48.モルディートデート初日
マーガレットの気持ちを聞くことができ、彼女の声が出たことで、それが夢のようで。。
なんだかふわふわと地に足がつかないような気持ち。年甲斐もなく浮かれてしまったようだ。
少し落ち着けば、あまりにも二人の世界に入ってしまっていたようで、周りの喧騒が耳に入ってくるようになった。
俺たちの捕り物劇に称賛をくれる声。あまりにも熱々な二人を揶揄う声。そして幸せそうにする俺たちを祝福してくれる声。。
だが、冷静さが戻ってくると。。。。そりゃあまぁ恥ずかしいわけで。マーガレットなど顔だけでなく腕まで赤い。
「君の気持ちを知れたのが嬉しいんだが、これではな。。。続く愛の言葉は屋敷に戻ってからでいいかな?」
彼女の耳元でそっとそう囁けば、彼女の顔はさらに赤くなった。けれどそんな彼女も可愛らしい。
「さて、昼飯でも食べに行こうか。」
恥ずかしさに顔を赤らめる彼女の手を取って立ち上がらせると、コクンと頷き俯いたまま歩き出すことになった。
「あの武具屋のおやじが頑固でなぁ。気に入られないと、ナイフの1本も売ってくれないんだ。」
「あっちの鍛冶屋のじいさん、子供の頃にちょっと頼み事したら、俺の事を公爵家の嫡男と知っていながら、こき使われてな。。まぁおかげで刃物を研ぐくらいは自分でできるようになった。」
「あそこの宝飾店の主人はこの町一番の美人なんだが。。。実は男だ。怒らせると男よりも男らしく怒鳴られるから気を付けろ。」
「そっちの文具屋のおじさんとおばさんは、すごく面倒見が良くてな。。だが二人とも元冒険者なんだ。町で何か困りごとが出来たら寄るといい。何でもないようなことでも相談にのってくれる。」
カフェまでの道中、あっちこっちと店を指し示しながら話していけば、クスリと笑ったり、うんうんと聞いてくれたり。基本的に一方通行のおしゃべりであるが楽しいデートだ。
「おっと。。さっきはサングリアを飲み損ねたが、そこで買っていくか?」
軒先でテイクアウト用のドリンクを売っている店を見つけた。
(もうすぐですから。)
フルフルと首を横に振った彼女の口からは、少し息が漏れ、ところどころ声になっている気もする。
そうして着いた目的地のカフェなのだが、流石人気店というか。。長蛇の列。
予約しているはずなのだが、列に並ぶのか、店員に聞くのか迷い、
「ちょっと聞いてこようか。」
と言って手を離しかけて、
「離れてはダメだよな。。またさっきのようになるといけない。」
慌ててギュッと握り直した。ちょっと離れた隙に危険が無いとも限らないからな。
二人で扉まで行けば、行列の視線が痛いのだが、そこは聞かねば埒が明かない。
「すみません。予約していたベルですが、並べばいいんですかね?」
ちょいちょいと長蛇の列の後方を指させば、
「いえいえ。予約の。。。ベル様。ですね。伺っております。ご案内しますね。どうぞ。」
と言ってそのまま奥へと案内してくれる。
「自慢のテラス席なんですが、日差しが厳しいようならパラソルを出しますので、遠慮なく言ってくださいね。」
店員がそう言ってくれたので、彼女に聞く。
「マーガレット。だそうだ。どうする?パラソルを借りようか?」
(せっかくの海ですし。。ヨランダ様が作って下さった”日焼け止め”を塗ってきております。)
そう言って彼女は頬にクリームを塗る様な仕草をした。
「妻が海が初めてでして。一応パラソル無しで景色を楽しみたいようです。もしダメなようならまた後でお願いするかもしれませんが、大丈夫ですか?」
「もちろんです。奥様想いなんですねぇ。。ではこちらですね。こちらのお席は本日貸し切りと伺っておりますので、お時間を気にせずごゆっくりとお楽しみください。」
案内された席はテラス席の一番奥。少し窪んだ4人掛けの席で、他の席から丁度見えにくい場所。確かに貸し切りっぽい。予約をしてくれた使用人に感謝だな。
さらにテラス席から見渡す海の美しいこと。。
太陽に照らされた海は浅瀬から沖合に美しい青のグラデーションを見せ、浜の白さを際立たせる。
潮風も心地いい。時折遠く聞こえてくる船の汽笛がさらに旅行気分を上げてくれる。
そして料理は既に予約済みだが、飲み物はその時の気分があると思い別で注文することになっていた。
「俺は地ビールにするが、マーガレットはどうする?ブルーカクテルは観光客に人気だが。。。」
(これにします。)
せっかくのおススメを提示したのだが、彼女が指差したのは苦みが強いフルーツカクテルジュースだった。
「それは。。パイン色しているが、デリナ草が混ぜてあって、かなり苦いぞ?せっかくのバカンスなのだからもっと美味しいものをだな。」
(はい。知っています。だからなのです。デリナ草は喉にとってもいいんです。せっかく先ほども声が出ました。あれから声を出そうとしていますが、息が出るばかりで。。喉に良いものを飲めば少しは。。もっと旦那様とお話を。。。御迷惑でなければ、してみたいのです。)
ちょっと隠しながら書いたメモを恥ずかしそうに差し出されて。。そんな仕草が愛らしくてたまらないのに、さらにその中身でこれでは。。萌え殺されるのか。と本気で思うほど俺の妻が天使。。
注文すれば店員も同じことを言ったが、マーガレットはすかさずポシェットの刺繍を見せて喉を押さえれば、店員も納得した様子。
「であれば、メリナの種も入れてきますね。プルンと周りがゼリー状でツブツブ食感が面白いんですけど、風邪の喉にすっごく効くんです。」
店員の提案にマーガレットは嬉しそうですごく元気に頷いていた。
二人で料理を待つ間。
(あの店員さんは、とっても物知りですね。デリナ草もメリナの種も喉に良いと言うのは、薬草学の本に少し書いてあるだけなのです。)
マーガレットのメモにふむふむと納得する。確かにかなりの種類の本を読破しているアルベルトの記憶でさえピンと来ていない話だ。
デリナ草を使ったドリンクは一般的なのだが、二日酔いなどに効くとされて出回っているのだ。
そして料理を運んでいる時にそのことを店員に問えば、祖父が薬草を取り扱っているとのことだった。詳しいわけだ。そして隣で薬草店を営んでいるとのことで、帰りに寄れば、喉に言いお茶を調合してくれるだろうとのこと。まさか隣とは。有り難い話だ。この店は店員の彼女の父の店だそう。なので、ハーブティなど薬草を使ったお茶なども種類が豊富だったらしい。
庶民のカフェであるのに、料理は簡単なコースになっていた。
前菜もあるし、スープもある。メインはボリュームのあるサンドウィッチ。この辺りで不安が出た。かなりボリューミーなのだ。
小食のマーガレットには多いのでは?と。
「マーガレット。まだデザートもあるらしい。もしも多いようなら残してもいいんだ。」
(・・でも。。せっかく作っていただきました。。お残しは失礼です。。頑張りますから。)
メモを見て思わずため息。。既に”頑張っていた”のか。。気付くのが遅れてしまった。
「大丈夫だ。残すのが問題なら、俺が食べる。これくらいなら2人前くらいは食えるぞ。」
自信を持って言ったのだが、かえってマーガレットは驚きながら首を振ってしまった。
(旦那様に、私の食べた残り物なんて。。。いけません。)
そう言ってまだ半分以上残っているサンドウィッチを慌てて手に取るが、それを口に運ぶわけでもなく動きが止まっている。
「だから、余裕があるならもちろん食べて欲しいが、無理は無しだ。ほら、デザートはあのサイズだぞ?既に味が分かっているサンドウィッチを食べて、あのデザートを諦めるか、あちらのデザートを楽しむか。。どっちにする?」
少し離れたテーブルに丁度出されたデザートプレート。ケーキやアイスクリーム、ゼリーのようなものも乗っている。
マーガレットはサンドウィッチを置いて、膝に手を置いて、
(デザートも食べたいです。)
と何故か泣きそうになりながら答えた。
「ははっ。で?正直なところ腹は何分目だ?」
(もういっぱいです。。余裕は。。もう無いです。)
唇に少し力が入り困ったようにもじもじしながら書くメモ。そこがまたいじらしくて可愛らしい。
「じゃこれは俺が貰ってもいいな?」
(・・・はい。ごめんなさい。)
「謝ることじゃないだろう?デザートも食べたい物を食べれる量だけにすればいい。」
(ありがとうございます。)
少し心がラクになったのか、僅かに微笑んでくれた。ということはやはり無理をしていたのだろう。
パクパクっとマーガレットのサンドウィッチを平らげ、デザートも美味しくいただく。
マーガレットは最初からデザートは半分残すことにしたようだ。先ほどの食べかけのサンドウィッチを俺に食べさせることにならないように配慮したのか、プレートの端に自分の食べる分だけを取り分けていた。もちろん残した物は俺が美味しくいただいた。
「ふぅ。美味かったぁ。これは家でも作れるか?いや、ドレッシングがな。。。」
姿勢を崩して背もたれに身体を預けてリラックス&独り言を呟いて、ハッと我に返る。ここ日本じゃなかったぁ。しかも今は公爵だったぁ。あまりにも心地よいカフェの雰囲気に流されて気を抜きすぎてしまった。
慌てて姿勢よく座りなおしてみるものの。。
クスっ。
マーガレットが柔らかく笑っている。
(ごゆっくりなさってください。)とメモももらってしまった。
「あーすまない。つい気が緩んだ。今のグダグダの姿は忘れてもらえると助かる。」
(あのお姿は”ぐだぐだ”というのですね。とてもリラックスしていらっしゃるご様子。私しかおりませんからもう少しぐだぐだ?としてくださいませ。)
「いや。参ったな。。そんな言葉も覚えなくていいから。庶民が使う言葉だったから。」
(どうぞ。)
頭をかく俺の横で、手でそっと促してくれる嫁。。マジで恥ずかしい。口調を崩すと田之上信二が多めに出てきてしまうようだ。
そんなやり取りをしつつ、食後のお茶も堪能すると、すでに14時を過ぎていた。
「さて、もう歩けそうか?」
おなかがいっぱい過ぎて苦しそうにしていたマーガレットも多少は消化が進んだ頃合いだろうと思い声をかければ、コクンと頷きが戻ってくる。
「さぁ。」
立ち上がろうと手を差し出した時、彼女の眉が少し動いた。
「どうした?」
そう聞くが(なんでもありません。)と首を横に振る。気のせいかと思ったのだが、一歩目を踏み出せば、一瞬手に力が入った。
「やはりなんでもないことはないだろう?どこか痛んだりするのか?」
そう聞くがフルフルと首を振るばかり。足を動かし始めて顔をゆがめたのだから、足なのだろうと推測する。一休みして歩き出すときに溜まっていた疲労が痛みとなったのかもしれない。
そう思いもう一度彼女を椅子に掛けさせてその前に跪く。そっと足を持てば。。
「靴擦れしているじゃないか。。」
かかとの上が赤くなり、左足は皮が少し剥けてしまっている。
(大丈夫です。歩けます。)
そう言って足を隠そうとするが、すでに確認しているのだ。無かったことになるわけがない。
「しまったな。。回復薬は護衛者に持たせてしまっていてな。少し我慢してくれ。」
そう言ってチーフを引き裂き、足首に巻いた。が、
「これでは靴は履けないな。」
絆創膏ならば靴が履けたものを。だが、ついニンマリしてしまう。。。これを口実に彼女を抱きかかえられるな。と。
「さぁ。行こうか。」
そう言って颯爽と彼女をお姫様抱っこすれば、彼女の顔が真っ赤に染まる。
(まさか。。。このまま?)
「もちろんこのままだ。悪化してはいけないからな。暴れると落ちるぞ?」
アルベルトの身体は細身に見えるが十分に鍛えられており、彼女の身体など重くもない。
「まぁ。どうかなさいましたか?」
席を立ち上がれば当然目立つわけで、店員が飛んできた。
「彼女が靴擦れをしてしまったから、歩かせるわけにはいかないだろう?だから今日はこれで行く。靴は後から取りに来るから預かっててくれ。あとは。。席はもう開放してくれてかまわない。」
「・・・王子様。。」
どこからともなく、女性人たちが俺のことをそんな風に言うのが聞こえるが、王子じゃなくて公爵なんだがな。と冷静に分析しつつ店をあとにする。
とはいっても、隣の薬草店にすぐに入るのだが。
カロン。
「いらっしゃい。」
小気味いいドアベルが鳴ると奥から小さなメガネをかけた老人が出てきた。
「隣のカフェでこちらを勧めてもらってね。少し見せてもらえるだろうか?」
「ならば、お嬢さんはこっちにお掛け。」
そう店主が椅子を出してくれたのだが、
(私も。。。見たいです!!)
と抱きかかえられている羞恥も忘れて、薬草に目が向いているマーガレット。
「お気遣いありがとうございます。ですが彼女も一緒に見たいようなので。」
「ほっほっほ。若いもんは良いのう。」
などと微笑ましく見られてしまった。
「マーガレットは薬草に詳しいのか?」
(図鑑だけですが、好きです。)
「だが、石もそうだったが、図鑑だけとはいえかなり博識だったろう?」
(実家には祖母の本がありましたから。)
そんな話もしつつ、店内を見ていく。
「何か欲しいものがあれば遠慮なく、な?」
(良いのですか?)
「もちろんだ。」
マーガレットは嬉しそうに顔をほころばせるのだが。。抱きかかえているため、顔が。。。俺の顔のすぐ横で。。俺だけが心拍数を上げているようでなんだか集中できない。
彼女はのどを触り、俺の顔を覗き込んだ。
「のどに良い薬草か?」
コクンと返事。
「ほうほう。声はどうして出ないのじゃ?」
俺たちの会話を聞き、店主に尋ねられると、マーガレットが固まる。それもそうだ。理由を言えるわけがない。
「私が彼女に一目惚れしたのだが、彼女の気持ちを無視して強引に奪って来てしまって。さらにその上、私の感情を押し付けて。。だから。。。」
「心因性もあるのじゃなぁ。ならばな。。」
俺の重い告白をさらっと受け流し、店主は棚の薬瓶を探し始めた。
マーガレットは慌てて椅子を指し示し、座らせると急いで何かを書き始めていた。
「ふむ。。お嬢さんは酸っぱいのは平気かの?」
店主の問いかけにコクンと頷くと同時に書いたメモを渡した。
(きっかけはそんなこともあったのですが、今はとても大切にしてもらっているのです。旦那様はとってもお優しいのです。。だから声も出そうなんです。掠れているだけなんです。ですから、掠れが治れば声はきっと出るのです。)
彼女は前のめりに店主に向かって喉を押さえていた。
「ほっほっほ。分かっておるよ?そう心配なさるな。店に入ってきたお二人さんを見れば、今の関係が良好なのは良ーく分かっておるからの。じゃが、心根が優しすぎて、こうやって人の事ばかり心配してしまうお嬢さんだからこその調合があるのじゃ。ワシに任せておきなされ。」
店主は柔らかに微笑むと、マーガレットの肩をトントンと優しく撫でて、また薬瓶へと向かってしまった。
(私のせいで。。ごめんなさい。)
マーガレットは喉を押さえて今にも涙が零れそうになりながら俺を見上げた。
「君が謝ることなど微塵もない。全ては俺が。」
(いいえ。。私が。。)
フルフルと首を振る。
「まぁまぁ待ちなされ。今は仲直りしたのじゃろう?ならば過ぎ去ったことよりも、治ったあとの楽しみを考えなされ。ほれ。できたぞい。」
そう言って店主は山盛りになった乾燥葉っぱをずいっと前に出した。
「・・・ちょっと、多くないか?」
「薬草茶は初めてかの?こういうのは続けてしばらく飲んでこそなのじゃ。2週間は飲まねばな。一応ひと月分を作っておいたでのぉ。さて、味見に一杯馳走しようかのぉ。味が苦手ならば、もう少し調合できるでの。」
いつの間に火にかけていたのか、ちょうど鍋の湯が煮立っており、そこにぱさぱさっと調合された薬草を入れていた。
「薬草茶は水から入れて煮出しものもあるが、これは煮立った湯に入れて3分ほど煮るのじゃ。かき混ぜずに時間になったら濾して飲めば良いぞ。健康な者が飲んでも良いから、おまえさんも飲むと良い。一回分でティーカップ2杯半はできるでの。」
作り方を説明してくれているうちに、出来上がった茶を出してくれた。
すぅぅっぅ。
湯気が立つカップの香りを嗅げば、思っていたような煎じ薬のような薬臭さは無く、独特な香りはするものの、ハーブティなどと言われればそうかもな。と思う程度。
「ふむ。。香りは大丈夫か。味は。。。」
熱さを見ながらそっと飲めば、酸っぱさはあるがハーブティくらいの味だ。色々な薬草が入っているから複雑な感じもするし、ハーブティに詳しいわけじゃないので表現しにくいが、十分飲める。
マーガレットも熱さを気にしながらそうっと飲むと、小さくうんうんと頷いてふわっと笑みになり、
(おいしいです。)
と口が動く。
「彼女も気に入ったようだ。」
「そうかそうか。それは何より。この花が酸っぱいのでな少し心配しておったのじゃ。毎日飲むと気になるかも知れぬし、味に飽きるかも知れぬでな。砂糖を入れても構わぬが。。ミルクはダメじゃからな?」
「はい。」
(はい。)
と二人で頷いておく。
「ふむ。。砂糖が良いなら、はちみつやジャムはどうだろうか。」
ふと思いつきを聞いてみた。ロシアンティーも良いかもと。
「ほう。はちみつか。高級すぎて頭に無かったのう。もちろん大丈夫じゃが。。ジャムとは。。合うかのう?」
少し不思議そうに”味”の心配をしている店主。ならば、ジャムも大丈夫かもしれないな。
「紅茶にジャムを入れる地方があるんだ。美味くてクセになる。」
「ふむ。そうなのか。。じゃが、ジャムはベリー系ならば問題はないが、柑橘類のジャムは避けてくれ。薬草の効果を打ち消すでのう。」
「了解だ。」
店主との話をしていると、マーガレットはメモを取っていた。
そうして薬草茶を無事購入した頃には、もう夕方に差し掛かる時間帯だった。
「もうこんな時間か。すまなかった。随分長居してしまったようだ。」
俺が頭を下げると隣でマーガレットも頭を下げた。
「よいよい。他の客も来なかったでな。薬草屋がヒマな事は良いことじゃ。病人も怪我人もおらぬ平和な日であった証だからのう。」
そう言ってやっぱり柔らかな笑みを零してくれる店主。そしてマーガレットの足にと軟膏をくれた。
店を出れば護衛騎士と合流でき回復ポーションがあるので要らないのだが、薬草に興味津々なマーガレットに使用した薬草のレシピが渡され、嬉しそうにしているので貰っておくことにする。
断りをいれ、その場で軟膏を塗らせてもらい、残りは持って帰ることにする。
新しいチーフを巻きなおしていれば、
「手際が良いのう。」
「軍人なもので。前線では傷の手当ても日常茶飯事です。」
「そうかそうか。だからお嬢さんを抱きかかえても平気なのじゃなぁ。」
微笑ましく見送られながら薬草店を後にした。
「今日の所は帰ろうか?」
(はい。)
マーガレットの了承も得たので、馬屋へと向かう。もちろん彼女は俺が抱えてだ。
預けてある馬を引き取ろうとして、店の裏に繋がれている馬に目が行った。厩舎じゃなく一匹だけポツンと裏口の木に繋がれていたのだ。
俺の馬を連れてきた店員に
「なぜあのポニーはあんな場所に繋いているんだ?」
「・・・・???・・・ぽにい?」
俺の質問に首を傾げる店員。だが同じ馬を見ているのは間違いない。
「あぁ。あのポニーだが?」
「あれは。。ただの馬ですよ?」
「もちろんそうだが。。あれは仔馬でななく、ポニーだろう?」
「・・・???」
話が噛みあわずどうしたものかと思っていると、
「どうかなさいましたか?」
と身なりのいい男がやって来た。
「いや。問題はないが、あの馬はどうしたのかと思ってな。ポニーとはいえ厩舎に入れないのは何故だろうかと気になってな。」
すると、
「・・・ぽにい?」
先ほどの店員と同じように首を傾げてしまった。
「ふむ。。私の知っているポニーと種類が違うのだろうか。。」
とブツブツ独り言を呟けば、
「・・っ!!!あれに名があるのですか!!」
そう言って男が詰め寄ってくる。
話を聞けば、彼は店主だった。しかもポニーにそっくりな馬は突然変異のようで、大人になる気配もなく成長が止まってしまい、貸し馬ともできないし、だからと言って仔馬のような大きさの馬では農耕馬にもならず、買い手もつかない。エサ代も馬鹿にならないので、そろそろ処分しようかと思っていた矢先だったそうだ。
「ならば私に売ってはもらえないか?見ての通り妻が靴擦れをしてしまって歩かせたくないんだ。この馬ならば、彼女を乗せても街中は歩かせてもらえるだろうし、あれなら妻を座らせても私と会話できる高さだしな。」
「ほっ本当でございましょうか?買っていただけると?」
「あぁ。できれば購入したいのだが。。」
「ありがとうございますっっ!!」
余程困っていたのか、満面の笑みで商談は成立した。
そして、今購入したばかりのポニーにマーガレットを乗せて俺が手綱を持ち歩いて帰ることにした。
もちろん朝に乗ってきた馬は、こっそりと警備してくれている警備騎士に屋敷まで連れ帰るよう指示をしておいた。
「どうだ?怖くないか?」
コクンと頷いてくれた。少し笑みもあるから実際に恐怖は感じていないようだ。
「せっかくならば、のんびり帰りたいところなのだが。。今日の穏やかな海であれば俺の部屋から見える夕日が美しいのだ。まだ暫く滞在するとはいえ、見えるときに見せておきたい。」
(楽しみです。)
彼女の返事を聞きながら、少し歩みを早くして家路につく。
彼女が靴擦れをしてしまったが、初日としては十分だったろう。あまりに欲張ってしまえば、彼女が疲れてしまうだろうからな。
帰り道もあれやこれやと一方通行であるが、店や海の説明などしながら歩けば、幸せが続きすぎてこの時間が遅く進めばいいのに。などと少女漫画のヒロインのような発想をしてしまう俺なのであった。




