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50.さかなさがし


 フレンチトーストとクレープの甘い香りが漂うなか。。


「全く。ねね様と仲良くして欲しくて静かにしてたのに、酷いっぴよ。」

「全く。ねね様とイチャイチャしてばっかりで、忘れられたにゃぁー。」

 もぐもぐと大量の食べ物を咀嚼しながら、目の前の一匹と一羽に責められている。


「分かった。分かったから。そこは私が悪かった。お前たちの存在を。。。まぁ平たく言えば、すっかり忘れてたな。」

 アルベルトっぽくないが、バツが悪すぎて頬を掻きつつ動かない表情筋を必死に動かして僅かに上がる口角で誤魔化しにかかるが。。。

「全く。こやつらの我慢がきかぬ性格は分かっておるだろうに。」

 隣でヒスイが呆れ顔で、ブルーとシャルルは昼食に乗り遅れた時間を取り戻そうとするかのように、必死に食べ物を口に運びながら恨めしそうに俺を睨んでいた。


「許してくださいませ。」

 小さくて掠れ掠れで弱々しい声でマーガレットが二人に声をかけると。。。

『・・・・っ!!!』

 ブルー・シャルル・ヒスイが目を見開き彼女に釘付けになった。


「ねね様。。」

「声。。」

「喜ばしいな。」

 三者三様に驚きつつもマーガレットの発声に喜んでくれているようだった。



 という事で、締めくくりは騒がしくなったが、使用人たちやその家族まで巻き込んだ、俺のおもてなし?料理は満足してもらえたようだ。

 まだまだ宴たけなわではあるが、漁港長との約束の時間も迫る。

「私は次の予定があるが、皆はゆっくりしていくと良い。今日の業務は全員気にすることはない。」

 それだけを伝え、迫る約束の為に足早に屋敷を出た。


「あのアルベルトが。人を気遣ったぞ。」

「本当ですわね。急に良い人になると死期が迫ると聞きますけれど。。」

「死の淵から戻ってきたばかりだぞ?」

「では、生まれ変わったのかしら?」

 前公爵夫妻は息子のあまりの変わりように、やっぱり辛辣で、その会話が終わることは無さそうで。。


 マーガレットはふて腐れ気味のブルー・シャルル・ヒスイを宥めながらお世話係をやってくれていて。


 使用人とその家族たちは、”黒闇の公爵”の変貌ぶりに驚きつつも、突然の休んでもいい発言に感謝仕切りで、結局降って湧きすぎた時間に何をしてもいいのか分からす、独身者は普通に仕事をしてしまうという事態に陥っていた。



 俺が出かけた後にそんなことになっていたとはつゆ知らず、漁港長の元へと半ばワクワクしながら向かっていた。探求心をくすぐられる。

 こちらの海の生物や植物については”アルベルト”の知識の中だけしかない。

 出汁を取るには、昆布とカツオに似たものは最低限手に入れたい。

 醤油が作れなかった場合でも”魚醤”は魚があれば作れるだろう。

 カキがあればオイスターソースの可能性も出てくるな。

 残念なのはXO醤については造り方を知らない。使う専門だったからな。

 アンチョビは何となく知ってはいるが、そもそも俺自身がそんなに好きじゃない味なので、そこは最終手段としておこう。


「だがな。。一番の問題は、醤油にしろ味噌にしろ魚醤にしろ。。出来上がるまでの時間がな。。」

 発酵食品の如何ともしがたい問題がそこにある。ブツブツと独り言を呟きながら馬を走らせていれば、いつの間にか港に着いていた。


 石造りの2階建ての建物が”漁師ギルド”だ。ギルドと名はついているが、冒険者ギルドや商業ギルドのように、漁師のギルド員が世界中をまたにかけ。と言うのとは少し違う。

 遠洋漁で国境を超える場合や、漂流・遭難し国境を越えた場合。また外国船との輸出入を行う場合など、頻繁には使わないが身分証が必要とする場合があるために存在しているギルドだ。

 ほとんどの漁師ギルド員は、万が一の為に登録しているだけで、ほぼ地元から出ずに生涯を終える者の方が多いだろう。貿易船で売り買いできるため、世界を渡る漁師は稀なのだ。


「公爵様自らお越しいただくとは。」

 ギルドマスターの部屋に通されると既にギルマスと漁港長が待っており、平身低頭で迎えられた。

「頭を上げてくれ。顔合わせの為に身分を明かしたが、今回は休暇を兼ねている。町では私の身分は伏せてもらえると助かる。」

 浜や漁師小屋も気軽に覗きたい俺としては、先手を打っておくにこしたことはない。


「では、どのような身分の者としましょうか?」

「ふむ。。既に昨日、妻と町歩きをした際に”軍人”と名乗ってしまってだな。。。だが、ここでは食材を探したいのだ。となると。。」

「では、軍の調理人としますか?」

 漁港長の提案だったが、調理師としてしまえば、素人の料理しか作れない俺だとすぐにボロを出してしまいそうだ。


「深堀されればアラが出てしまいそうだな。そうだな、海兵としようか。海軍ならば船での調理場は全員が順に担当するからな。多少料理に詳しくそして深くは知らないが、美味い食材を探していると言っても不自然さは。。少なそうだ。」

 と無理矢理そうではあるが、アイデアを出しておいた。二人も口裏を合わせてくれるそうだ。



 俺の設定を二人と擦り合わせて矛盾が出ないように打ち合わせること数十分。何とかそれらしい海兵が出来上がった。これならば今回の滞在中は何とか誤魔化せそうだ。


 そして二人に港を案内してもらう。

 大半の船は午前中に戻っており、既に漁で揚がった魚介類を市場に荷降ろした後だった。


「おう。にいちゃん。探し物かい?」

 少し遅くなったという漁船の主が船の上で魚を仕分けながら声をかけてきた。

 浅黒く日に焼けた肌にニカっと笑うと白い歯が際立つ。年の頃は50代位だろう。


「あぁ。美味い食材を探しているんだ。何か良い物は揚がったかい?」

 仕分けされていく大量の木箱を見て、かなりの豊漁のようなのだが、

「今日はさっぱりだったなぁ。」

 と答えが返ってきた。


「ん?かなり獲れているだろう?」

「あぁ。こっちは売り物にはならんのだ。足が早くてな。すぐに痛んじまうから、今晩食う分だけよけたら、あとはゴミだな。」

 そう言われてみれば、確かに青魚ばかりだ。


 というか、俺が探しているのは調味料にできる”青魚”なのだ。

 

「捨てるならば、売ってくれないか?」

『・・・・っ!!!』

 俺の一言に、漁師も漁業長もギルマスも。目をぱちくり。


「流石にこの量は食えんぞ?」

「保存もきかんしな。」

「魚介類の腹下しは辛いぞー。」

 3人とも俺を気遣ってくれたようだが、問題ない。


「まぁちょっと試してみたいことがあってな。まずは実験だ。」

 出だし好調過ぎてほくそ笑む俺の横で、変わり者を見る目の3人。だが、それもまぁ気にすることはない。失敗するかも知れんしな。


 大量の魚を分けてもらったのはいいが、そもそも何処で漬け込むかを考えていなかった。

 今日は話を聞くだけのつもりだったからだ。

「どうするおつもりで?」

「ウーム。。そうだな。これを塩漬けにして半年から1年で調味料になるかもしれんのだ。」

 それから、出汁を取るための鰹節。これはハードルが高い。かなりの技術が必要だったはず。なので、イワシっぽい小さな魚を煮干しにしよう。


 俺が頭の中で、工程を思い返していると、やっぱり不思議顔の3人。


「半年も甕を置いておくならば、倉庫が必要か。」

「だが、塩漬けの管理も必要だろう?」

 ギルマスと漁港長のもっともな指摘に俺も我に返る。モルディートの邸に持って帰れば問題ないが、漁港から離れれば離れる程、何かと効率が悪い気がする。できれば漁港付近に倉庫を借りたい。


「その調味料ってのは、美味いのか?」

「あぁ。もちろん。上手くいけばの話ではあるが、かなり料理の幅が広がるだろうな。もちろんレシピ開発も必要だろうが、ある程度は知っているのでな。基本は問題ない。」

「ふーん。で?倉庫を貸して管理もしてやるとしたら、どれくらいはずめる?」

 漁師が指で輪を作り、金の話をしてきた。

「そこは問題ないな。この費用については資金がある。それに、俺の知っている魚ではないから、全くもって実験段階だ。まずは失敗前提。上手くいけば儲けもん。って腹づもりなんだ。」

 いきなり売ってもらった魚を下処理段階で台無しにする可能性も高いので、保険をかけておこうかと言ったつもりだったのだが。。


「ならよ。うちに預けないか?母ちゃんが食堂をやってるんだ。まぁ近所の漁師仲間用の小さい店だがな。うちにゃ子供もおらんし、午後からは俺も母ちゃんもヒマしてるんだ。裏にゃ昔使ってた穀物倉庫があるしな。俺としちゃ、空いた時間で小遣い稼ぎできれば嬉しいんだが。」

 ニカっと笑って俺の顔を覗き込む。


「ほう。それは願ってもない話だ。二人はどう思う?」

 一応、目の前の男の素性を何も知らないので、知っているであろうギルマスと漁協長に尋ねれば、

「ゴードンなら問題ないだろう。ジジイにはなったが、体力もまだまだあるだろう。」

「確かにな。パメラもこういうのは好きそうだな。」

 二人の太鼓判に俺も一安心だ。


 

 善は急げで、早速魚を運ぶことにした。

 ここまで乗ってきた馬と護衛騎士の馬があるので、漁港に備え付けの荷車を借りた。

「従者がいるのか?」

 俺の身分を知らない漁師ゴードンにギョッとされたが、

「あぁ。俺は海兵でな。こいつは同僚だ。」

 という取ってつけた身分を言っておいた。ちなみに、塩漬けをする甕と大量の塩は違う護衛騎士に至急手配するように言いつけて既に走らせている。


 漁師ゴードンの案内で、町と港の中間点辺りに小さな石造りの店があった。

 カランコロン。

「いらっしゃーい。」

 ドアベルと共に快活なおばちゃんの声。

「ただいまー。お客だぞー。」

 ゴードンが奥に声をかければ、「ちょっと待っとくれ。」とやっぱり元気だが温かい声が返ってくる。


「へえーそうかいそうかい。そりゃ有り難い話だねぇ。」

 俺の話を聞くとおばちゃんは嬉しそうに快諾してくれた。もちろん横にギルマスと漁業長がいるのも後押しになってくれたのだろうが。


 ゴードンに連れられて裏の倉庫を見に行けば、俺が想像していた以上の広さがあった。

「昔は、商人ギルドにも登録しててな。漁が無い時期は近隣の村に穀物を買い付けに行ってたんだ。今はもう体力がな。」

 そう話してくれたゴードンだが、一人で荷馬車2台分を10日間かけて往復していたらしい。その間、護衛などいるわけもなく、夜間は一人で寝ずの番に近いことをしていたらしい。とんでもない”体力”だ。


 塩と甕が届くまでの間、ゴードンは倉庫を掃除してくれるらしい。

 俺たちは食堂に戻る。


 既に店は終了しており、下準備をおばちゃんが手伝ってくれるという。

「これはどうだい?」

 十種類以上ある魚を少しずつ食して、何にしていくかを考えねばならない。

「うん。これは。。モチガツオに近い味だな。。生食もかなり美味いが。。タタキにしたいな。。」

「おっ。これは。。鯖だな。ならば。。」

「なにっ?イワシの見た目をしておきながら、とても食えたもんじゃないな。」

 見た目と日本で食してきた魚の味が合致しない物が多い。味は合格だが肉質が違い過ぎる魚もある。

 これは実験していくしかないだろう。


 一つ一つ魚を選定しつつ、おばちゃんにそれぞれの下処理を指示していけば、ギルマスも漁業長も流石は海の男。手慣れた手つきでどんどんと魚をさばいてくれる。

「ふんふん。内臓を取るんだね。。」

「ふんふん。煮崩れしないように火を通すんだね。」

 おばちゃんことパメラは下処理をメモを取り、俺は実験のために下処理の違いをメモをしていく。


 もう少しで大量の魚が捌き切るというところで、塩と甕が届いた。


「あらまぁ。こんなに?随分とお金が掛かったんじゃない?」

 パメラは甕や塩を数種類ずつ買ってきた俺の懐を心配してくれた。

「美味いものを追求するのに、最初からケチっては良い物はできませんよ。」

「あらぁ。良いこと言うわねぇ。気に入ったわ。」

 パメラは俺の背中をバシバシと叩いて何だかんだで認めてくれたようだ。



 まずは塩水を作り、いくつかの魚を漬け込んでおいた。

 そして煮干しや鰹節候補の魚を煮る間に、塩漬けを漬け込んでいく。


「こんなに塩を使っちゃうの?辛くならない?」

 パメラは塩漬け魚を食べるつもりのようで、心配そうに俺の手元を見ているが、

「これは調味料になるんですよ。魚のまま食べるわけじゃないので、安心してください。」

 そう聞いても今度はこんなしょっぱいものをソースにするのかと不思議顔。まぁ出来上がってからのお楽しみだ。


 塩漬けと並行していた煮熟や塩水付けも次の行程に移っていく。


「はぁ~。終わったぁ。」

 全ての作業が終わったのはすっかり日が暮れた頃だった。平行作業もしつつだったので、店と倉庫を行ったり来たりしつつ、干物もあったので、外にも出て、何往復したかもわからない。

 だが出来上がった量を見れば達成感もある。

「お疲れさん。」

 ゴードンがお茶を出してくれた。

「ありがとう。」

 貴族じゃダメだろうが、今は海兵のふり中。ゴキュゴキュと本能の任せるままにジョッキで出してくれた茶を飲み干した。


「これで失敗したら目も当てられんぞ。」

「だが、成功できるかもしれんだろう。楽しみでもあるな。」

 ギルマスと漁業長も久しぶりに”初めて”の作業をしたらしく、「少年に戻った気分だ。」とかなんとか言って笑っていた。


 カランコロン

「お待たせしました。」

 そう言って店に来たのは、うちの料理人だ。両手に一杯の箱を持ってきた。

「・・・なんだい?」

 パメラが首を傾げた。

「もうこんな時間ですし。同僚に弁当を作ってもらったんですよ。食堂をやっているプロに失礼かと思いましたが、たまにはいいでしょう?」

 俺なりのお礼のつもりだ。この時間から自分たちの分だけとは言っても料理を作るのは大変だろう。


「まぁまぁ。嬉しいじゃないの。助かるねぇ。」

 パメラは本当に喜んでくれたようで、満面の笑みで包みを開けたのだが。。

『・・・・っ!!!』

 全員が固まった。

「・・・どうか。。しましたか?」

 特に変わったところはない弁当に、俺の中で?が付く。モルディート出身の料理人に作らせたからこちらの食性も間違ってはいないはずなのだが。。何か庶民には縁起の悪い食材でも入っていただろうか。


「・・こっ、こんな豪華なもん。」

「食ってもいいのだろうか?」

「どこのお坊ちゃんだい?」

「流石に。。。これは。。」

 皆の様子を見るに、貴族料理に驚いたようだ。つか、俺の中ではこちらの世界の庶民料理がイマイチピンと来ないのだが。


「あぁ。こいつは貴族邸でコックやったりしてたもので。今日の礼に奮発してくれと頼んだんですよ。・・・な?」

「・・・え?・・・えぇ。そうなんですよぉ。たまには腕を振るわないと鈍ってしまいますから。」

 突然の俺のフリにモルディート邸のコックも慌てて話を合わせてくれ、

「そうかい?それじゃあ遠慮なく。ね。」

 とパメラとゴードンは納得して食べ始めた。が、ギルマスと漁業長はなんとも言えない微妙な顔を俺に寄越しながら食べることにしたようだ。


 俺も一緒に弁当を手に取った。

「ところで、ゴードン殿は穀物の売買をしていたと聞いたが、何を取り扱っていたのだろうか?」

 良く煮込まれた肉を放りこみながら気になっていたことを聞く。

「そうだな。。人間用も家畜用も頼まれれば何でも。ってところだな。穀物類とかコーンとか豆類とかな。」

 いくつか名前を出しながら説明してくれたのだが、こちらの名前ではイマイチピンと来ないが、とりあえず味噌を作れるかもしれない。


「当時の伝手は今でもあるだろうか?」

「ん?そりゃぁな。今でも店で使う分は買い付けに行くからよ。」

「そうか!では、もしかすると、そちらも頼むかもしれない。倉庫もまだ空きがあるから、違うものも作っても良いだろうか?」

 願ってもない話が転がり込んだ気がして、思わず前のめりになってしまった。


「あぁ。もちろんだ。倉庫は好きに使ってもらって構わんしな。」

 という事で、交渉成立しそうだ。だが、味噌作りに必要な麹菌が無い。確か麹無しで味噌を作ろうとすると2~3倍の時間がかかっていたような気がする。。

「ちなみに、倉庫の使用期間だが。。」

「どうせ使う予定もないんだから、賃料をくれるんならいつまででも構わないよ。」

 パメラも了解してくれた。

「ならば、倉庫の年間使用料がこれくらいで。。管理料が。。」

 メモに書いていくと、見る見る二人の顔が固まっていく。。今度は何が問題だったろうか。


「そっ。そんなにもらう訳にはいかんよ。」

「そうそう。失敗するかもしれないんだろう?お金は大事に使わないと。」

 何故か小銭稼ぎすると言っていた夫婦が金額に尻込みしてしまったようだ。

「問題ないさ。もしも上手くいけば、国王に献上するかもしれないだろう?儲けはそっちからいただくさ。」

 俺としては本音だし本当のことなのだが、あまりの次元の違いに、二人は冗談と捉えた。

 が、その後ろで、ギルマスと漁業長が青ざめているのはそっとしておこう。彼らは俺の身分から本当に陛下に献上すると分かったようだ。



 さてと、俺としては充実した一日となった。午前中には俺の料理を振る舞う約束も果たせたし、午後からは食材探しができるように話を付けるつもりが、食材の仕込みまでが済んでしまったのだ。しかも味噌の方も手配できるかもしれないところまでこぎつけたのだ。


 これからの作業を少し詰めて食堂を出るころにはとっぷりと夜は更けていた。

 カポカポと小気味よく馬を走らせながら、独り言。 

「あとは、昆布やワカメとかの海藻類と、ホタテとかの貝類だなぁ。」

 空には美しい三日月が輝いている。

 

 夜も更け、馬の手綱を握る身体は疲労が溜まっているが、今後を思えば楽しさしかない。

 こうした実験は医学生時代、大好きだった。研究者の道に進むことを考えたこともあるが、両親を想い、最前線で患者を救う道を選んだのだ。

 扱っているのが”食材”ではあるが、数々の行程を踏むのは同じ。結果を待つ時間も楽しいものだ。それが失敗であっても次の糧にもなる。

 一応、国王陛下の事を考えれば、尋常じゃない時間がかかることを伝えていないので、叱られそうな気もするが、待てば待つほど美味くなるのも事実。我慢してもらおう。



「ただいま戻った。」

 屋敷に帰れば遅い時間にも関わらず、マーガレットやシャルル達が出迎えてくれた。

「おかえりなさいませ。」

 マーガレットの声は相変わらず掠れてはいるが、順調に出てくれている。

「おかえりにゃ。・・・・にゃっ!!!」

 そしてシャルルは。。。俺の手にぶら下がった荷物に過敏に反応した。


「にゃーご。。にゃー。。。ごしゅじんさまぁ。。これは。。。いい匂いがするにゃぁぁぁ。」

 堪らず俺の足に擦り寄ってくる。

「ははっ。昼の詫びだ。漁師から獲りたての魚を譲ってもらった。明日の朝でもいいし、今からでも食べられるなら食べて良いぞ。」

 紙に包まれたそれをシャルルに渡せば、

「ごしゅじんさまに一生付いていくにゃぁぁっぁ。」

 とか言いながら、既に包みを持ってどこかに行ってしまった。


「言ってることと行動が矛盾しているな。」

「待ちきれないのですわ。」

 俺が呆れてシャルルの背を見ていると、マーガレットは優しく微笑む。

 これが自分たちの子であったのなら、彼女はとてもいい母親になりそうだ。とつい思ってしまった。


「一応、今のはシャルル用の包みだ。皆の分は別で運び入れたから、明日にでも食べようか。」

「はい。」

 そんな会話をしながら、今日も平穏な一日が終わっていく。



 さて。明日からは何をしようか。そんなことを思いながら眠りにつく俺なのであった。

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