56.真の力?
「ふわぁ。良く寝たぁ。」
シンは朝の空気を吸い込みながらわざとらしく起き上がる。
(ねぇ。僕が寝なくても大丈夫って知ってて、イチャイチャを見せつけてくるのかな?)
(もちろんですよ。神様。)
不満げなシンの思念に、こちらもわざとらしく返しておく。
そう、シンは神なだけあって、眠りを必要としないのだ。だから、俺たちが眠っている間も結構ヒマしていたと思われる。
(寝なくてもいいのに、バカップルに付き合うのも馬鹿馬鹿しいから、珍しく寝ちゃったよ。)
(健康な幼児でなによりですね。)
俺が朝の鍛錬用の身支度を終えると、シンは既に身支度を終えている。
それもそのはず、着物は着ているようであれも神力の内なのだそうで、所謂魔道具のようにデザインは
任意に変えられるらしい。
そして着物の色の濃さは力の証だそうで、彼の力が最高に発揮される色は紫なんだそう。
俺たちがあった時には白くて、本当に存在値も白紙レベルに消えかかっていたらしい。
それが俺が神と認めたことで空色になり、従魔たちが神と認識して敬ったことで藤色まで戻ったというのだ。そしてラメのようにキラキラしていたのは彼の神力が結晶となったもので、真に最高ランクまで神力を蓄えた神の衣は、濃密なラメを纏っているそうだ。
一時てきとはいえ、だからあれほど嬉しそうにしていたのだと、改めて分かった。
気付けば、しんは今日も両手を組んでわきの下に手のひらを隠している。
「なぁ。ヒスイ。昨日の布で、シンの手袋を作れないか?」
俺としてはいい案だと思ったのだが。。。
「主殿よ。常に触れている手袋では流石に腐食が進む。数十分ごとに新しい手袋を作るのは現実的では無いと思うのだがな。」
そう言われれば、確かにそうだった。。。当たり前の事が抜け落ち過ぎて少し恥ずかしいくらいだ。
「僕の手の事は気にしなくていいから。こういうものだと割り切ってるからね。」
シンにも気遣われる始末。見た目5歳児から慰められるのはなんともバツが悪かった。
だがしかーし。俺には個人的に容認できないことがあるのだ。
「昨晩のように、マーガレットに介添えはさせないからな?」
「ははっ。分かってるよぉ。ちょっと揶揄い過ぎた自覚はあるよ。」
「言質は取ったからな。」
「細かい奴だな。」
「これでも軍の要職でもあり、医師でもある。細部の見落としで人命に関わるのでな。」
「はいはい。」
「はいは1回でいいぞ。」
「は~い。」
そんなくだらないやり取りをしていると、マーガレットも流石に起きたらしく、クスッと笑われた。
「おはよう。マーガレット。」
「おはようございます。」
「喉の調子はもう随分と良くなったようだな?」
「はい。薬草茶もそうですが。。。毎朝起きるたびに良くなっているように思います。今日も昨日よりもスッキリしています。」
「そうか。日にち薬なのかな?良くなっているならばそれでいい。」
あれから、本当に日に日に回復していき、昨日など会話は問題なくできていたのだ。
(お前の力だと思うぞ?)
(・・・・ん?)
シンから思念。。だが、何の話か分からない。
とりあえず時間も時間だ。
「朝の鍛錬に行って来る。」
「行ってらっしゃいませ。」
もちろん目配せしておいたシンも後を付いてきた。
「シン。君の見解を聞きたいのだが。。。」
「もちろん。鍛錬くらいなら今の僕なら付き合えると思うから、いつも通りにして?付いて行くよ。」
という言葉をもらったので、遠慮なくジョギング・・・いや走り込みから始める。
「先ほどの私の力、とは?」
「うん。奥さんにかかってた靄。あんまり。というか良くない力だね。日本風で言うと陰陽の陰の方。君は陽の力、それも結構強いからね。君に触れる距離で眠っているから、徐々に消えて行ってるんだね。。」
「それをこちらでは”聖の力”と言うらしいんだが、私に自覚はないのだ。」
「あーだからか。君から漏れ出てる分だけで補ってるから、回復が緩やかなんだね。力を使いこなせれば、すぐに回復できたんじゃない?」
「自覚が無い力など使いこなせないだろう?」
「うーん。僕としても、日本の力ならなぁ。教えてあげられるかもなんだけど。こっちのは、まだ把握しきれてないから、間違えて暴走とかさせちゃったら。。。」
「ダメだな。」
「ですよねぇ。」
眉間に皺が寄る俺と、苦笑いの5歳児シン。
一緒に走り込むからと、手を抜いてはいたが、シンは変わらず付いてきていた。息も上がってない。
「息は上がらないよ。神に呼吸は必要ないもん。」
シレっと言い放ったが。。
「それにしては洞穴では息が苦しそうにしていただろう?」
「あれは滞った力を綺麗な空気と混ぜて浄化させようとしてたんだけど。。。」
「あんな奥深い洞穴で、澄んだ空気など。。」
「無いから死にかけたんだよ。」
妙に納得。洞穴の奥深くの淀んだ空気では無理がある。とは誰もが分かると思うのだが。。他の生態系に自分の腐食の力が及ばぬように潜んだがゆえに、さらに悪化したのだろう。神としての気遣いなのだろうか。
「ここでは大丈夫そうだな。」
「うん。君の傍だから、さらにね。」
「それほど違うか?」
「そりゃあもうね。君から漏れてるのは本当に僅かなんだけど、それでも力が減少した僕からすれば、貴重で重要な栄養補給源だよ。」
「なんか。。。便利道具みたいな言われ用なんだが?」
「まぁ、間違ってないよね?居候させてもらった上に、神として崇めてもらえて、さらにタダで回復。一石三鳥。。いやもっとあるねぇ。これが”ご利益”ってやつ?」
「逆だろう。」
頭が痛いとはこういう時につかうのだろうな。。走りながらため息を付いてしまった。
というか、シンの為に手を抜いているので、汗もかかなければ息も上がらない。
そして、いつも潜んで攻撃を仕掛けてくる屋敷専属の騎士や使用人たちの襲撃もない。これは一緒にいるシンの安全の為だとは思うが。。
「これでは鍛錬にならんな。」
「じゃ。ご飯にしよう!!ここのごはん、すっごく美味しいもんね。今日のメニューはなーにかなー。」
一瞬でシンの興味が逸れて、朝飯にシフトチェンジしてしまった。ニコニコのシンを見てしまえば、もうこれでは俺も鍛錬を続けられない気分になる。このあざとくも、可愛すぎて、いう事を聞いてしまいたくなるのは、やはり見た目だけではなく、神の力が作用しているのか?
何はともあれ、朝食だ。
俺が日課の鍛錬を切り上げたことに屋敷の使用人たちは驚きを隠せない。
多少の熱や体調不良くらいでは、子供の頃から鍛錬を休んだことが無い俺の行動に戸惑いつつも、朝食を楽しみにして鼻歌を歌うシンを見て、ほっこりしたようだ。
「ふわー。今日はシャケだぁ!!!」
と言って朝食のサーモンに満面の笑みを見せたシンだったのだが、一口食べてしゅんと肩を落とす。
「これはライズサーモンと言ってな。故郷の鮭とは根本的に種類が違うのだ。」
俺も初めて見た時にすごく違和感があったのだ。見た目は完璧なシャケなのに、食べると魚自体の味が薄い薄い。脂ものっていないし、香りも無い。調味料の味で食すのみだ。
「どうしたにゃ?美味しいにゃ?」
「うんうん。さっぱりしてて、僕も食べれるっぴ。朝にピッタリぴよ。」
シャルルとブルーはこちらの世界の住人なのだから違和感はなく、美味しく食べている。
(魚が好きなのか?)
(魚も好きだよ?日持ちする塩鮭とか干物とかは供物で良く貰ったから。ちょっとしょっぱくてじゅわーって口に広がる感じ好きだな。)
少し俯き加減にサーモンを見ながらも、帰ることのできない遠い異世界を思い出して少しだけ微笑むのが痛ましい。
「シンよ。試作品の干物があるのだが。。。」
「・・・え?」
目を丸くしたシンの横で、
「まだあるのかにゃ!!!出し惜しみするにゃんて!!!」
「食べたいっぴ。」
「ふむ。あれは美味かったな。」
まさかの父まで参戦すれば。。。
「あら?わたくしに内緒で何をしてらしたのかしら?」
チラリと冷たーい視線が母から父に送られた。これは夫婦げんかにでもなられたら厄介だ。
「試作した魚の加工品がありまして。少しお待ちいただければ用意できますが。」
まだ朝食も序盤。干物を焼いたところで食べられるだろう。
「あら。アルがお料理するのかしら?」
「もちろんです。昨日も出来上がりの確認の為に、僅かばかりを試食したのですよ。」
そう言って取ってつけた言い訳をして、厨房へ向かうことにした。
今後もこの港町で味噌や醤油を作るならば、余った魚で作る干物は副産物としてできてくる。屋敷の皆の評判が良ければ、賄いにでもできるだろう。
という事で、料理長を交えて干物の焼き具合を教えていく。焼くだけ。だがこれが意外と難しいもの。ひっくり返し過ぎれば旨味や脂が落ちてしまうし、じっと待ち過ぎても焦げ付く。丁度いい出来上がりを伝えれば、優秀な調理人。すぐに覚えてくれた。これでこの屋敷でも干物が食べられることになった。
さて、15分ほどで焼き上がり戻ってくれば、
「うわー。鯵の干物だぁ。」
とシンは感動して、
「昨日より身が薄くて小さいけど、魚の味が濃いにゃぁぁぁぁ。」
と流石はシャルル。魚の味には鋭い。
マーガレットは初めての干物に戸惑いつつも、食べてみればその旨味が分かるので、美味しそう。
そして、昨日父が躓いた、骨に齧りつく。件だが、流石に母やマーガレットに手づかみはできないだろうと、箸を使って美味しいところを捲っていれば、父も同じだったのだろう。母の骨に着いた身を綺麗にはがしていた。
いつも通りなようでいつもより会話のはずんだ朝食を終え、マーガレットや従魔も連れて庭奥に作られたガゼボで食後のティータイム。
「なぁなぁ。主様の故郷は美味しい物がいっぱいなのにゃ?」
足を舐めて食後の毛づくろいをするシャルル。
ちなみに、異世界の事は秘密なので、日本の事は”故郷”と使う取り決めにしたのだ。
「確かに。。。美味い物は多いだろう。この国のようにソースで味を決めるだけではなく、シンの故郷には素材の味を活かした調理方法が多い。」
「うんうん。これで味噌とか醤油とかあったら最高だよねぇ。」
そんなことを言うシン。俺はにんまりと口角を上げる。
「ふっふっふ。シンよ。それを今試作しているから、こうして余った魚の干物が出来上がっているのだよ?」
「・・・最高かよ!!!」
どこで覚えたその言葉。。。と言うくらい、俺よりも若者な言葉を放つ神様シン。。。ホント、俗世にまみれているな。とちょっと呆れてしまう。
「だがなぁ。流石に長期戦だ。何せ酵母菌が無いからな。味噌や醤油が失敗した時の為に魚醤も試している。何か近い物が出来ればいいんだがな。上手くいかなければ、またそこから仕込みになるから、何年かかるかわから。。。。」
そこまで言って、ようやく気付いた。
「なぁシン!!!君の力だ!!」
「・・・ん?」
ガシッとシンの肩を掴んで前のめりに彼の身体を揺すってしまった。
「ふっふっふっふ。」
上手くいけば、最短で味噌や醤油が完成される未来を夢見て、怪しげな笑いが出てしまった。
捕らぬ狸の皮算するする俺なのであった。




