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57.スタンピードの一報

遅くなりました。


 ふっふっふっふ。

 思わずほくそ笑む。

 シンは神が遣わしてくれた・・・・いや、そもそもこの子供が神だったわ。

 心の中でにんまりとしつつ、ツッコミもしておいたが。。

 

「ふっふっふっふ。」

 思わず声に出てしまうほど、嬉しい。


 そう、何を隠そう気付いてしまったのだ。シンの真の能力に!!

 触れるだけで腐敗させる力。それは悪い部分だけを見れば恐ろしいのだろうが。。。

 腐敗と発酵は同種だ。食せるかどうかで単語が変わるだけ。

 ならば、試作している味噌や醤油・魚醤もシンがいれば何とかなってしまうのではないか。と気付いたのだ。


 一人勝ち誇った笑みを浮かべていたが、当然アルベルトの動かない表情筋で笑うとゾッとするくらい怖い笑みだったらしく、従魔たちにドン引きされた。


「まぁ悪いことを考えていたわけでは無いから安心しろ。とりあえず、シン。食品を発酵させたいが、できるか?」

「・・・・。」

 ふと首を傾げたシンだったが、あっと声を出してポンと手を叩く。

「そういう事か!!」

「そういう事さ。」

 シンもようやく俺の真意を汲み取ってくれたようだ。


「味噌も醤油も、僕が作ったんだよ。」

 シンは腰に手を当て背を逸らしてエッヘンと自慢げ。と言うかさっきの手を叩く仕草といい、このドヤる仕草といい。。。昭和だな。。。ラノベやらアニメやらを知っているとはいえ、長命の神。どことなく古臭いところもあるが。。まあ俺にしてみたらこれくらいが親しみやすくはある。


「作ったとはどのレベルでなんだ?」

「どのって。。腐敗させた食べ物が食べられるものなんだよって教えてあげたり、すぐ腐る煮豆とかで困ってたから、納豆作ったりだよ。昔ながらの発酵食品っていうのは、まぁ僕の力だね。」

 何でもないことのように言う。

「そうなのか。。だが教えるとはどうやるのだ?」

 そこが疑問だ。座敷童的な存在だったというのならば、人間から意図的に見ることができないはずだ。


「えっへん。だーかーら。僕”神様”だからね?天啓とかやっちゃうわけよ。夢枕に立つってもの簡単だよ?」

「・・・本当に神なのだな。」

「・・・え?この期に及んでまだ疑ってた?」

「まぁ。ところどころ?」

「失礼だな。」

「まぁそこは時効ということで。ここは異世界だからな。」

「・・・そう。。。だね。」

 口をとがらせちょっと不満げではあるが、幼な子がやると可愛いしかない。


 そしてふと気づく。さらにその先を。

「なぁ。シン。」

「なあに?」

「君の能力だが、任意で発酵食品にするなどができるということか?」

「・・・そんな便利な能力なら、神様として追放されてないよね?」

「ということは?」

「腐敗させたり発酵させたりの菌や微生物ってのは、自然界に存在してる子たちを使うんだよ。子の食べ物とこの子が相性いいよねってのは分かるけど、菌とかを僕が新たには生み出せない。だからさ、科学の研究が進んだ現代じゃ、僕の役割はそんなに要らないってこと。僕がやらなくても研究所で見つけちゃうんだもんね。」

 やれやれと両手を上げて降参するシン。


「そういうことだったのか。。確かに今の技術力ではそうだが。。それでも人間では至らぬ部分の方が大きいだろう?」

「そんな風に考えないって。今までの発酵だって僕の力だったって知らないでしょ?だから敬っても崇めてもくれなくて、過神に堕ちちゃったんだよ。」

「そういうものか。。」

「そういうもんさ。。」

 諦め顔のシン。人間の悪い部分が出てしまった典型だろう。都合の良いときは姿が見えない神でも崇めるが、目に見える恩恵が無ければ不信する。人間とはなんとご都合主義なのか。。とはいえ、俺も「神様~。」だとか「一生のお願い!!」なんて、ことあるごとに拝んでは来たがな。


「せっかくペニシリンを作れるかもと思ったんだがな。」

 ポロっと口にした願望をシンが聞き漏らすわけもなく。

「どっかのタイムスリップ漫画じゃないんだからさ。アオカビとか任意で生やせないよ?」

「・・・そうか。」

 期待半分ではあったが、やはりダメだったか。。そう都合よくはならんな。とはいえ、俺としても漫画のように上手いこと作り上げる自信はなかったのだが。


 というわけで、味噌や醤油、魚醤など仕込んだ材料に対して、シンの協力を仰ぐことには成功した。


「えへへ。もし上手くいったらさ。。一番に食べさせてくれる権利。忘れないでね?」

「それはもちろんだ。腹も下さんのであれば、毒味薬として完璧だからな。」

「・・・神様なんですけど?」

「流石は神だと思っているぞ?自ら率先して人間に危害が及ばぬようにしてくれる海より広く深い心を持っていらっしゃるとな。」

「急に丁寧になったんですけど?胡散臭いんですけど。」

 またもぷくっと頬を膨らませるシンだが、それでも日本の料理が食べたい方が勝ったようで、引き受けてくれるところも可愛いな。


 そして日程調整を。。。とスケジュールを確認に執務机に手をかけた時だった。



 コンコンコンコンっ!!!


 教育の行き届いた使用人には珍しく慌てふためいたノックの音。


「旦那様!!!いらっしゃいますか!!旦那様っ!!」

 声も相当に慌てている。

「入れ。」

 その言葉を待っていたといわんばかりに、勢いよく扉が開かれ、青ざめた使用人とモルディート領軍の隊長が入ってきた。


「どうした?何があった?」

 軍人が足を踏み入れたことにより、俺も統合司令官としての顔になる。


「はっ。それが。。。エスペランサ領にてスタンピード発生の一報が。。」

「っっっ!!!!スタンピードだと?」

 机にバタンと大きな音を立てて手をついて前のめりになってしまう。


 スタンピードとは穏やかではない。漫画やアニメでも危険な事象として描かれるが、まして魔力の少ない人間がほとんどのこの世界では、魔物の種類によっては軍でも対応しきれない可能性があるのだ。

 

「・・・魔物は?」

「・・・それが。。」

「なぜ言い淀む。」

 顔色の優れない隊長を見れば、良くないことなのだと分かるが。。。


「ミリタリーボアではないかと。」

「っっっ!!!!」

 絶望感にのまれそうになる心。それを気力だけで奮い立たせる。


 ミリタリーボア。。。それはボア系種の上位種だ。

 魔物のボアと言えば、デカいイノシシ。のイメージなのだが、ミリタリーボアとなると、統率個体により、連携を取り、10頭ほどの群れであっても、軍が出動するレベルなのだ。


「・・・それが何体確認されたのだ?」

「・・・はい。50頭以上は。。。それが確認の限度だったようですが、まだその後ろにも倍以上の個体がいたと。。」

 10頭でも手こずる魔物が100体以上。。。部下たちに心を悟られぬよう、呼吸を乱さぬようにするだけで精いっぱいだ。本当のアルベルトならば上手く采配をするのだろうが、俺は何と言ってもまがい物。どうすればこの局面を。。。と出ない答えを巡らせていると。


 コンコン。


 今度は窓の方からノック音。振り返ればフェンリルのフェルが覗き込んでいた。


「どうした?」

 カチャリと窓を開ければ、

「ミリタリーボアと聞こえたのでな。加勢がいるかと聞きに来た。」

 まるで今日の天気の話をしているように、さらりと言ってのけるフェル。


「フェル、君の申し出は嬉しいのだが、今回はスタンピードだ。100体以上発生している可能性が高い。いくらフェンリルでも。」

 その先は言えなかった。負けるという一言を言ってしまえば、それが現実味を帯びそうで。


「たかがミリタリーボアであろう?100体は流石に面倒ではあるが、我は統率個体のジェネラルボアを狙っておるのだ。ミリタリーボアはそなたらにくれてやるから、ジェネラルボアは我がもらっても良いか?あれの肉は好物なのだが、滅多に現れぬのでな。。楽しみだ。」

 べろりと舌なめずりをしてニンマリするフェル。。


「ジェネラルボアを食ったことがあるのか?どうやって倒した?」

 そこは聞いておかねばならない最低限ポイントだろうと思って問う。戦ったことがあるのならば、戦略についての知恵を借りたい。

「ふむ。もちろんだ。脂身が多いのだが、甘くしつこくないのだ。肉は繊維質だが柔らかい。人間のように焼いて食すとほろりと崩れるがそれもまた美味いな。」

 俺たちの危機感とは裏腹に、肉の良さについて語られた。。。これは質問の答えは諦めた方がいいかもしれない。


 そうして、フェルも交え、食堂に皆を集める。オルティース公爵モルディート領軍については隊長クラス以上の幹部を集めた。


「ミリタリーボアのスタンピードとは。。。我らが急ぎ兵を送ったとしても2日以上はかかる。。間に合わぬかもしれんな。」

 父は深い溜息を吐く。

「けれど、エスペランサ領の特産芋はこの国の芋の8割を賄っておりますわ。。農地をボアに蹂躙されれば。。この先我が国は。。大飢饉となりますわ。」

 母は食糧危機を指摘する。

「ですがここはモルディート領です。旦那様が出陣なされても、本軍と合流できません。。そんな状況では。。。」

 マーガレットは戦況を正しく判断したようだ。それは俺が出たとしても死ぬ確率の方が高いとわかっているのだ。涙で声が詰まってしまっていた。


「すべて理解している。だが、ここで救援を出さぬという判断はしない。負けるとしても1頭でも数を減らさねば、我が国の存続すら危ぶまれる。急ぎ出陣の準備を!!」

『はっ!!!』

 自領軍の幹部らが強く返事をくれた。命の保証がどこにもない状況で、むしろ死地に向かうというのに。。。有難い。


 出陣の手筈を整え、2時間後に出立とした。


 少しだけ弱気になった俺は、マーガレットを連れて自室に戻ることにした。

 もちろん、従魔たちも一緒だ。だが、まるで葬式のように誰一人言葉を発することなく暗い。

 フェルは身体が大きすぎるので外で待機してくれている。


「マーガレット。。少し。。良いか?」

 そう言ったが、返事を聞くこともなく、愛しいその人を腕に抱き込んだ。これが最後になるかもしれない。それは彼女も分かっているのだろう、か細い身体が震えていた。


「せっかく想いを通わせたのにな。。」

「だんなさま。。。」

 顔を上げた彼女の瞳はすでに涙に潤んでいた。


「公爵家のことを考えるならば、可能性は低くとも跡継ぎを作らねばならぬのだろうが。。君を抱く時間すらも無いとはな。だが、万が一の際はこの家に縛られずともよいし、この家にとどまってもいい。その際は子がいないからといって、君が疎外されず大切にされるよう、両親には話しておくよ。」

「そんなこと。。言わないでくださいませ。。わたくしは旦那様に似た男の子も女の子も欲しいのです。絶対に。。。生きて帰ってきてくださいませ。」

 俺の胸元をぎゅっと握り切に願う姿に安心させてやる言葉がどうしても紡げない。その可能性は限りなく低すぎて。


「ごめんな。マーガレット。」

「ぅぅ。。。。」

 アルベルトの身体で精いっぱいの優しい声色で。。俺の謝罪を聞いたマーガレットはついに泣き崩れてしまった。震える身体を抱きしめ撫でることしかしてやれない。


「ブルー・シャルル。二人はここに残ってマーガレットを守ってくれ。」

 そばにいる二人に声をかける。

「嫌だにゃ。従魔は主と一緒にいるものだにゃ。」

「そうぴよ。僕が行けば。。フェニックスの力が。。」

 二人も泣きそうだ。


「シャルルもブルーも優しいな。だが、これがお前たちの主としての望みだ。それにブルー。今のお前は小さく幼い。力もまだ足りない。フェニックスの力を使うとなれば。。。それは過ぎた力だ。そんなことをすればどうなるかなど、素人の私でも分かるよ。君たちが幸せに暮らすことが私の幸せなんだ。分かってくれるね?」

 最後の別れだからだろうか。。アルベルトの横柄な口調は出ずに、柔らかく話せている。それが余計に二人を辛くさせてしまったのだろう。。二人も俺にしがみついて泣き崩れてしまった。


「ははっ。笑顔で送って欲しいのだがな。。。さてと、ヒスイ。君には無理をさせてしまうが。。ついてきてはくれまいか。」

「無論承知しておるよ。主殿。。」

 大人なヒスイは全てを飲み込んでくれる。そこに死が待っていようともだ。



 そして時間というものは無慈悲にも待ってはくれない。両親への挨拶も最低限しかできなかった。

 戦闘用の鎧に身を包み、0には馬に跨ろうとすると。


「ベルよ。そなたが乗るのは我の背であろう。」

 そう言ってフェルは俺の首根っこを加えてポイっと空に放り投げると、一回転した俺の身体は見事にフェルの背に跨っていた。

 まぁ。良しとするか。加勢してもらえるだけありがたいのだ。


「皆のもの。。。行くぞ。」

『おーーーーーーーーーっっ!!!!』

 いつものように士気を上げるような声掛けも、負け戦ではできないが、それでも兵たちの鬨の声はモルディート領に響き渡るかのように天へと咆哮された。


 今回の軍編成は、急遽ではあったが、騎馬隊と歩兵隊を編成した。もちろん負けることを想定すれば、スタンピードはいずれモルディート領にも到達する。その時の衛として、自領軍をすべて率いていくことはできない。今回は3分の1ほどしか連れていけないのだ。


 この町を出るまでは騎馬隊・歩兵隊と共に行軍だが、町を抜けたら騎馬隊が先行することになっている。一秒でも早く救援に向かわねばならぬからだ。


 スタンピードは放っておけばどれほど大きい規模になるかわからない。今回はどこで発生したかも不明なのだ。エスペランサ領は平地で、魔素の滞留ができないため、魔物が発生しにくい土地なのだ。それなのにスタンピードが発生した。原因を断たねば終わることはないかもしれない。


 そんな考えを巡らせていると、町を出た。


「ふむん。この騎馬隊の隊長はそなただな?」

「はい。そうです。」

 フェルが斜め後ろの騎馬隊長に声をかけた。

「ならば隊を率いるのは任せても問題ないな?」

「無論です。それが役目ですから。」

 フェルの唐突な質問にも隊長は真摯に答えていたのだが。。


「では、この場は任せたっ!!我は先に行くっ!!のんびり来るがよいっ!!」

 そう言うなり。。。


「うぉーーーー?」

 俺の叫びも疑問形になるほど、突然疾風のごとき疾走が始まった。。いや。体感では、いきなりソニックブームを起こしたかのような衝撃がきたのだ。

 

「ちょっ。。フェル。。」

 そう発した俺の言葉は見事に風にかき消されていく。

(念話を推奨するぞ。)

 フェルはどこ吹く風だ。

(なぜ独断専行するんだ!!)

(なぜだと?言ったではないか。ジェネラルボアは我が倒すと。のんびりしていては、誰かにジェネラルボアをかっさらわれるかもしれぬだろう?そうなればミリタリーボアも残っていないかもしれないではないか。昔人間の冒険者に聞いたことがあるのだ。魔物を倒したら、倒したものの手柄になるのだと。であるならば、ゆっくり到着してすでに戦闘が全て終わっていては、我は一口も喰えぬということになりかねぬのだぞ?せっかく行くからにはジェネラルボアを喰いたいだろうがっ!!)

 念話で力強く言われた言葉に俺もヒスイも絶句した。。。食い意地だったとは。。。


 しかも俺たちは死の覚悟を持って赴くというのに。。この魔獣は喰うことしかない。というか、余裕で勝つ前提なのだ。。これが本当に実力から言ってくれているといいのだが。。

 あまりに俺たちの覚悟とフェルの目的がかけ離れすぎて。。


「ははっ。」

 現実逃避気味に乾いた笑いが出てしまう俺なのであった。

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