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55.神聖な居候


 何とか正門での”隠し子疑惑”を晴らし、なんとかサロンまで到着した。

 詳しいことは後で説明するとして、まずは幼児のシンを休ませるという名目で、俺たちだけだ。


 部屋に入るなり、

「・・・お前。信用無いのだな。」

 日本の禍神であるシンからじっとりとした目を向けられた。だが返す言葉もない。

「まぁあれだ。王侯貴族は跡取り問題に敏感だからな。」

 とりあえず、取ってつけた理由を述べておけば、「いつの時代も人間とは愚かなものだな。」と一人納得してくれたようだ。


 そして従魔たち3匹とフェンリルであるフェル。そしてシン。セバスを置いて人払いをした。

 マーガレットにはいつか話をするつもりだが、今日のようになし崩し的に話をする問題ではない。

 ブルーやシャルルにも話すかどうか迷うところだったが、念話も使えるし、今後何が起こるか分からない状況で、味方を増やしておくのも必要。そして従魔は制約をかけさせれば他に漏らせないという機能があるとヒスイに教えてもらったからだ。


 まずは俺が異世界からやって来て、アルベルトの器に入っていることを伝え、そしてシンが俺と同郷の神であることを伝えた。

「主様がすごいのは、そういう理由だったぴよ。」

「さっすがにゃぁ。益々自慢の主様にゃぁ。」

 ブルーもシャルルも普通なら隠し事をしていたことを批難してもいい立場だろうに、すんなりと受け入れてくれたどころか、俺の存在を鼻高々に自慢の種にしてくれた。この子たちが味方で本当に良かった。


「マーガレットには謝罪も必要だから、もう少し時期を見て話そうと思うのだ。」

「それがいいにゃ。」

「うんうん。ねね様は優しいからちゃんと聞いてくれるっぴ。」

 というわけで、うちの従魔たちはおおむね理解を得られた。


「それにしても、この子供が神様にゃぁ?」

「人は見かけによらないって本当っぴよね。」

 二人はシンの周りをぐるぐると廻りながら遠慮するでもなく観察している。

「ふむふむ。敬うが良いぞ~。」

 などとシンも久々の好奇の目に気を悪くするどころかむしろ喜んでいるようだ。


「で、どんな能力にゃ?」

『・・・・・。』

 シャルルのその一言で、シン・俺・フェルが顔を見合わせて苦笑い。

 その様子にブルーとシャルルは首を傾げる。


「一応、危険があるからな。話はするが、引くなよ?」

 と前置きをして、シンの能力を見せた。

 大きな花瓶に生けられた公爵家自慢の花々が見る見る枯れていく。


「ふわ~。どうなってるにゃ。」

「不思議っぴよぉ。」

 二人はまるで手品を見ているように何故か目をキラキラ輝かせて、腐食の能力を見ていた。


「・・・怖がらせた。。。だろうか?」

 シンが心配そうに二人を見たのだが。。。

「すごいっぴよぉぉぉぉ。」

「便利にゃぁぁぁぁぁ。」

 二人は花瓶にしがみついて、その能力を絶賛。もちろん予想外の展開で、俺は二人に危険度などを説明したのだが。。


「手の平を気を付けるだけっぴ。」

「そうにゃぁ。この能力があれば森で大活躍にゃぁ。」

 などと言ってシンの前で拍手をし始めた。


 するとシンの身体が光を帯び、空色の着物に色がさらに付いていく。徐々に色が変化していき、藤色になった。

『・・・っっ!!!!!』

 全員が固まる。それは衣服の色が変わっただけが理由ではない。シンの周辺に濃密な空気が纏われたからだ。感じたことのないほどの棲んだ空気。けれど”聖”の力と言われれば首を傾げるような異質な重さがある。その混ぜ合わさった不思議な感覚が嫌なのかと問われれば、そんなことは絶対にないが、この世のものではないだろうと思わせるには十分なオーラだった。


「ふわ~っっ。こんな。こんなに力が戻るなんて。。何百年ぶりだろう。。。ぅっぅうう。。」

 シンは両手を広げて自分の身体をしげしげと見つめそして泣き出した。


 俺の周りでは皆、良く泣くな。。だが、喜怒哀楽。あるに越したことはない。我慢など不要だ。と、俺が可愛らしい幼児姿のシンを温かく見守っていれば、異質なオーラに当てられた従魔とフェルは彼の前に傅いていた。聞けば精霊の力を有する者には、神の片鱗を見せたシンを本能で敬わずにはいられなかったらしい。そんな敬いはさらにシンの神体を格上げさせたようで、まるでラメをあしらったかのように着物がキラキラしていた。


 しばらくしてシンが落ち着くと、オーラや着物のラメは収まった。

 まぁ、有り難いことだ。あのままでは流石に正体を隠して一緒に暮らすのには無理が出てくるからな。


「さて、ようやく本題なのだが。。」

 そう切り出せば、

「主様はいつも本題に入るまでが長いにゃ。」

 とツッコミを入れられた。まぁ、脱線するクセがあるのは自覚があるのだが。。

「お前たちも話を脱線させる名人だがな。」

 一応ツッコミ返しをしておいた。


「で、今後なのだが、シンにはこのまま俺と一緒にいてもらおうと思う。同じ世界から来ているというのが引っかかるし、もしも向こうに戻ることになったとしても二人一緒ならば心強い。」

「えぇーーーー。主様。。戻りたいかにゃ?」

「嫌だっぴよぉーーー。」

「ねね様の事はどうする?」

 シャルルとブルーは涙目でヒスイからはいつも通りもっともな問い。


「うむ。今までも向こうへ戻る可能性を考えてきた。あの時は予兆もなくこちらに来てしまった。ならば何が発動条件かは分からないが、突然向こうへ戻されることもあるだろうと。。だがしかし、シンのように意図的に飛ばされる可能性があるのならば、向こうへ戻る術があるかも知れぬ。マーガレットの事を置いて帰りたくはないが、だからといって、向こうの世界が恋しくないわけでもないのだ。両親も亡くなっているし恋人もいなかったから、未練と言うほどの事はないが。。。」

「なら、帰らないでーーーー。泣いちゃうっぴよぉぉぉ。」

「もう泣いてるだろう。それに自らの意思では到底帰れないさ。」

 ぴーよぴよと縋り泣くブルーの頭を撫でてやれば、シャルルも顔をくしゃくしゃにして涙を堪えながら俺の足にしがみ付く。もちろんこちらも頭を撫でてやる。それで少しでも感情が落ち着けばいい。ここまで懐いてくれているのは正直嬉しいし、俺とて彼らをおいて帰るなど。。こちらの世界ももう恋しいのだ。


 泣いている二人が聞いているかはわからないが、

「だが、念を押しておく。何が起こるかは分からない。様々な可能性を視野に入れておいてくれ。」

「イヤだっぴよ。」

「認めないにゃ。」

 グズっと鼻を鳴らしながら二人は俺の身体に顔を隠して、

「ふむ。主殿に危険が及ばなければ、受け入れるしかないのであろうな。」

 とヒスイはやはり冷静で。

「僕は向こうに戻ったって、もう居場所はないんだろうな。」

 とシンはしょんぼりと。

「では我はそなたらを見守るとしようか。」

 とフェル。


「フェル。それはどういう意味だ?」

「あの森の瘴気はある程度祓ったとはいえ、今しばらくは様子見が必要であろう?ダンディルも友であるしな。あやつの生涯が終わるまでは友でいると約束した。だが我は本来定住はせぬ身。お主らと森とダンディルの間を行き来し近況を知らせてやろう。実のところあの狭い森では退屈していたところよ。テイの良い伝令として使ってくれても構わぬぞ。」

「それは有り難い。」

 俺が右手を差し出せば、面白いことを見つけたように笑ったフェルが同じく右手を差し出し、二人でがっしりと握手をした。


「それで、シャルル・ブルー。さきほどシンの能力について便利だと言っていただろう?腐食させる能力がどうして便利だとなるのだ?」

 もう一度座り直し、セバスの淹れなおしてくれた紅茶を飲みながら聞いてみる。二人はまだ不安なのだろう。俺の膝の上から離れようとはしない。

「だって、大きな魔物同士が相打ちした時とか、朽ち果てるまで時間がかかり過ぎて大変にゃ。」

「森の獣だけで食べきれないと腐ってきちゃうし、瘴気でダンジョンできちゃったり。いいことないっぴ。」

 とシャルルとブルーが説明してくれる。


 シャルルは生まれた森しか知らないが、それでも魔物の腐敗臭には困らされたとのこと。ブルーはフェニックスと鳳凰であった前世の記憶の一部が継承されているらしく、その古い記憶の中で、大量の魔獣の死骸から漏れた瘴気でダンジョンが生まれるのを見たことがあったらしい。


「ものすごく物騒だな。」

「だからシン様の能力があれば安心ぴよ。」

「流石は神様にゃぁ。森の安全を守ってくれるにゃぁ。」

 二人の言葉に、

「へぇ。こちらではそんなことがあるのか。向こうはそんなことは起きないからな。僕の力に別の使い道があるのか。」

 シンは顎に手を添えてうんうんと頷きながら、「そうだ、身分を隠すんだから”様”はつけるなよ。」と二人に釘を刺していた。



 そうして今後のシンの扱いを相談したうえで、夕飯後に屋敷の皆をホールに集めた。もちろん使用人たちも含めてだ。


「さて、この子。シンについてなのだが。」

 そう切り出せば、皆が息づかいすらも殺して俺の言葉を待っている。


「まずはこちらのフェンリルについてだが、ダンガロ男爵の嫡男、ダンディルの友で名をフェルという。ダンガロ領を抜ける際、マーガレット達を救ってくれたのも彼だ。」

 そこまで言うと、皆が感嘆のため息を吐くのが分かる。それも当然だろう。フェンリルといえば伝説の魔獣。出会う事もほぼ皆無だろう。


「そしてこの子。名はシンという。人の姿をしているが極東の小さな島の高位の大精霊らしい。らしい、というのは、この子の記憶が曖昧でな。理由は分からぬが、ある日フェルのいる森を彷徨っていたという事だ。それゆえ、膨大な力を有しているのだが、力を制御する記憶が戻っておらず、人里を危険にさらさぬよう、フェルと共に森の洞穴で過ごしていたというのだ。」

 そう言って、俺の横に立つシンの頭をポンポンと撫でれば、シンも嬉しそうに俺の手に頭を寄せる。


「こうして人恋しい幼い時期であるのに、一人洞穴の奥で、フェルにも危険が及ばぬよう、必要最低限のみの接触しかしてこなかったようでな。不憫でならない。危険なのは手首より先、手のひらを中心としてなのだ。そこに触れると力の強さゆえに、物の代謝を早め腐敗させてしまったりするのだ。だからこのように常に手を隠している。夕食に姿を見せなかったのも食器を持つこともできぬためなのだ。けれどもそれ以外は普通に接しても危険ではない。だが、皆が不安に思うのも無理のないこと。こちらに滞在中は私の部屋で面倒を見るからそのつもりでいてくれればよい。」

 そんな適当に作った設定だったのだが。。。


「なんと不憫な。。」

「大精霊様とは。。」

 モルディート邸の使用人たちは、王都の本邸から一線を退いた者たちも多く、平均年齢がかなり高い。そのせいだろうか。シンを見る目は孫を見るようで、涙を拭う者もいたし、信心深い者はシンを拝んでいる。まぁ。悪くない反応だ。


 そして父が口を開いた。

「いくら大精霊様といっても、幼いのだろう?であるのに、人里を気遣ってくれる深い心も持って下さている。ならば、これ以上不憫な生活は要らぬのではないか?せっかく我が屋敷に滞在していただくのだ。手の平を気を付けなければならないことは、お前の説明で全員が把握した。ならば好きに過ごしてもらえば良いでは無いか。」

 父スティーブンの発言に母もマーガレットはもちろん、使用人一同も大きく頷いてくれる。

 シンの愛らしい姿は皆を惹きつけるようだ。


「でも。。。転んで咄嗟に手を付いても腐っちゃうんだ。本当に危ないんだよ。迷惑かけるから。」

 とシンが言えば、

「それがどうしたの?ここは国一番の公爵家なの。あなたが力を抑えられなくてこの屋敷一つ朽ち果てさせても、他にいくつでも別邸があるし、立て直すことなんて大したことじゃないのよ?子供は子供らしく好きに過ごして頂戴。」

 母フリージアは慈愛の瞳でシンの前に屈みこむとその頬をそっと撫でれば、シンは驚いたように目を大きく見開き瞳を潤ませる。


「私も文献でしか聞いたことはありませんが、魔力が安定しないのは、心を表していると読みました。子供の魔力暴走には親や周囲の愛で満たしてあげると良いと書いてありましたよ。シン様には健やかにお過ごしになっていただくのが良いのではありませんか?」

 マーガレットは俺の腕を抱きしめながら懇願するように見上げてくる。大好きな嫁の上目遣いは反則だ。


 こうなると俺が止める理由もないわけで。。。


「皆がそう言ってくれるのであれば、シンを閉じ込めておく理由はないな。だがそれぞれに思うところがあるだろう。怖いと感じた者は無理に接しなくても問題ない。シンもそこは理解しているからな。」

「うん。僕はずっと嫌われてきたからそれが普通だからきにしないよ。それよりも。。こんなにみんなに受け入れてもらったこともないから。。ちょっと、どうしていいのかもわからないけど。。えっと。。。よろしく?でいいのかな?」

 シンが戸惑いつつもニッコリと微笑めば。。。


 皆がきゅーんと音がしてそうなくらいその微笑みに蕩けていた。。こうして一瞬にして人心を掴んでしまうのは、やはり神の力の一端なのだろうか。。。人から怖いと言われて”黒闇の公爵”などと通り名を付けられているアルベルトこと俺からすると羨ましい限りだ。この身体の表情筋。。動くようにならないのかとつい思ってしまった。


 そんな思考を脱線させていると、ちょんちょんと袖が引っ張られる。

「どうした?マーガレット。」

「シン様はお夕食はお召し上がりになったのですか?」

 心配をしているその顔がまた可愛らしいが、その顔はシンじゃなく俺に欲しい。じゃなくて、シンは神なので、食事は必要ないとのことで、

「摂ってないが。」

 と答えたのだが、彼女は目を大きく開いて驚いて、

「育ち盛りですのに。。旦那様ったら。。酷いですわ。」

 ギュッと腕を掴まれ抗議された。。。本人から要らないと言われたんだがな。。


「・・・食事にするか?」

「・・・うん。」

 俺の戸惑いの問いに、シンも困ったように頷いた。


(別にいらないんだけど。)

 そう言ってシンから思念が届く。

(だよなぁ。食べられるか?ダメなら断るが。)

(食べられないわけじゃないよ。食べなくてもいいってだけだから。供物とかはちゃんと食べるからさ。)

 とのことなので、食事をすることにした。のだが。。。


「どうしてそうなる?」

 俺は不満げにシンを見れば、ウシシと勝ち誇った笑みを返された。


 というのも、手を隠しているシンは食器を持てない。皿に顔を突っ込んで食べようとしたのをマーガレットに止められて。。。


 何故かマーガレットにあーんをしてもらっているのだ。。羨ましすぎるっっっ!!!


「はい。シンさま。あーんですよ。」

「うん。あーん。」

 おいっ。お前、神だろっ。まんざらでもない様子でマーガレットに甘えるんじゃないっ!!


 その俺の心の叫びが聞こえたのだろう。

(お前の嫁。かわいいな。)

 マーガレットの死角からニヤリと黒い笑みを返された。。。おい。神だよな?神っつたよな?やはり禍神か。。屠るか。。


(おい。不敬だし、物騒だし。ヤキモチが過ぎるぞ。心の狭いヤツめ。)

(どっちがだ。神だという割に満喫しやがってぇ。)

(神とはいえ、疎外されてきたのだ。こうして甘やかされたことがないのでな。とても良い心地であるぞ。ほら、マーガレットとやら。我に次のあーんをせよ。)

 完全に勝利者の顔となったシンは楽しんでいる。


「シンさま。次は何がいいかしら?」

「そのおれんじとやらが食べたいな。」

「ふふっ。本当はデザートは後に食べるのですよ。今日は特別ですよ。あーん。」

「あーん。」

 という胸糞悪い食事風景を指を咥えて見させられた。。。


「・・・チッ。」

 イライラする俺を見てマーガレットがふふっと笑う。

「旦那様。大精霊様をおもてなししているだけですわ。・・でも。。召し上がりますか?」

 そんなことを言いながらフォークに刺したオレンジがこちらに向けられた。彼女も俺がヤキモチを焼いているのを気付いたらしい。

 これは好機!!!と俺が身体を寄せかけたのだが。


 パクっ。


「美味しいにゃぁ。」

「・・・っ!!!おいっ!!」

 シャルルに邪魔された。

「ふふっ。旦那様ったら。」

 そう言ってもう一度オレンジを刺し直したマーガレット。


 パクっ。


「甘いっぴぃ。」

「・・・っ!!!こらっ!!」

 今度はブルーかっ。

 マーガレットはちょっと面白くなってきたようで、またオレンジを。。


 ヒュン。。


「ふむ。悪くない。」

「・・・ヒスイよ。お前もかっ!!」

 つい有名な戯曲の名台詞っぽくなってしまった。なにせこういう張り合いに出てきたこともない冷静沈着であると信頼していたヒスイが、こんなコントに付き合うなど思いもしなかった。しかも蜘蛛らしく糸でオレンジをかっさらったのだからな。


「ふふっ。今度こそ。ですわね。」

 彼女が笑いながらオレンジを刺した。確かに今度こそだ。従魔3匹ももう邪魔はしないだろう。


 パクっ。


「・・・っっ!!!!!何っっっ!!!」

 安心しきって伏兵を忘れていた。気配を消して近づいてきたフェンリルにしてやられたのだ。


「ベルの完全敗北だな。」

 シンに至ってはお腹を抱えて笑い始めた。


「ふふっ。皆様最後の一個ですの。今度こそ旦那様にお渡ししてもよろしいですか?わたくしも旦那様に差し上げたいんですの。」

『もちろん!!』

 マーガレットのお願いに従魔たちとシンとフェルが頷いた。はじめっからそうしてくれればな。と少し不貞腐れつつ、マーガレットからのオレンジをもらえば。。甘酸っぱさが広がって堪らなく美味しく感じた。これは待たされた効果かもしれないな。


「仲睦まじい様子でなによりでございます。」

 セバスの一言で急に現実に引き戻された。ここは私室とはいえ、人払いをしていなかった。。部屋付きの侍女たちもいたのだ。。チラリとそちらに目を向ければ、仕事のできる侍女たちはササっと”見てませんよー。”的に視線を逸らした。いや。そういう気遣いの方が恥ずかしいから。


「ごほん。これでお前たちも満足できたな?菓子を持ってこさせるから、あとは好きに寛ぐと良い。私はシャワーでも浴びてこよう。」

 と言って、なんとも気まずい空気から逃げてみた。



 シャワーから出てくると、シャルルとブルーはフェルに包まれてスヤスヤと寝ており、シンはヒスイの糸を珍しがって遊んでいた。

「シン様に御休みになる様にお伝えしたのですが、まだ眠くないから旦那様を待つと仰られて。。」

 とマーガレットは幼い子供姿のシンを気遣っている。

「私が見ているから、君も湯浴みをしてくるといい。今日の花湯はこの地方のトーデイという薔薇だ。とてもボリュームのある花だからな。見目もいい。」

「まぁ。アプリコット色で大輪の薔薇ですわね。こちらに来たら一度見て見たかったのです!!」

「ゆっくりと浸かって来るといい。」

「ありがとうございます。」

 そんな会話をしてマーガレットを送り出すと、シンとヒスイは俺と目配せして応接に移った。


「どこで眠る?ここで問題ないだろうか。」

 子供用のベッドを運びいれさせていたのだが、シンはフルフルと首を横に振る。

「間違って手が触れた時に柔らかい物だとすぐに腐らせちゃうから、石とかの方が助かるんだ。だから床が嬉しいんだけどぉ。」

「だけどなぁ。」

「うん。。奥方が心配するよね?」

 渋る俺の心を読んだようにシンも困り顔。


「一応確認だが、石は腐食しにくいのか?」

「うん。腐るってより砂塵になっていくからね。迷惑度合いからすると。。まだマシ?」

「この床は大理石だよなぁ。ミスリル鉱石ならばどうだろうか。」

「ミスリルって!!!もしかしてゲームとかに出てくるあの”ミスリル”?」

「あ、あぁ。そのミスリルだ。てか、ラノベとかゲームとか。。人間の俺より詳しい神って。。俗世にまみれ過ぎてないか?」

 冷たい目線を返してしまうが、


「だって、座敷童カテゴリーだよ?人の世で過ごす神だよ?人の営みを知ってこそ、じゃない?」

「何となく釈然とはしないのだが?」

「まぁまぁ。君は勉強しすぎだったんじゃない?医者って物凄く勉強して大変そうだもんねぇ。てことで、ミスリルの話に戻すんだけどぉ。」

 シンの俗世まみれはこの際置いておく。。。べきなのかは分からないが、マーガレットが湯浴みから戻るまでに話を纏めておくには、無駄な時間がもったいない。


「シンのいた洞穴からミスリル鉱脈が出来つつあってな。判定用に少し持ち帰ってきたのだ。ミスリルならば魔力を通しにくいし、多少は違うかと思ったのだが。」

「うーん。こっちのミスリルと僕の神力の相性が分からないからなぁ。」

「ものは試しだ。」

 俺はミスリル鉱石を出す。青白く光っているように見える鉱石はその見た目だけでも神秘的だ。


「これって。。。高い?」

 流石俗世まみれのシンの発想力。希少性よりも値段を聞いてきた。

「もちろんだ。ゲームのようにひたすら素材集めできるような代物じゃないし、簡単に見つかるものでもない。そこら辺の素材屋で買い取ってもらえるほど安い物でもない。国家管理している専用の鉱石店でしか売り買いできないが、このサイズとなれば、家一軒は買えるな。」

「・・・っっ!!!!!そんなにお高いの?」

「まぁ公爵家からすれば微々たる散財だが、そもそも出回ることが無さすぎて、買いたくても買えない。が正解だろうな。」

「・・・っっ!!!!!そんなに珍しいの?」

 びっくりするたびに揺れる黒髪がまるで猫の毛のようで面白可愛い。


「物は試しだ。気にせず触れろ。」

 そう言ってずいッとミスリル鉱石をシンの前に出す。ゴクリと唾を呑みこむ音が聞こえてきそうなほどシンが緊張し、恐る恐る手を伸ばす。

「恨まないでよーーーー?」

 そう言ってゆっくりと触れると。。。。


 特に変化は起こらない。1分ほど経過した頃だろうか。。僅かに色が変色し、さらに数分後にようやくパキリと小さな亀裂。


『・・・よしっ!!!』

 二人で目を見交わしてハイタッチ。はできないのでサムズアップしておく。


「これほど時間がかかるならば、問題ないだろう?」

「うん。間違って触れちゃっても1分もそのままとかしたことないもん。」

 やったと達成感に包まれる俺たちを見てヒスイは。。


「はぁぁぁぁぁ。だが、それでは石の上にシン様が寝るのであろう?それはねね殿が悲しむというところに戻るのではないか?」

『・・・・っ!あ、あぁ。』

 図星過ぎて二人で肩を落とす。


「主殿。少々ミスリルを砕けぬか?」

「・・・砕く?ミスリルを?」

 突然のヒスイの提案に困惑してしまうが、ヒスイは何か秘策がある様子。


「まぁ、砕くだけならば。。。」

 いつもの剣を持ち出したが、それでは剣が負けるだろう。「ちょっと待っててくれ。」そう言って武器庫へ向かい、特殊武具を持ってきた。


「これは芯材にミスリルが使われていてな。オルティースの名を冠する者しか使うことを許されていない武具だ。」

 そう言って見せた俺が持つのは両手で扱うほど大きなハンマーだ。これならば鉱石も砕けるだろう。


 だが。。。目の前の鉱石は全て粉砕されてしまうな。。

 まぁいいか。まだあるし。


 という事で遠慮なく貴重でお高いミスリル鉱石にハンマーを振り下ろした。


 とんでもない音が鳴り、ミスリル鉱石は粉々。

 だが。。


「もう少し細かくならぬか?」

 ヒスイはさらに注文してくる。こうなれば後戻りはできない。文字通り粉々にしてしまえ。

 そんな気合の元、振り下ろそうとしたが、小さすぎるので、ゴリゴリと押し砕くことにした。


「ふむ。これくらいで良かろう。主殿、少々力をもらうぞ。」

 そう呟いたヒスイは足の一本を俺の指にチョンと乗せ、もう一本はミスリル鉱石へ向いている。

 そして、出てきた糸に俺のオーラを纏わせると、ミスリル鉱石の粉がヒスイの糸に付着していく。

 どんどんと身体の中から魔力が抜かれていく感覚だが、目の前の作業の方が気になって、ヒスイに止めるように言う事もできない。


 一通りの糸に粉が付くと、さらに細く長くのばされていき、さらには縦糸と横糸に分かれ、あっという間に布が織りあがった。


「シン様。これに触れていただきたい。」

「うん。」

 ヒスイの布にシンが触れる。だがすぐに腐敗は始まらなかった。ミスリル鉱石の結晶に触れた時よりも時間は短かったが、それでも十分に同じ効果は得られている。


「これならば。」

「うん。いけるね。」

「そうであろう?ねね殿も過剰に心配しなくなるであろう。」

 そんな話をしながら、俺は子供用のベッドにヒスイが作ってくれた布をシーツ代わりに敷きつつ、大きかったので半分折り返せば、十分タオルケットの役割も出来そうな大きさだった。



「すみません。旦那様。。少しゆっくりし過ぎました。」

 顔を火照らせまだ髪が渇いていない。俺に顔を見せるのを優先してきたようだ。

 手伝いの侍女たちを下がらせマーガレットをベッドに手招きする。


「眠られたのですね。」

 俺たちのベッドの横に設えられた子供用のベッドで眠るシンを見てマーガレットが微笑む。

「あぁ。だから静かな方がいいだろうと思って侍女を下がらせた。髪は私が乾かそう。」

 そう言ってタオルで毛先を包んだが、マーガレットは

「自分で。。」

「しーっ。シンを起こしては可哀想だから。」

 耳元で囁けば、彼女は両手で口元を押さえて、申し訳なさそうにしながらも俺が髪を拭き乾かすに従ってくれた。


「こんな穏やかな時間を過ごせて幸せだ。」

 彼女の髪を拭きながら耳元で囁けば、何か言いたそうにしながらも口元を押さえてマーガレットは会話を我慢していた。

 そうして髪が乾かし終わり、ベッドに潜り込む。


「私も。。。幸せです。」

「・・・ん?」

「なんでもないです。」

 か細い声で言った彼女の声は聞こえていたが、あえてスルーしてみた。もう一度言ってくれたらなぁ。と思って。でも予想通りに耳まで赤く染めて恥ずかしがる姿も可愛いのだからしょうがない。


 そんな甘いやり取りに満足しながら、今日の俺の一日が終わっていった。。。。



「全く。。。僕が寝たふりだって知ってて見せつけてくるんだからぁ。夕ご飯の仕返しかなぁ。」

 寝入った二人を見て、呆れ顔になるシンなのであった。 


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