて脅威となる場合がほとんどだ。


 とすれば、これだけの頭数。。。最悪のパターンではあるが、迷宮説が有力であると言わざるを得ない。まだ攻撃的になっていないのを幸いと見て、ここをスルーして迷宮へ向かうほうが得策かもしれない。

 しかし、いつ狂暴化するかもわからない。放置したことにより、俺たちが迷宮攻略に時間をかけすぎれば、群れが狂暴化する時間を作ることにもなり、そして救援が間に合わなくなる。


「消去法となるが、迷宮攻略が最善なのかもしれないな。」

 中々ビシっと判断が付けられず、珍しく公爵の身体であるのに、もごもごと迷うような口ぶりとなってしまった。俺とフェルとヒスイだけでのスタンピード発生元の迷宮攻略。。平原にいたミリタリーボアの群れとの攻防よりも無謀だ。

「それしか無かろうな。では行くか。」

 そう言って、方向転換をしたフェル。

「行き先が分っているのか?これから探すのだろう?」

「ふむ。そなたが考え込んでいる間に”探索魔法”でおおよその場所は分かったのでな。」

 これまたなんでもないかのように言うフェル。

 

 驚きはあるが、もう頼るしかないのだ。驚いてばかりいるよりは、もう全面的に受け入れていこう。。。と考えを変えることにした。それにしても伝説級の魔獣はやはりけた違いに能力値が高い。味方で良かったと思うばかりだ。


「フェンリル様。少々お待ちを。」

 そんな中、ヒスイが待ったをかけた。

「どうした?」

「足止めには少々足りぬやもしれませぬが、我のクモ糸を罠として周囲に張ってはいかがかと。」

 そしてヒスイは粘着力のある糸をトリモチのように地面に張っていく案を出した。


 ヒスイの案を採用し、フェルに乗った俺たちはかなり大きな円で群れを囲むように、ヒスイ特性トリモチを周囲に張り、そして迷宮へと向かうことにした。


「まさかフェルが隠密スキルまで持っているとは思わなかったぞ。」

「我は能力が高いと言っておろうが。ちなみに得意技は雷系と炎系魔法であるな。」

「おぉ。」

 俺が感嘆の声を上げれば、フェルは得意満面な笑みを浮かべていた。うちのシャルルもどや顔をするが、シャルルが小悪魔的な可愛らしさだとするならば、フェルは悪魔的な妖艶さがある。



 そうして束の間の雑談をしていれば、フェルの言う通りの場所に迷宮が口を開けていた。

 草原の真ん中に、不自然に盛り上がった土盛り。そこに入口があった。

 少し離れた場所から観察すると、ぽつりぽつりと数分おきに1匹程度のボアが出てくる。


 だがここで恐怖を煽るのが、通常のボアが出てくると、近くにいた上位種のミリタリーボアがそいつを喰うのだ。弱肉強食とはいえ、同じ迷宮で生まれた眷属であるはずなのに、一切の躊躇が無いのが怖い。


「ふむ。やはりスタンピードの影響であるな。迷宮の魔物同士が共食いしておる。しかし厄介だな。ああやって眷属を喰らうと普通にえさを喰うよりも能力値が上がりやすいのだ。」

 なんとも物騒なことをフェルが言い出した。。


 もう最悪でしかない。ただでさえこちらは死ぬ覚悟できているというのに、さらに敗北の確率が急上昇した情報を聞いてしまった。。


「とりあえずどうするのだ?隠密スキルでボアたちとの戦闘を避けて、ジェネラルボアだけに集中するか?」

「それしかないだろうな。ボアと戦闘してジェネラルボアに気付かれれば、一気に統率能力を使い始めかねないからな。」

「であるな。では、ゆこうか。」

「頼む。」

 フェルの隠密スキルを如何なく発揮させるため、フェルの背に密着するように上半身までも倒してしがみつく。ヒスイは糸を巧みに操ってくれるので、どんな体勢になっても、馬具はジャストフィットしてくれるので有難い。


 狭い洞窟では、大柄なフェルの体躯は少々邪魔で、隠密スキルを使っても、すれ違いを回避できるわけではないため、ボアにぶつからないように避けたりする手間はどうしてもかかる。


 しかし、フェルの嗅覚は素晴らしく、迷うこともなく3階層を潜ったあたりで、大きな扉の前に出た。


「いかにもボスキャラが出ますと言っている扉だな。」

「うむ。間違いなく、ここが迷宮の最深部であろう。やはり生まれたての迷宮であるな。なんとも浅すぎて手ごたえがないぞ。」

 はぁ~っとつまらなさそうに溜息を吐くフェンリル。。だが、俺としては少しでも危険が回避できたのは有難いのだがな。迷宮は発生した時から拡張されるのが一般的で、徐々に階宮は、確かに発生してから日が浅いのだろうと思われる。


「少し待て。剣をもう一本出す。」

 俺は大扉の前でアイテムボックス機能が付いたウエストバッグからもう一本の剣を取り出した。

「ほう。魔剣か。」

 わずかに鈍い光をまとっているように見えるその刀身から、フェルは業物の一本と見抜いた。

「あぁ。我が家でも最上級の一振りだ。」

「うむ。魔力も良く馴染んでおるな。確かに良い品である。」

 と、フェルからお墨付きをもらった。


 この剣はその昔、王家から賜った剣だ。魔石や魔鉱石などを原料の一部として使うことにより、魔力を帯び、硬質化や耐久性などが飛躍的に上がり、剣の寿命も延びる代物となる。そしてそれは馴染むほど良いとされ、年数や使い込みの状態などでも変わってくるのだが、その剣が持つ個性によりどの系統の能力がどれほど育つのかは、未知の部分が多い。


 今俺が手にしている魔剣もそうだ。

 オルティース公爵家では王家から剣を賜って以降、魔力が強い者が生まれてもいないし、家宝ものの剣を使い込むことも無く。。。たぶんだが、剣としての成長はしてこなかったと思われる。

 それでも”魔剣”としてのポテンシャルは高いのだ。こうやって死地での戦闘となれば、間違いなく使える代物だ。


「ふぅーーーー。」

 戦闘で初めて使うはずなのに、手にしっくりと馴染む。流石は魔剣だ。

「そう気負うでない。戦いは我だけで終わるであろうよ。」

 フェルにそう言ってもらったが。。


 戦闘狂気味のアルベルトであったならばな。黒闇の公爵の名は伊達じゃないだろうがな。

 中身は俺なんだよ。平和な日本で喧嘩すらしたことのない一人っ子の医者なんだよっ!!

 ヤバい魔獣と戦えるかっ!!!平常心なんて保てんわっ!!!

 クワっと目を見開いて恨みがましくフェルを睨みつけたのだが、


「その気概良し。」

 などと俺が気合を入れているのだと勘違いされた。。こうなったらフェルに圧勝してもらうことを願うしかない。魔剣の出番などいらないのだ。



 そして俺たちは扉の前に一歩出た。



 ギギギギギィィィィ



 軋む嫌な音を立てながら自動扉さながらに開いていく。



「・・・・っっ!!!」

 俺は言葉を失った。


 大広間のような空間。入った瞬間に壁の燭台が灯った。それは蝋燭の火ではなく緑色の魔法の灯り。

 そこに照らし出された光景に絶句したのだ。


「これは反則だろう。。。」

 俺たちの前にはミリタリーボア。中央後方にさらに倍以上の体躯のボア。あれがジェネラルボアなのだろう。それを守る様にミリタリーボアの壁があったのだ。

 それを確認した時には、出入り口であろう扉は、音もなく閉まりそして消えた。逃げ道はもうない。


 俺の知っているゲームなどでは、ボスの扉を抜けたらそこには。。。基本的にボスだけだった。

 こんな20頭以上もボスを守る魔獣がいるとか聞いてない。


「何かおかしいか?」

「ボスだけじゃないのか?」

「何を言っている。大将を守るのはお前たち人間も同じだろう?無防備にいるわけなかろう。」

 フェルが不思議そうに言われたが、確かに軍人としてのアルベルトとしては当たり前のことなのだが。。日本人でゲームに慣れてしまっている俺としては釈然としないというか。。


 などと思っているうちに。


 バリバリバリ・・・・・ドッッッッガーーーーーーン。。。


 とんでもない音。。。それもそのはず、目の前に雷が落ちたのだから。。


 強い光と轟。それが落ちた先は煙が立っていた。


 グルルルルゥ。。。


 煙の中から、魔獣の唸る声が、それは広間に響き渡り反響する。



「フッ。唸るだけの無能な個体か。準備運動くらいはさせてくれるだろうな。」

 フェルがそう言って広間をぐるりと走り抜けると、残っていた煙が晴れていく。


 姿を現したのは壁代わりのミリタリーボアを失って気性を荒ぶらせたジェネラルボアだった。

 その目は真っ赤に染まり、歯を剥き出してフェルの事を射抜かんばかりに睨みつけ、標的と定めたようだ。


 煙を払ったフェルは舌なめずりをする。まるでジェネラルボアを挑発しているよう。それは歩きにも見られ、これ見よがしにジェネラルボアの前を余裕たっぷりに左右に行ったり来たり。

 そんなフェンリルの前にジェネラルボアはジリジリとにじり寄りながら攻撃の機会を窺うのだが、フェルも心得たもので、何気なく歩いているようで、攻撃できるような隙は一切なく、距離も一定を保っているのだ。


「ふむ。それが貴様の能力の限界か。。つまらぬな。。」

 そう言ってフェルが力を抜く。あからさまに隙だらけになった。


 その瞬間、焦らされていたジェネラルボアは一足飛びにフェンリルに飛び掛かった。


 が、その力の差は歴然で、爪先に炎を纏わせたフェルの一撃。


 ギャゥウウウウウウウウ。


 フェルの一撃は魔獣の喉元に綺麗にヒットし、爪痕には炎が移る。

 ジェネラルボアの声は断末魔にもならない。喉元の炎がそうはさせてくれなかったようだ。

 フェルからの一撃は致命傷では無かっただろうに、それを喰らった際の声の後には、じわじわと喉を焼かれていき、そしてゆっくりとその巨体が沈んだ。


 傷も喉だけで炎で焼かれた為に血もほぼ飛び散っていない。炎も喉だけを焼き鎮火した。

 あまりに圧倒的であまりにあっさりと終わった戦闘で。。美しさすら感じてしまう。



「あっけなかったな。」

 ふっと肩の力が抜けた気がした。

「ふむ。だがお陰で損傷が最低限で済んだ。喰える部分が多いというのは良いことだな。」

 フェルはやっぱり食い意地だけで。。

「ははっ。緊張していた私がバカみたいだな。これならば外のミリタリーボアも。。。。っっ!!!」

 その後の言葉を俺は出すことができなかった。



 胸に衝撃を感じたからだ。

 ゆっくりとまるでスローモーションのように。。

 胸を見ると、槍が俺の左胸を貫いていた。


「・・・ガハッっっっ!!!」

 咳き込むつもりもないのに、衝動を抑えられずに息を強く吐くと。。。口から何かを吐き出した。

 少し暗くて色が良く判別できないが、口に残る良く知る鉄の味。嗅ぎ慣れた特有の生臭い匂い。暗がりでも黒っぽく見える液体。それは外科医の俺なら良く知っている。。


(血か。。。)

 どこか冷静で。。いや冷静じゃない。。現実味が無いだけだ。俺の身体を槍が貫いたのか?

 それにしては痛みが無いな。。

 これは。。。心臓は大丈夫そうだな。。この量の血ならば、肺の損傷は。。


 あまりに非現実的な出来事で、俺は何故か傷の分析を始めていて。。



 ドサッ。



「主殿ーーーーーー!!!!」

 ゆっくりと暗くなっていく視界の中、いつも冷静なはずのヒスイの声が叫び声のように聞こえた気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ